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2010年08月04日 (水)
みなさんお久しぶりです、にゃおです☆
ようやくお家にネットが入りましたーっ!
昨日は接続するだけで疲れてしまって、まったくなんにもできなくてごめんなさい。
えーっとですね。ちょっと最近悩んでおりまして。
にゃお、この春に転職したのです。
そこの仕事の同僚というか、前から働いてる先輩で、年下の男性なんですが、にゃおに仕事を教えてくれた人がいるんです。ミスしても慰めてくれてかばってくれて、日々の愚痴やなんやかやも訊いてくれるし、
すごく優しくて気配りもしてくれるし、とってもイイ人なんです。
その人が最近「どこどこにいいお店あるよー。よかったら一緒に」的なお誘いをくださるようになりまして。
にゃおにダーリンがいることを重々承知の上で同僚として誘ってくれているのでしょうし、それは勿論喜んで!なんですが。
その人が最近、自分の飲みかけのペットボトルを「飲みますか?」って差し出してくるようになってきて。
うーんと、そういう意味はないのかもしれません。ないのかもしれませんが、でも異性ですし、直接接触ではないにしても、ちょっと…って思っちゃうのです。
一回目は断るのが申し訳なくってそっと一口だけ飲んだんですが、そのあとどうにも気が重くて。なので、今日は断ってしまったんですね。
ちょうど仕事が重なっててそっち優先!的な態度でなんとかやり過ごしたんですが…
これって今後はどう対応したらいいんでしょう。
その人にはそんなつもりはないのかもしれないし、でもにゃおはちょっとそういうの苦手だし…
ちょっと今、にゃお困っています。
とまあ、そんな話はこっち置いといて。
お言葉いただきましたーーっ
ようやくお家にネットが入りましたーっ!
昨日は接続するだけで疲れてしまって、まったくなんにもできなくてごめんなさい。
えーっとですね。ちょっと最近悩んでおりまして。
にゃお、この春に転職したのです。
そこの仕事の同僚というか、前から働いてる先輩で、年下の男性なんですが、にゃおに仕事を教えてくれた人がいるんです。ミスしても慰めてくれてかばってくれて、日々の愚痴やなんやかやも訊いてくれるし、
すごく優しくて気配りもしてくれるし、とってもイイ人なんです。
その人が最近「どこどこにいいお店あるよー。よかったら一緒に」的なお誘いをくださるようになりまして。
にゃおにダーリンがいることを重々承知の上で同僚として誘ってくれているのでしょうし、それは勿論喜んで!なんですが。
その人が最近、自分の飲みかけのペットボトルを「飲みますか?」って差し出してくるようになってきて。
うーんと、そういう意味はないのかもしれません。ないのかもしれませんが、でも異性ですし、直接接触ではないにしても、ちょっと…って思っちゃうのです。
一回目は断るのが申し訳なくってそっと一口だけ飲んだんですが、そのあとどうにも気が重くて。なので、今日は断ってしまったんですね。
ちょうど仕事が重なっててそっち優先!的な態度でなんとかやり過ごしたんですが…
これって今後はどう対応したらいいんでしょう。
その人にはそんなつもりはないのかもしれないし、でもにゃおはちょっとそういうの苦手だし…
ちょっと今、にゃお困っています。
とまあ、そんな話はこっち置いといて。
お言葉いただきましたーーっ
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2010年08月07日 (土)
その話題が出たのは、なし崩しにお昼タイムに入って十分くらいしたところだった、と思う。
「一回スッキリしたワケだし、先にメシ食おうぜ。俺ぁ腹減ったよ」
「本能だけで生きてるんだな、おまえは」
ムードもへったくれもない藤元先生の言葉とそんな藤元先生に呆れ顔の佐上先生は、使い終わったウェットティッシュをポリ袋に放り込むと、言葉とはうらはらに仲良く立ち上がった。二人の後ろ姿を一瞬ぼおっと見送りかけてから、あたしも慌ててブラウスのボタンを留めた。脱ぎ捨てられていたショーツを穿き直して髪を手櫛で整えながらテーブルに向かう。パイプ椅子を引いて座ると、テーブルの上の大きなコンビニ袋の中身をガサガサと探っていた藤元先生が顔を上げた。あたしを見てニカっと笑った。
「ほい。これ、芝口のな」
あたしの大好きな、野菜たっぷりサンドとソーダをゴツイ手が目の前に置いてくれる。その横に次々と並ぶ、コロコロチーズのソフトフランスパンと、ツナタマサンド、明太子とテリヤキチキンの変わりむすびが一つずつ。遅れて出てきた、五種の野菜のマカロニサラダとシャキシャキレタスのサラダパスタと、点心盛り合わせセット。点心盛り合わせはぱかっと開けられて、あたしのいつもの取り皿になった。
「あ、ありがと」
「おー」
嬉しそうに頷きながら、藤元先生はミックスフライ弁当のパッケージを開けた。
「さぁてと。メシメシ」
鼻歌でも歌いそうな顔でぱちりと割り箸を割る藤元先生の斜め向かいから伸びてきた手が、黙ってサラダパスタを手元に引き寄せた。乱れた襟元のまま、何か難しい事を考えているような表情でパスタの蓋を開ける。期待通りの優雅な手つきが、安っぽいプラスティックのフォークにパスタをクルクルと上品に巻いた。
夏休みが終わって二週間も経って、こうやって一緒に食べるのも久しぶりのはずなのに、でも毎日見てるような気もして、なんだか不思議。
そんなことを考えながら、あたしはソーダの蓋をきゅっとねじった。口の中でじゅわっと乱暴に弾けるソーダで、なんかイロイロと変な味を洗ってから、そおっと飲み込む。二口のソーダでちょっと落ち着いてから、サンドウィッチをかじった。もしゃもしゃと自分の口の中で響く咀嚼音が周囲の音を遠ざけていく。そうやってしばらく三者三様にランチタイムを満喫していた、そのときだった。
「あ、そうそう、芝口。さっきのアレな、こっちにも届いてたぜ」
エビフライの尻尾をお弁当箱の端っこにそっと除けて置くと、何の前触れもなく藤元先生はそう言った。
-つづく-
「一回スッキリしたワケだし、先にメシ食おうぜ。俺ぁ腹減ったよ」
「本能だけで生きてるんだな、おまえは」
ムードもへったくれもない藤元先生の言葉とそんな藤元先生に呆れ顔の佐上先生は、使い終わったウェットティッシュをポリ袋に放り込むと、言葉とはうらはらに仲良く立ち上がった。二人の後ろ姿を一瞬ぼおっと見送りかけてから、あたしも慌ててブラウスのボタンを留めた。脱ぎ捨てられていたショーツを穿き直して髪を手櫛で整えながらテーブルに向かう。パイプ椅子を引いて座ると、テーブルの上の大きなコンビニ袋の中身をガサガサと探っていた藤元先生が顔を上げた。あたしを見てニカっと笑った。
「ほい。これ、芝口のな」
あたしの大好きな、野菜たっぷりサンドとソーダをゴツイ手が目の前に置いてくれる。その横に次々と並ぶ、コロコロチーズのソフトフランスパンと、ツナタマサンド、明太子とテリヤキチキンの変わりむすびが一つずつ。遅れて出てきた、五種の野菜のマカロニサラダとシャキシャキレタスのサラダパスタと、点心盛り合わせセット。点心盛り合わせはぱかっと開けられて、あたしのいつもの取り皿になった。
「あ、ありがと」
「おー」
嬉しそうに頷きながら、藤元先生はミックスフライ弁当のパッケージを開けた。
「さぁてと。メシメシ」
鼻歌でも歌いそうな顔でぱちりと割り箸を割る藤元先生の斜め向かいから伸びてきた手が、黙ってサラダパスタを手元に引き寄せた。乱れた襟元のまま、何か難しい事を考えているような表情でパスタの蓋を開ける。期待通りの優雅な手つきが、安っぽいプラスティックのフォークにパスタをクルクルと上品に巻いた。
夏休みが終わって二週間も経って、こうやって一緒に食べるのも久しぶりのはずなのに、でも毎日見てるような気もして、なんだか不思議。
そんなことを考えながら、あたしはソーダの蓋をきゅっとねじった。口の中でじゅわっと乱暴に弾けるソーダで、なんかイロイロと変な味を洗ってから、そおっと飲み込む。二口のソーダでちょっと落ち着いてから、サンドウィッチをかじった。もしゃもしゃと自分の口の中で響く咀嚼音が周囲の音を遠ざけていく。そうやってしばらく三者三様にランチタイムを満喫していた、そのときだった。
「あ、そうそう、芝口。さっきのアレな、こっちにも届いてたぜ」
エビフライの尻尾をお弁当箱の端っこにそっと除けて置くと、何の前触れもなく藤元先生はそう言った。
-つづく-
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2010年08月09日 (月)
「さっきの、アレ?」
意味の通じない突然の言葉に眉をしかめると、藤元先生はいたずらが見つかった子どもみたいに笑った。
「わりぃわりぃ、こんな言い方じゃわかんねぇよな」
おかしそうに目を細めながら、藤元先生はお箸の先に刺さっていたコロッケを口に放り込んだ。次いでご飯を山盛り乗っけたお箸をぱくっとくわえて、もしゃもしゃと三回ほど噛んで、そしてごくっと飲み込む。相変わらずの、肉食獣っぽい食べっぷりの向かい側では、銀のフォークでも扱ってるみたいに繊細な指使いで佐上先生がパスタを食べている。いつもながらの不思議な光景に、ホントにどうしてこの二人が仲良しなんだろうって思う。何がきっかけで友だちになったのか、いつか訊いてみたい。
「合格通知だよ。必要書類とか書いてあったし、あとで渡すわな」
「合格通知?」
明るい藤元先生の言葉に、静かにパスタに向かっていた佐上先生が顔を上げた。
えっちのときもそうだけど、食べてるときも佐上先生の横顔は上品で涼しげで、本能的な行動を取ってるなんて思えないくらいにキレイ。トイレのときでもきっともそうなんだろうな、なんて考えちゃうのは、ちょっと下世話すぎるかもしれないけど。
「おう、そうよ。芝口、受かったんだぜ、静凛女子。大したもんだろ?」
なぜか自慢げに言いながら、先生はお箸を持ったままの右手をあたしに伸ばしてきた。頭を撫でようとして、手の中のお箸に気付いたらしく、ぐーのままのこぶしをごりごりと前髪の辺りにこすり付けた。痛いって文句言ってやろうかと一瞬思ったけど、でも本当に喜んでくれてる藤元先生の様子が嬉しいから、今回はだけは言葉を飲み込んであげる。
「芝口が……、そうか」
でも佐上先生は藤元先生とは真反対のリアクション。
そりゃ、佐上先生が担任する特進クラスの生徒たちはポコポコ国公立に受かるから、それに比べたらお嬢さま大学なんか別にどーってことないのかもしれない。あたしにとっては精一杯背伸びしてギリギリ受かった大学なんだけど、でも褒めてくれそうな雰囲気じゃないかな、とか考えてると、佐上先生は食べかけのパスタ容器の上にそっとフォークを置いた。
「そうか」
難しい顔で小さく頷くと、先生はテーブルの上でくしゃっと丸まっていたネクタイを手にして、そのまますっと立ち上がった。
「芝口も、女子高生じゃなくなってしまうんだな」
-つづく-
意味の通じない突然の言葉に眉をしかめると、藤元先生はいたずらが見つかった子どもみたいに笑った。
「わりぃわりぃ、こんな言い方じゃわかんねぇよな」
おかしそうに目を細めながら、藤元先生はお箸の先に刺さっていたコロッケを口に放り込んだ。次いでご飯を山盛り乗っけたお箸をぱくっとくわえて、もしゃもしゃと三回ほど噛んで、そしてごくっと飲み込む。相変わらずの、肉食獣っぽい食べっぷりの向かい側では、銀のフォークでも扱ってるみたいに繊細な指使いで佐上先生がパスタを食べている。いつもながらの不思議な光景に、ホントにどうしてこの二人が仲良しなんだろうって思う。何がきっかけで友だちになったのか、いつか訊いてみたい。
「合格通知だよ。必要書類とか書いてあったし、あとで渡すわな」
「合格通知?」
明るい藤元先生の言葉に、静かにパスタに向かっていた佐上先生が顔を上げた。
えっちのときもそうだけど、食べてるときも佐上先生の横顔は上品で涼しげで、本能的な行動を取ってるなんて思えないくらいにキレイ。トイレのときでもきっともそうなんだろうな、なんて考えちゃうのは、ちょっと下世話すぎるかもしれないけど。
「おう、そうよ。芝口、受かったんだぜ、静凛女子。大したもんだろ?」
なぜか自慢げに言いながら、先生はお箸を持ったままの右手をあたしに伸ばしてきた。頭を撫でようとして、手の中のお箸に気付いたらしく、ぐーのままのこぶしをごりごりと前髪の辺りにこすり付けた。痛いって文句言ってやろうかと一瞬思ったけど、でも本当に喜んでくれてる藤元先生の様子が嬉しいから、今回はだけは言葉を飲み込んであげる。
「芝口が……、そうか」
でも佐上先生は藤元先生とは真反対のリアクション。
そりゃ、佐上先生が担任する特進クラスの生徒たちはポコポコ国公立に受かるから、それに比べたらお嬢さま大学なんか別にどーってことないのかもしれない。あたしにとっては精一杯背伸びしてギリギリ受かった大学なんだけど、でも褒めてくれそうな雰囲気じゃないかな、とか考えてると、佐上先生は食べかけのパスタ容器の上にそっとフォークを置いた。
「そうか」
難しい顔で小さく頷くと、先生はテーブルの上でくしゃっと丸まっていたネクタイを手にして、そのまますっと立ち上がった。
「芝口も、女子高生じゃなくなってしまうんだな」
-つづく-
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2010年08月12日 (木)
「おい、仁?」
お箸片手の藤元先生の訝しげな声なんて全然聞こえてないみたいに、佐上先生の目はまっすぐあたしに向けられていた。その視線にその表情に、寒気がした。
あたしはわかっている。たった今、わかってしまった。佐上先生がなにを考えているのかを理解してしまった。でもそれは認めたくなくて、認められなくて――。
「せんせ、でも、まだ……」
卒業まで半年もあるんだよって、まだまだあたしは高校生だよって、明日だってガッコにくるんだからって言いたいのに、乱れた前髪のあいだから見える物憂げなまなざしにのどをぎゅっとつかまれたみたい。言えることも言いたいこともいっぱいあるのに、気持ちは焦ってるのに、なのに。
「今日で終わり、か」
思った通り、そして願わなかった通り、佐上先生は静かにそう言った。
「せんせ……」
わかっていた。最初っから、こんな日がくるってわかっていた。先生の好みの『イマドキじゃない女子高生』に当てはまってたからあたしに手を出しただけ。あたし自身に興味なんてなかった。手近にいて便利だから、抱きしめたりキスしたり、大切にしてるふりをしてただけ。
「芝口。さよなら、だ」
キレイな指が髪を梳くように撫でて、背を丸めるように顔を覗き込んできて、そして触れるだけのキスをした。
「せん、せっ……」
わかってても嬉しかった。大好きだった。何度でも抱かれたかった。卒業したらそれっきりだってわかってたし、納得もしていた。でも、それはもっと先のことだって、卒業までは続くんだって思っていたのに。安心していたのに。信じていたのに。
でも、これが最後なんだ。次にもし会っても先生は知らん顔する。あたしのことなんか知らないふりをする。ううん、見もしないかもしれない。視線を合わせることさえしてくれないかも。
「さようなら、芝口」
それでも、細まった目が寂しそうだと、それはあたしのせいだと、先生はあたしと別れるのはホントはイヤなんだと、そう思いたかった。思っていたかった。あたしの勝手な思い込みでいいから、せめて、それだけ――。
「仁! おい、待て! 待てってばよっ!」
涼しげな後ろ姿と大きなポロシャツの背中と怒鳴り声が競うようにドアの向こう側に消えていくのを、あたしは食べかけのトマトサンドを手に、パイプ椅子に座ったまま見送った。
そのあと、そのサンドウィッチを食べたのか、午後の授業にちゃんと出たのか、帰るまでに誰となにを話したのか、そしてどうやって家に帰ったのか……。実は、ほとんど覚えてない。
-つづく-
お箸片手の藤元先生の訝しげな声なんて全然聞こえてないみたいに、佐上先生の目はまっすぐあたしに向けられていた。その視線にその表情に、寒気がした。
あたしはわかっている。たった今、わかってしまった。佐上先生がなにを考えているのかを理解してしまった。でもそれは認めたくなくて、認められなくて――。
「せんせ、でも、まだ……」
卒業まで半年もあるんだよって、まだまだあたしは高校生だよって、明日だってガッコにくるんだからって言いたいのに、乱れた前髪のあいだから見える物憂げなまなざしにのどをぎゅっとつかまれたみたい。言えることも言いたいこともいっぱいあるのに、気持ちは焦ってるのに、なのに。
「今日で終わり、か」
思った通り、そして願わなかった通り、佐上先生は静かにそう言った。
「せんせ……」
わかっていた。最初っから、こんな日がくるってわかっていた。先生の好みの『イマドキじゃない女子高生』に当てはまってたからあたしに手を出しただけ。あたし自身に興味なんてなかった。手近にいて便利だから、抱きしめたりキスしたり、大切にしてるふりをしてただけ。
「芝口。さよなら、だ」
キレイな指が髪を梳くように撫でて、背を丸めるように顔を覗き込んできて、そして触れるだけのキスをした。
「せん、せっ……」
わかってても嬉しかった。大好きだった。何度でも抱かれたかった。卒業したらそれっきりだってわかってたし、納得もしていた。でも、それはもっと先のことだって、卒業までは続くんだって思っていたのに。安心していたのに。信じていたのに。
でも、これが最後なんだ。次にもし会っても先生は知らん顔する。あたしのことなんか知らないふりをする。ううん、見もしないかもしれない。視線を合わせることさえしてくれないかも。
「さようなら、芝口」
それでも、細まった目が寂しそうだと、それはあたしのせいだと、先生はあたしと別れるのはホントはイヤなんだと、そう思いたかった。思っていたかった。あたしの勝手な思い込みでいいから、せめて、それだけ――。
「仁! おい、待て! 待てってばよっ!」
涼しげな後ろ姿と大きなポロシャツの背中と怒鳴り声が競うようにドアの向こう側に消えていくのを、あたしは食べかけのトマトサンドを手に、パイプ椅子に座ったまま見送った。
そのあと、そのサンドウィッチを食べたのか、午後の授業にちゃんと出たのか、帰るまでに誰となにを話したのか、そしてどうやって家に帰ったのか……。実は、ほとんど覚えてない。
-つづく-
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2010年08月14日 (土)
「はい、では、ご注文を確認いたします。トマトレタスサンドにタルタルソーストッピング。ポテトSのセットでフレーバーはチーズ、ドリンクはぶどうのソーダ。以上でよろしいですか?」
「はい」
「ありがとうございます。六百二十円になります……はい、おつり三百八十円です」
無言で差し出した千円札に小さく頷くと、茶色のサンバイザーをつけたお姉さんはレジからちゃらりんと音を立てて吐き出されたコインを、あたしの手の中に置いた。
「お席までお持ちします。こちら、八番の札をお持ちください」
マニュアル通りの丁寧語で疲れをごまかしながら、手帳くらいのサイズの赤いプラスティックの板を差し出してくる。
この人、大学生かな。こんな時間までバイトするんだ。まぁ明日は日曜だし、多少遅くなっても平気なのかもしれないけど、でも大変だなぁ。あたしも大学生になったらバイトしなきゃなんないのかな、とかなんとなく考えながら、白抜きされたポップ数字を受け取った。
「ありがとうございます。はい、では次のお客さま、お待たせいたしました。お決まりでしたらご注文をどうぞ」
あたしと入れ替わりにカウンターにへばり付いた二人組みの男の人が、『ダブルチーズバーガーとチリドックと、ポテトのLで』とか言ってるのを背中で聞きながら、お財布にコインを落とし込んだ。足元に置いていた紙袋を持ってから、ぐるりと店内を見渡してみる。確認もせずに店に入ったのはちょっと失敗だったのかもしれない。持ち帰りにしたほうがよかったかなって一瞬思っちゃうくらい、席はぎっしりと埋まっていた。
「うーわー。ちょっとムリ、かなぁ」
本来はバーガー屋だから、中学生だって来るけど、六時を過ぎるとそれっぽいメニューやアルコールが並んで、ぐんと年齢層が上がる。窓際に並んだテーブル席はカップルや同性同士二人がほとんどだけど、テーブル中央にピザやポテトの大盛りを広げて楽しそうにしてるお友だちグループも結構いる。あたしみたいに、一人でゴハンって感じの人も一応いるにはいるけど、無言で壁に向かって黙々と、って感じ。ビールやカクテル片手で週末満喫って笑顔が並んでる中、ぽつんと一人で食べてる背中を見ると、なんていうか、こう。
「……寂しくて、悪かったわね」
自分だって同じ立場のクセに上から目線しちゃった自分にイヤな気分になりながら、大きなゴミ箱の脇を通って、テラス席に続く木製のドアを押し開けた。涼しい店内から一転、もわっとした空気が顔を叩く。引きかけた汗がまた肌に浮き始めるのがわかったけど、でも仕方ない。
「ま、こっちのほうが、のんびりできていいかもね」
-つづく-
「はい」
「ありがとうございます。六百二十円になります……はい、おつり三百八十円です」
無言で差し出した千円札に小さく頷くと、茶色のサンバイザーをつけたお姉さんはレジからちゃらりんと音を立てて吐き出されたコインを、あたしの手の中に置いた。
「お席までお持ちします。こちら、八番の札をお持ちください」
マニュアル通りの丁寧語で疲れをごまかしながら、手帳くらいのサイズの赤いプラスティックの板を差し出してくる。
この人、大学生かな。こんな時間までバイトするんだ。まぁ明日は日曜だし、多少遅くなっても平気なのかもしれないけど、でも大変だなぁ。あたしも大学生になったらバイトしなきゃなんないのかな、とかなんとなく考えながら、白抜きされたポップ数字を受け取った。
「ありがとうございます。はい、では次のお客さま、お待たせいたしました。お決まりでしたらご注文をどうぞ」
あたしと入れ替わりにカウンターにへばり付いた二人組みの男の人が、『ダブルチーズバーガーとチリドックと、ポテトのLで』とか言ってるのを背中で聞きながら、お財布にコインを落とし込んだ。足元に置いていた紙袋を持ってから、ぐるりと店内を見渡してみる。確認もせずに店に入ったのはちょっと失敗だったのかもしれない。持ち帰りにしたほうがよかったかなって一瞬思っちゃうくらい、席はぎっしりと埋まっていた。
「うーわー。ちょっとムリ、かなぁ」
本来はバーガー屋だから、中学生だって来るけど、六時を過ぎるとそれっぽいメニューやアルコールが並んで、ぐんと年齢層が上がる。窓際に並んだテーブル席はカップルや同性同士二人がほとんどだけど、テーブル中央にピザやポテトの大盛りを広げて楽しそうにしてるお友だちグループも結構いる。あたしみたいに、一人でゴハンって感じの人も一応いるにはいるけど、無言で壁に向かって黙々と、って感じ。ビールやカクテル片手で週末満喫って笑顔が並んでる中、ぽつんと一人で食べてる背中を見ると、なんていうか、こう。
「……寂しくて、悪かったわね」
自分だって同じ立場のクセに上から目線しちゃった自分にイヤな気分になりながら、大きなゴミ箱の脇を通って、テラス席に続く木製のドアを押し開けた。涼しい店内から一転、もわっとした空気が顔を叩く。引きかけた汗がまた肌に浮き始めるのがわかったけど、でも仕方ない。
「ま、こっちのほうが、のんびりできていいかもね」
-つづく-
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2010年08月15日 (日)
気の毒なくらいガランとしたテラス席は、結構広い空間に格子戸を組み合わせた木の壁とすりガラスのランプに囲まれて木製の丸テーブルが並んでいた。腰までの高さしかない壁のせいで大通りからも見えるけど、でも丸見えになっちゃわないようにツタみたいな観葉植物が柱に沿って這っているから、それなりに落ち着ける。テーブルの中央に背の低い丸いキャンドルがほんわり揺れてて、スチールで作られた店内よりよっぽどデート向き。ただひとつ、殺人的なこの暑さを我慢しなきゃなんないんだけど。
「そこが致命的なんだろうなー」
日が落ちたらそこそこ涼しくなってた昔と違って、うっかり打ち水なんてしようものなら不愉快なプチサウナができちゃう亜熱帯気候になったのは、五年ほど前に開通した地下鉄のせいらしい。あたしなんかが言っても説得力ないけど、文明ってもしかしたら本来目指してた方向じゃない方向へ全力疾走してるのかもって思う。別に頼んでないのにどんどん開発して便利な機能がついて、その替わりがこれですか、ってカンジ。まだ九月だから、もうあと一箇月は確実に暑いんだよねって思うとどんよりする。家に帰ってクーラー付ければ快適なのはわかってるけど、それでも一人っきりのリビングでつまんないテレビ見て頑張って笑うよりは、ジャングルみたいなここのほうが、まだずーっとマシ。
「お腹空いたなー、早くこないかなっ」
前向きに納得して、大きな葉っぱで大通りから目隠しされた、一番奥の丸テーブルに両手の荷物をどさっと置いた。時間を確認しようとカバンからケータイを取り出して、ついうっかり、ペカペカ光る着信履歴を確認してしまった。
「あ……、やばっ」
画面を覆いつくす勢いでずらっと並んだ、同じ名前に息が止まる。一番新しいのはほんの三分ほど前。その前は、一時間くらい前。せっかくずっとマナーモードにしてたのに。気づかなかったから出なかったのに。出ないぞって決めてたのに。
「八番のお客さま。お待たせしました」
「あ、ありがと」
いきなり後ろからかけられた声にちょっとびくっとしながら、でもなんでもない顔でパタンとケータイを閉じた。あたしの反応なんて知ったこっちゃない店員さんは、無表情な笑顔でトレイを目の前に差し出してきた。
「こちらで、ご注文はよろしいでしょうか」
「あ、はい」
「どうぞ、ごゆっくり」
うやうやしく一礼してから番号札を持ち去る後ろ姿を見送るなんてことはもちろんせず、トレイから取り上げたバーガーの包み紙をべりっとめくった。誰にもはばかることなく、大口開けてがぶっとかじりつく。
-つづく-
「そこが致命的なんだろうなー」
日が落ちたらそこそこ涼しくなってた昔と違って、うっかり打ち水なんてしようものなら不愉快なプチサウナができちゃう亜熱帯気候になったのは、五年ほど前に開通した地下鉄のせいらしい。あたしなんかが言っても説得力ないけど、文明ってもしかしたら本来目指してた方向じゃない方向へ全力疾走してるのかもって思う。別に頼んでないのにどんどん開発して便利な機能がついて、その替わりがこれですか、ってカンジ。まだ九月だから、もうあと一箇月は確実に暑いんだよねって思うとどんよりする。家に帰ってクーラー付ければ快適なのはわかってるけど、それでも一人っきりのリビングでつまんないテレビ見て頑張って笑うよりは、ジャングルみたいなここのほうが、まだずーっとマシ。
「お腹空いたなー、早くこないかなっ」
前向きに納得して、大きな葉っぱで大通りから目隠しされた、一番奥の丸テーブルに両手の荷物をどさっと置いた。時間を確認しようとカバンからケータイを取り出して、ついうっかり、ペカペカ光る着信履歴を確認してしまった。
「あ……、やばっ」
画面を覆いつくす勢いでずらっと並んだ、同じ名前に息が止まる。一番新しいのはほんの三分ほど前。その前は、一時間くらい前。せっかくずっとマナーモードにしてたのに。気づかなかったから出なかったのに。出ないぞって決めてたのに。
「八番のお客さま。お待たせしました」
「あ、ありがと」
いきなり後ろからかけられた声にちょっとびくっとしながら、でもなんでもない顔でパタンとケータイを閉じた。あたしの反応なんて知ったこっちゃない店員さんは、無表情な笑顔でトレイを目の前に差し出してきた。
「こちらで、ご注文はよろしいでしょうか」
「あ、はい」
「どうぞ、ごゆっくり」
うやうやしく一礼してから番号札を持ち去る後ろ姿を見送るなんてことはもちろんせず、トレイから取り上げたバーガーの包み紙をべりっとめくった。誰にもはばかることなく、大口開けてがぶっとかじりつく。
-つづく-
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2010年08月17日 (火)
「ん、おいしい」
口の端にたっぷりとついたタルタルソースを指でぬぐって、それも舐めた。こりっと歯に当たるみじん切りのピクルスと、舌に反発するゆで卵の白身の感触が面白い。だからタルタルソースって好きだなって思いながら、指先でつまんだポテトをウサギみたいに咥えて、もぐもぐしながら少しずつ口の中に収めていった。お行儀悪いってわかってるけど、でもあたしにそんなことを言う人はいない。生活のすべてが自己管理。フリーダム。
――藤元先生だったら、言うかもしれないけど。
食べ方は肉食系で豪快だけど、でも意外なくらい食事マナーはいいから、きっと厳しくしつけられたんだろうなって思う。両親揃った温かい家庭で育ったんだろうな。あたしの気持ちはわかんないから、すごく気にして気にかけてくれてて、だから何回も電話してくるんだろうなって、そのこと自体は嬉しくないことは、ないんだけど。
「でもさすがに、もういいんじゃないの」
あれから三日。
翌日はベッドから起き上がる気さえなくて無断欠席をした。次の日は一応は起き上がったものの、朝は遅刻してホームルームをサボり、授業中は完璧無視、呼び止められた廊下はダッシュで振り切った。
あれからずっとマナーモードにしてるから、別にどこで鳴っても周囲に迷惑じゃないけど、でもだからって毎日毎日、一時間おきに掛けてくる? って言うか、あっちだってあたしが無視してるのはもうとっくにわかってると思うんだけど。だって三日だし。
「担任としての責任ってヤツなのかな」
最後の一口にはちょっと大きすぎたバーガーを、それでも頑張ってがばっと口の中に放り込んで、もぎゅもぎゅ噛む。一噛みごとにガシュガシュとレタスが鳴るのを聞きながら包みをぐしゃっと丸めて、空になった右手でソーダのカップを引き寄せる。
「あの人、バカだからねー」
超体育会系で熱血で肉食で、しかもエッチでサディストで。でも……佐上先生よりずっと優しい。あたしのことを心配してくれてる。わかってる。そんなことはわかってる、けど。
「……っ! やだなぁ、もう!」
ぽろってこぼれそうになった涙を指先でぎゅっと拭いて、そしてポテトに手を伸ばした。
泣いたってしょうがない。だって佐上先生はそう言う人だもん。わかってた。そのうち捨てられるってわかってた。それでもそのギリギリまでそばにいたいって思ってた。
でもきっと、先生は今頃はもう、あたしのことなんか……。
「一番バカなのは、あたしかぁ」
「かーのじょ。どうしたの? ひとり?」
ため息混じりに呟いた瞬間、後ろからぽんと肩を叩かれた。
-つづく-
口の端にたっぷりとついたタルタルソースを指でぬぐって、それも舐めた。こりっと歯に当たるみじん切りのピクルスと、舌に反発するゆで卵の白身の感触が面白い。だからタルタルソースって好きだなって思いながら、指先でつまんだポテトをウサギみたいに咥えて、もぐもぐしながら少しずつ口の中に収めていった。お行儀悪いってわかってるけど、でもあたしにそんなことを言う人はいない。生活のすべてが自己管理。フリーダム。
――藤元先生だったら、言うかもしれないけど。
食べ方は肉食系で豪快だけど、でも意外なくらい食事マナーはいいから、きっと厳しくしつけられたんだろうなって思う。両親揃った温かい家庭で育ったんだろうな。あたしの気持ちはわかんないから、すごく気にして気にかけてくれてて、だから何回も電話してくるんだろうなって、そのこと自体は嬉しくないことは、ないんだけど。
「でもさすがに、もういいんじゃないの」
あれから三日。
翌日はベッドから起き上がる気さえなくて無断欠席をした。次の日は一応は起き上がったものの、朝は遅刻してホームルームをサボり、授業中は完璧無視、呼び止められた廊下はダッシュで振り切った。
あれからずっとマナーモードにしてるから、別にどこで鳴っても周囲に迷惑じゃないけど、でもだからって毎日毎日、一時間おきに掛けてくる? って言うか、あっちだってあたしが無視してるのはもうとっくにわかってると思うんだけど。だって三日だし。
「担任としての責任ってヤツなのかな」
最後の一口にはちょっと大きすぎたバーガーを、それでも頑張ってがばっと口の中に放り込んで、もぎゅもぎゅ噛む。一噛みごとにガシュガシュとレタスが鳴るのを聞きながら包みをぐしゃっと丸めて、空になった右手でソーダのカップを引き寄せる。
「あの人、バカだからねー」
超体育会系で熱血で肉食で、しかもエッチでサディストで。でも……佐上先生よりずっと優しい。あたしのことを心配してくれてる。わかってる。そんなことはわかってる、けど。
「……っ! やだなぁ、もう!」
ぽろってこぼれそうになった涙を指先でぎゅっと拭いて、そしてポテトに手を伸ばした。
泣いたってしょうがない。だって佐上先生はそう言う人だもん。わかってた。そのうち捨てられるってわかってた。それでもそのギリギリまでそばにいたいって思ってた。
でもきっと、先生は今頃はもう、あたしのことなんか……。
「一番バカなのは、あたしかぁ」
「かーのじょ。どうしたの? ひとり?」
ため息混じりに呟いた瞬間、後ろからぽんと肩を叩かれた。
-つづく-
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
2010年08月19日 (木)
「えっ?」
慌てて振り返ると、そこには男の人が二人立っていた。誰って思うより先に、トレイの横に手が置かれた。身体を二つに折り曲げるように屈み込んできた男の人が、あたしの顔を覗き込むように見て、にっと笑った。
「彼女、可愛いね。どしたのさ、こんなとこでひとりで」
「ヒマならさ、俺たちと飲みに行かない?」
「えっ、とぉ……?」
もしかして、これってナンパ? うわ、初めて見たっ。
「ね、行こうよ。イイ店知ってんだ、俺」
にっこり笑うその表情が、不思議と警戒心を引き起こさないカンジで、ああなるほど、ナンパってこうやるんだ、この人たち慣れてるんだなって思う。どう誘えば女の子がついてくるのか、よく知ってるんだろうな。見るからに遊び慣れてそうで、一緒に行けばそれなりにおもしろいかもしれないけど、でもそれだけじゃ済まない可能性だってあるってことくらい、あたしだって知ってる。
「でもあたし、もう帰んなきゃ。電車なくなっちゃうし」
佐上先生と比べると天と地だけど、でもカッコいい部類に入るかな。日焼けした肌と同じくらいの色に脱色した長めの前髪と、鮮やかな赤いタンクトップに黒のダメージジーンズ。もう一人は、短い黒髪に派手なバンダナしてて、セクシーなお姉さんの絵のTシャツとハーフパンツで、耳たぶに輪っかのピアス。お友だちとして付き合うのなら楽しそうかなって、そう思わなくもないけど。
「電車なんて、まだまだ時間大丈夫でしょ。なんなら俺ら、家まで送るし」
人懐っこく笑いながら、茶髪の男の人が目の前にちゃらりと重そうなカギをぶら下げた。肩に置かれた手があたしをぐいと引き寄せる。胸の中に抱き寄せられるような形になってしまう。額にかかる長い茶髪に、頬に当たる人肌の感触に、どくっと心臓が鳴った。
「えっ、あっ、ちょっとっ」
「絶対楽しいって。ね、行こ」
わたわたしながらも勢いに飲まれて、それ以上拒絶できない。抵抗しないあたしに『かわいーね』とか言いながら笑いかけてくる。バンダナの人が向かいの椅子に置いていたあたしの荷物を持つのが見えた。
「はい、決まり。行こ行こ」
「大丈夫、俺ら紳士だから」
「やっ、え、あの、あたし……」
こんな強引に誘っといて紳士なんて言われてもとは思ったけど、でもなぜかあたしは手を引かれて立ち上がってしまった。
-つづく-
慌てて振り返ると、そこには男の人が二人立っていた。誰って思うより先に、トレイの横に手が置かれた。身体を二つに折り曲げるように屈み込んできた男の人が、あたしの顔を覗き込むように見て、にっと笑った。
「彼女、可愛いね。どしたのさ、こんなとこでひとりで」
「ヒマならさ、俺たちと飲みに行かない?」
「えっ、とぉ……?」
もしかして、これってナンパ? うわ、初めて見たっ。
「ね、行こうよ。イイ店知ってんだ、俺」
にっこり笑うその表情が、不思議と警戒心を引き起こさないカンジで、ああなるほど、ナンパってこうやるんだ、この人たち慣れてるんだなって思う。どう誘えば女の子がついてくるのか、よく知ってるんだろうな。見るからに遊び慣れてそうで、一緒に行けばそれなりにおもしろいかもしれないけど、でもそれだけじゃ済まない可能性だってあるってことくらい、あたしだって知ってる。
「でもあたし、もう帰んなきゃ。電車なくなっちゃうし」
佐上先生と比べると天と地だけど、でもカッコいい部類に入るかな。日焼けした肌と同じくらいの色に脱色した長めの前髪と、鮮やかな赤いタンクトップに黒のダメージジーンズ。もう一人は、短い黒髪に派手なバンダナしてて、セクシーなお姉さんの絵のTシャツとハーフパンツで、耳たぶに輪っかのピアス。お友だちとして付き合うのなら楽しそうかなって、そう思わなくもないけど。
「電車なんて、まだまだ時間大丈夫でしょ。なんなら俺ら、家まで送るし」
人懐っこく笑いながら、茶髪の男の人が目の前にちゃらりと重そうなカギをぶら下げた。肩に置かれた手があたしをぐいと引き寄せる。胸の中に抱き寄せられるような形になってしまう。額にかかる長い茶髪に、頬に当たる人肌の感触に、どくっと心臓が鳴った。
「えっ、あっ、ちょっとっ」
「絶対楽しいって。ね、行こ」
わたわたしながらも勢いに飲まれて、それ以上拒絶できない。抵抗しないあたしに『かわいーね』とか言いながら笑いかけてくる。バンダナの人が向かいの椅子に置いていたあたしの荷物を持つのが見えた。
「はい、決まり。行こ行こ」
「大丈夫、俺ら紳士だから」
「やっ、え、あの、あたし……」
こんな強引に誘っといて紳士なんて言われてもとは思ったけど、でもなぜかあたしは手を引かれて立ち上がってしまった。
-つづく-
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2010年08月20日 (金)
――どうしよう。別に、行ってもいいかな。
ふと、そう思ってしまう。
もしかしたら危ないかもしれないけど、でもホントに楽しいかもしれないし。そのときだけでもいろいろと忘れられるかもしれないし。だったらラッキーだし。それに、もしもホントになんかあったとしても、別に大騒ぎするようなことじゃない。一回くらいどうってことない。
「ちょっと遠いし、車で行こうか」
「帰りなら安心してよ。家まで送るからさ」
ホントかウソかわからない言葉を交互に言いながら、二人はテラスから直接大通りに出られる木製の大きなドアへ向かった。荷物を持ったバンダナの人が先に立ってドアノブに手をかけようとしたその瞬間、爆発したようにドアがばぁんと吹き飛んだ。
「わああっ?」
「きゃあぁああっ!」
なにが起こったのかわからないまま、大きな音にびっくりして悲鳴を上げる。壊れそうな勢いで壁に叩きつけられて、衝撃にゆらゆら揺れるドアの向こうから、最近流行りのスポーツサンダルが現れた。次いで、都市迷彩のカーゴパンツが入ってくる。
「びっ……くりした……ぁっ」
ドアに跳ね飛ばされてぺたんと座ったバンダナの男の人が、どんぐりまなこで顔を上げる。ほっとしたように床に小さく息を吐いて、そしてがばっと立ち上がった。
「ちょっとアンタ! なにをいきなり……、危ねぇだろが!」
「ああっ?」
至極当然の抗議に、まだふらつくようにギィギィと動くドアの前にぬぅっと立ちはだかったその人は、ドスの効いた声を上げた。顔半分を隠すキャップの下から、ぎろりという表現が一番似合う視線があたしたち三人に降りかかる。その鋭さに、あたしの肩を抱いた茶髪の人が後ずさった。引きずられるように、あたしも一歩離れる。その人は大きな肩を揺らすようにぐるんとあたしたちを見回して、そしてあたしの上で視線を止めた。
-つづく-
ふと、そう思ってしまう。
もしかしたら危ないかもしれないけど、でもホントに楽しいかもしれないし。そのときだけでもいろいろと忘れられるかもしれないし。だったらラッキーだし。それに、もしもホントになんかあったとしても、別に大騒ぎするようなことじゃない。一回くらいどうってことない。
「ちょっと遠いし、車で行こうか」
「帰りなら安心してよ。家まで送るからさ」
ホントかウソかわからない言葉を交互に言いながら、二人はテラスから直接大通りに出られる木製の大きなドアへ向かった。荷物を持ったバンダナの人が先に立ってドアノブに手をかけようとしたその瞬間、爆発したようにドアがばぁんと吹き飛んだ。
「わああっ?」
「きゃあぁああっ!」
なにが起こったのかわからないまま、大きな音にびっくりして悲鳴を上げる。壊れそうな勢いで壁に叩きつけられて、衝撃にゆらゆら揺れるドアの向こうから、最近流行りのスポーツサンダルが現れた。次いで、都市迷彩のカーゴパンツが入ってくる。
「びっ……くりした……ぁっ」
ドアに跳ね飛ばされてぺたんと座ったバンダナの男の人が、どんぐりまなこで顔を上げる。ほっとしたように床に小さく息を吐いて、そしてがばっと立ち上がった。
「ちょっとアンタ! なにをいきなり……、危ねぇだろが!」
「ああっ?」
至極当然の抗議に、まだふらつくようにギィギィと動くドアの前にぬぅっと立ちはだかったその人は、ドスの効いた声を上げた。顔半分を隠すキャップの下から、ぎろりという表現が一番似合う視線があたしたち三人に降りかかる。その鋭さに、あたしの肩を抱いた茶髪の人が後ずさった。引きずられるように、あたしも一歩離れる。その人は大きな肩を揺らすようにぐるんとあたしたちを見回して、そしてあたしの上で視線を止めた。
-つづく-
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2010年08月21日 (土)
「そいつは、俺のツレだ。置いてってもらう」
「やっ、ちがっ!」
銀に光る大きなペンダントをちゃらりと鳴らしながら伸びてくる大きな手から逃げようとして、あたしは茶髪の男性に身を寄せた。桜吹雪に昇り竜なんて、そんないかついTシャツ着るような知り合いは、あたしにはいない。こんな人知らない。
「ふざけんな、コラ」
あたしの行動に、キャップの下の影がいまいましげにちっと舌を鳴らす。威圧するような仕草で、ゆっくりと腕を肩の高さまで上げた。
「う、わぁっ」
ぐうっと伸びてきた太い腕が、あたしの肩を抱いたままだった男の人の手の甲を弾き飛ばした。耳元でゴツっと鳴った痛そうな音に身体が固まる。体格差か、それとも迫力か、殴られた方は文句も言わず右手を抱きかかえて身体を丸めるようにして、背後に下がっていく。恐怖に誰も言えないような雰囲気の中、自分のしたことなんてまったく気にしてないふうで、大きな手は無遠慮にあたしの腕をつかんだ。
「オラ、さっさとこい!」
「やーっ、はなしてーっ!」
肩のすぐ下を握って、そのまま引っ張られる。誰か助けて誘拐だぁって叫びかけて、えっと、あれ、あれれ……?
残念ながら、ものすごく細いってわけじゃないあたしの二の腕に軽々と指をまわして握ってくる、大きな手のひら。王冠をかぶったドクロのシルバーリングに見覚えはないけど、黒にオレンジの数字が浮いたデザインの腕時計は、もしかして。いや、でも、そんな。まさか。
「おい、おまえ! 荷物!」
「はいっ」
怒鳴り声に飲まれたのか、バンダナの人が床に転がっていたあたしの紙袋を拾って、両手で差し出した。それを乱暴にひったくると、くるりとかかとを廻してまだ揺れているドアをくぐる。階段を踏み抜いちゃうんじゃないかってくらい乱暴な足取りが、あたしを引っ張ったままテラスから通りへ出た。
「やっ、ちょっ、とぉ……っ!」
イマドキの繁華街とちょっと古い繁華街と、やたら高いビルが立ち並ぶビジネス街と、そして昔ながらの街並みの境がちょうど重なる大きな交差点を、いかつい和柄のTシャツと都市迷彩のパンツのその人は、あたしを引きずったまま抜けた。
「ちょっと、待ってっ」
アスファルトの隙間にサンダルのかかとが引っかかってこけそうになっても、先に立ってずんずん歩いて行く背中は聞く耳なんてないみたい。呼びかけても完全無視。何度か人にぶつかりながらも、スピードを緩めず早足でどんどん歩いていく。
-つづく-
「やっ、ちがっ!」
銀に光る大きなペンダントをちゃらりと鳴らしながら伸びてくる大きな手から逃げようとして、あたしは茶髪の男性に身を寄せた。桜吹雪に昇り竜なんて、そんないかついTシャツ着るような知り合いは、あたしにはいない。こんな人知らない。
「ふざけんな、コラ」
あたしの行動に、キャップの下の影がいまいましげにちっと舌を鳴らす。威圧するような仕草で、ゆっくりと腕を肩の高さまで上げた。
「う、わぁっ」
ぐうっと伸びてきた太い腕が、あたしの肩を抱いたままだった男の人の手の甲を弾き飛ばした。耳元でゴツっと鳴った痛そうな音に身体が固まる。体格差か、それとも迫力か、殴られた方は文句も言わず右手を抱きかかえて身体を丸めるようにして、背後に下がっていく。恐怖に誰も言えないような雰囲気の中、自分のしたことなんてまったく気にしてないふうで、大きな手は無遠慮にあたしの腕をつかんだ。
「オラ、さっさとこい!」
「やーっ、はなしてーっ!」
肩のすぐ下を握って、そのまま引っ張られる。誰か助けて誘拐だぁって叫びかけて、えっと、あれ、あれれ……?
残念ながら、ものすごく細いってわけじゃないあたしの二の腕に軽々と指をまわして握ってくる、大きな手のひら。王冠をかぶったドクロのシルバーリングに見覚えはないけど、黒にオレンジの数字が浮いたデザインの腕時計は、もしかして。いや、でも、そんな。まさか。
「おい、おまえ! 荷物!」
「はいっ」
怒鳴り声に飲まれたのか、バンダナの人が床に転がっていたあたしの紙袋を拾って、両手で差し出した。それを乱暴にひったくると、くるりとかかとを廻してまだ揺れているドアをくぐる。階段を踏み抜いちゃうんじゃないかってくらい乱暴な足取りが、あたしを引っ張ったままテラスから通りへ出た。
「やっ、ちょっ、とぉ……っ!」
イマドキの繁華街とちょっと古い繁華街と、やたら高いビルが立ち並ぶビジネス街と、そして昔ながらの街並みの境がちょうど重なる大きな交差点を、いかつい和柄のTシャツと都市迷彩のパンツのその人は、あたしを引きずったまま抜けた。
「ちょっと、待ってっ」
アスファルトの隙間にサンダルのかかとが引っかかってこけそうになっても、先に立ってずんずん歩いて行く背中は聞く耳なんてないみたい。呼びかけても完全無視。何度か人にぶつかりながらも、スピードを緩めず早足でどんどん歩いていく。
-つづく-
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2010年08月24日 (火)
「ね、待ってって! ねぇっ!」
あたしたちのちょっと普通じゃない様子に、通りすがった人のうち何人かが驚いた顔をして、でもすぐに目をそらした。中にはあたしと目が合って、問いかけるような視線でしばらく見送った人もいたけど、でも仕事終わりのサラリーマンみたいな人には、殺気立った昇り竜の背中を呼び止める勇気はなかったみたい。
まぁさすがに、こればっかりはムリもないかな。世の中には怖い事件がいっぱいあるもんね。関わらずに済むならそうしたいと思うのが人情よね。
「もうっ! ちょっとってばっ!」
返事もないままどんどん通りを抜けて、そして急にするんと角を曲がった。商業ビルの横の小さな通りを入って、街路樹の陰で見えなかったさらに細い通りに踏み込む。人がふたり並んで通れないくらいの、ブロック塀で囲まれた狭い空間でようやく立ち止まる。あたしが大きく息を吐くより早く、大きな影が覆いかぶさるように手を伸ばしてきた。
「やっ、くるし……っ」
鼻を押し潰そうとしてるみたいに胸の中に抱き込まれて、息もできない。もごもごと上半身をねじって、なんとか顔回りの空間を確保した。真上からの視線に首をひねって顔を上げると、キャップの影にあったのは、よく知ってる人の、見たことのない表情。
「せんせ……、なんで?」
あまりにも教師らしくない私服と爆発音付きの恐怖の登場に、一目では見分けられなかったけど、でもさすがに目の前で揺れる大きな背中が誰かはすぐにわかった。ママとパパを除けば、人生で二番目に長く見つめた背中だから。
それでもわからないのは、どうして先生が今ここにいるのか、あたしを抱きしめているのか。だってあたしは、先生のこと、電話もメールも無視したのに。
「なにが、なんで、だ。この、大バカヤロー、がっ」
苦しそうに何度も息継ぎをしながら、藤元先生はあたしを睨みつけた。息ができなくなるくらいの力でぎゅうっと抱きしめられる。目の前の、汗の浮いた肌と響いてくる心臓の音。あたし以上の速さでドクドク動く、その音が振動になって耳に伝わってくる。
「ホントに、おまえは、おまえだけは、どこまで手間かけさせりゃ気が済むんだっ!」
そのとき、先生の目が潤んでいたように見えたのは、さすがに気のせいだと思う。
-つづく-
あたしたちのちょっと普通じゃない様子に、通りすがった人のうち何人かが驚いた顔をして、でもすぐに目をそらした。中にはあたしと目が合って、問いかけるような視線でしばらく見送った人もいたけど、でも仕事終わりのサラリーマンみたいな人には、殺気立った昇り竜の背中を呼び止める勇気はなかったみたい。
まぁさすがに、こればっかりはムリもないかな。世の中には怖い事件がいっぱいあるもんね。関わらずに済むならそうしたいと思うのが人情よね。
「もうっ! ちょっとってばっ!」
返事もないままどんどん通りを抜けて、そして急にするんと角を曲がった。商業ビルの横の小さな通りを入って、街路樹の陰で見えなかったさらに細い通りに踏み込む。人がふたり並んで通れないくらいの、ブロック塀で囲まれた狭い空間でようやく立ち止まる。あたしが大きく息を吐くより早く、大きな影が覆いかぶさるように手を伸ばしてきた。
「やっ、くるし……っ」
鼻を押し潰そうとしてるみたいに胸の中に抱き込まれて、息もできない。もごもごと上半身をねじって、なんとか顔回りの空間を確保した。真上からの視線に首をひねって顔を上げると、キャップの影にあったのは、よく知ってる人の、見たことのない表情。
「せんせ……、なんで?」
あまりにも教師らしくない私服と爆発音付きの恐怖の登場に、一目では見分けられなかったけど、でもさすがに目の前で揺れる大きな背中が誰かはすぐにわかった。ママとパパを除けば、人生で二番目に長く見つめた背中だから。
それでもわからないのは、どうして先生が今ここにいるのか、あたしを抱きしめているのか。だってあたしは、先生のこと、電話もメールも無視したのに。
「なにが、なんで、だ。この、大バカヤロー、がっ」
苦しそうに何度も息継ぎをしながら、藤元先生はあたしを睨みつけた。息ができなくなるくらいの力でぎゅうっと抱きしめられる。目の前の、汗の浮いた肌と響いてくる心臓の音。あたし以上の速さでドクドク動く、その音が振動になって耳に伝わってくる。
「ホントに、おまえは、おまえだけは、どこまで手間かけさせりゃ気が済むんだっ!」
そのとき、先生の目が潤んでいたように見えたのは、さすがに気のせいだと思う。
-つづく-
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2010年08月27日 (金)
「えっ? ちょ、ちょっと、せんせっ?」
ブロック塀で囲まれた狭い空間は、実はラブホの入り口だった。
噛み付くようなキスを一度したあと、怒った顔で黙り込んだ先生に手を引かれて、狭いエレベーターを上った。辿り着いたのは、黒と茶色を基調にしたおとなっぽい部屋だった。天井のスポットから降り注ぐクリームイエローの淡い光と低く流れるピアノ曲が、二人っきりの時間を演出していた。初めてのラブホにふと湧いた好奇心は、部屋へ入るや否や、あっという間に脱がされて後ろ手に縛られることで阻まれた。
「やっ、待って、せんせ。お願い、シャワーに行かせて」
「オラ、暴れんなっ」
ミニワンピの肩紐を解かれて慌てるあたしを強い力で押さえながら、先生はワンピの下に着ていたブラカップつきキャミを身体から抜いた。ベッドへうつぶせに押し倒されて、大きな手に膝丈のレギンスをショーツと一緒に引き剥がされる。あっという間に素裸にされてしまった。
「やだっ、おねがい、すぐだから!」
あたしのお願いを軽く無視して、先生は手首をつかんで背中に回した。何がどうしてと思う暇もなく、手首に布状のものがきゅっと巻きついた。上半身をひねって身体を起こそうとしても、手が使えないあたしは簡単にベッドに押さえつけられてしまう。
「おまえに何かを主張する権利なんてないんだよ」
冷たい声で無表情のまま、先生が覆いかぶさってくる。一日外をうろうろしてたから全身汗まみれで、きっとにおいだってする。臭いって汚いって、先生に思われるのがイヤなのに。
「やだぁっ」
肩を揺らして脚を引いて、先生の手から逃れようとすると、先生はギッと歯を食いしばった。
「ふざけんな、コラ!」
さっきの、テラスのときのような、思いっきり本気の怒鳴り声に身がすくむ。殴られるって身体を硬くしたあたしにちっと小さく舌打ちをすると、むしり取ったキャップを部屋のどこかに投げ捨てた。
「やっ、ぁっ……」
のしかかってきた唇が逃げ道をふさぐような深いキスをした。歯ぐきの裏を順番に丁寧に辿られると背中がぞくぞくする。舌を吸い出されて絡めるように舐められて、優しく噛まれる。苦い唾液を受け入れて、あたしも先生の舌に自分の舌を擦りつけた。目を閉じて先生のキスにうっとりしてると、大きな手のひらが膝を曲げるように脚を大きく開かせた。
-つづく-
ブロック塀で囲まれた狭い空間は、実はラブホの入り口だった。
噛み付くようなキスを一度したあと、怒った顔で黙り込んだ先生に手を引かれて、狭いエレベーターを上った。辿り着いたのは、黒と茶色を基調にしたおとなっぽい部屋だった。天井のスポットから降り注ぐクリームイエローの淡い光と低く流れるピアノ曲が、二人っきりの時間を演出していた。初めてのラブホにふと湧いた好奇心は、部屋へ入るや否や、あっという間に脱がされて後ろ手に縛られることで阻まれた。
「やっ、待って、せんせ。お願い、シャワーに行かせて」
「オラ、暴れんなっ」
ミニワンピの肩紐を解かれて慌てるあたしを強い力で押さえながら、先生はワンピの下に着ていたブラカップつきキャミを身体から抜いた。ベッドへうつぶせに押し倒されて、大きな手に膝丈のレギンスをショーツと一緒に引き剥がされる。あっという間に素裸にされてしまった。
「やだっ、おねがい、すぐだから!」
あたしのお願いを軽く無視して、先生は手首をつかんで背中に回した。何がどうしてと思う暇もなく、手首に布状のものがきゅっと巻きついた。上半身をひねって身体を起こそうとしても、手が使えないあたしは簡単にベッドに押さえつけられてしまう。
「おまえに何かを主張する権利なんてないんだよ」
冷たい声で無表情のまま、先生が覆いかぶさってくる。一日外をうろうろしてたから全身汗まみれで、きっとにおいだってする。臭いって汚いって、先生に思われるのがイヤなのに。
「やだぁっ」
肩を揺らして脚を引いて、先生の手から逃れようとすると、先生はギッと歯を食いしばった。
「ふざけんな、コラ!」
さっきの、テラスのときのような、思いっきり本気の怒鳴り声に身がすくむ。殴られるって身体を硬くしたあたしにちっと小さく舌打ちをすると、むしり取ったキャップを部屋のどこかに投げ捨てた。
「やっ、ぁっ……」
のしかかってきた唇が逃げ道をふさぐような深いキスをした。歯ぐきの裏を順番に丁寧に辿られると背中がぞくぞくする。舌を吸い出されて絡めるように舐められて、優しく噛まれる。苦い唾液を受け入れて、あたしも先生の舌に自分の舌を擦りつけた。目を閉じて先生のキスにうっとりしてると、大きな手のひらが膝を曲げるように脚を大きく開かせた。
-つづく-
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
2010年08月27日 (金)
おはようございます、にゃおです☆
お久しぶりのえっちなシーンで、にゃおもドキドキなのです。
やっぱりね、にゃおが盛り上がらないなら読んでるかたが盛り上がるわけもないので
もうとにかくえっちに!藤本先生もがんばっていますっ☆
みなさんに愉しんでいただけるとうれしいですっ
ところで。
ふふふふ。
とうとう買いました!ベッド専用香水リビドー・ロゼ!
リビドー・ディープマスカットとどっちにしようかなぁとおもったのですが、やっぱり最初はこっちかなぁって。
バラの香り好きだしねっ☆
前にも買って、効き目十分だった大人のムクムク黒カレーも一緒に注文したし、うふふふ…なのですっ☆
あ、ダーリンにはナイショですよ?
さてさて、お言葉いただきましたーっ
お久しぶりのえっちなシーンで、にゃおもドキドキなのです。
やっぱりね、にゃおが盛り上がらないなら読んでるかたが盛り上がるわけもないので
もうとにかくえっちに!藤本先生もがんばっていますっ☆
みなさんに愉しんでいただけるとうれしいですっ
ところで。
ふふふふ。
とうとう買いました!ベッド専用香水リビドー・ロゼ!
リビドー・ディープマスカットとどっちにしようかなぁとおもったのですが、やっぱり最初はこっちかなぁって。
バラの香り好きだしねっ☆
前にも買って、効き目十分だった大人のムクムク黒カレーも一緒に注文したし、うふふふ…なのですっ☆
あ、ダーリンにはナイショですよ?
さてさて、お言葉いただきましたーっ
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2010年08月28日 (土)
「ダメ、あたし、きたな……あっ、ああぁっ!」
抵抗しようにもしきれない強い力がふとももを押さえつける。のどから胸、そしてお腹へとゆっくりと下がってきた先生の舌が、足の付け根に辿り着く。慌てて暴れるあたしを大きな手のひらが押さえ込んで、太い指がそこをぐいと開くのがわかった。
「ダメ、せんせお願い……あうっ、あぁっ……あ、はぁっ」
あたしの声を完全無視すると、そこに顔を伏せた先生は長く伸ばした舌でクリちゃんをつんとつついた。
「やぁっ、ひ、ぃ……っ」
蕩けるような心地よさに、せめてシャワーだけでもって思ってるのに、身体が勝手にひざを開いてしまう。先生の舌をねだるように、先生の指を誘うように、腰を押し付けてしまいそうになる。髪を振り乱して悶えて、理性では逃げようとしていても、本能から逃げられない。止まれない。
「ダメ、イヤ……あっ、ああぁっ」
先生の舌はとっても優しくて意地悪で、なにより気持ちよかった。クリちゃんもひだひだも全部一緒に舌をなすりつけてから、クリちゃんに優しくきゅっと吸いつく。舌先でくにくにと優しく捏ねて、舐め上げるように下からつついて、そしてゆっくりと円を描く。強さも感じかたも少しずつ違う刺激を何度も繰り返されると、奥のほうからとろりとあふれてくる。あ、どうしよう。もっとしてって思ってしまう。
「やっダメ、せんせ……あっ、ん……っ」
「うるせぇ。おまえに拒否権があると思ってンのか」
優しい愛撫とはうらはらに、顔を上げた先生の目は冷たかった。見下すように薄笑いを浮かべながらひだを指でなぞる。ぬるぬるんと指で辿られると、さっきのような鋭さとは種類の違う、ふわっとした気持ちよさがあたしを襲う。先生の指が上下するたび、ぬるま湯のような快感が徐々に温度を上げていく。その熱に耐えられず先生の指先に抗し切れず、あたしはただ背をそらしてあえぐだけだった。
「いやだとか言いながら、ずいぶん気分出してンじゃねぇか。ええっ?」
軽く指を押し付けて先生はゆっくりと掻き回した。わざとのようにくちゅくちゅと音を立てるからあたしにも聞こえる。いやいやと首を振るあたしに、先生はクリちゃんにトロトロを塗りつけながら唇をゆがるように笑った。
「クリはピンピン、こっちはぐちゃぐちゃ。こんだけ濡らしてりゃ世話ないな、春奈」
「あっ、は……っ」
上がってきた先生の手がおっぱいをつかんだ。指先のぬめりを塗りつけながら乳首をクリクリと弄ぶ。そうされると、内側から顔を持ち上げるようにぷくんと膨れる。尖った先っぽをきゅっとつままれる痛みが気持ちよくて、どうしても声が漏れてしまう。
-つづく-
抵抗しようにもしきれない強い力がふとももを押さえつける。のどから胸、そしてお腹へとゆっくりと下がってきた先生の舌が、足の付け根に辿り着く。慌てて暴れるあたしを大きな手のひらが押さえ込んで、太い指がそこをぐいと開くのがわかった。
「ダメ、せんせお願い……あうっ、あぁっ……あ、はぁっ」
あたしの声を完全無視すると、そこに顔を伏せた先生は長く伸ばした舌でクリちゃんをつんとつついた。
「やぁっ、ひ、ぃ……っ」
蕩けるような心地よさに、せめてシャワーだけでもって思ってるのに、身体が勝手にひざを開いてしまう。先生の舌をねだるように、先生の指を誘うように、腰を押し付けてしまいそうになる。髪を振り乱して悶えて、理性では逃げようとしていても、本能から逃げられない。止まれない。
「ダメ、イヤ……あっ、ああぁっ」
先生の舌はとっても優しくて意地悪で、なにより気持ちよかった。クリちゃんもひだひだも全部一緒に舌をなすりつけてから、クリちゃんに優しくきゅっと吸いつく。舌先でくにくにと優しく捏ねて、舐め上げるように下からつついて、そしてゆっくりと円を描く。強さも感じかたも少しずつ違う刺激を何度も繰り返されると、奥のほうからとろりとあふれてくる。あ、どうしよう。もっとしてって思ってしまう。
「やっダメ、せんせ……あっ、ん……っ」
「うるせぇ。おまえに拒否権があると思ってンのか」
優しい愛撫とはうらはらに、顔を上げた先生の目は冷たかった。見下すように薄笑いを浮かべながらひだを指でなぞる。ぬるぬるんと指で辿られると、さっきのような鋭さとは種類の違う、ふわっとした気持ちよさがあたしを襲う。先生の指が上下するたび、ぬるま湯のような快感が徐々に温度を上げていく。その熱に耐えられず先生の指先に抗し切れず、あたしはただ背をそらしてあえぐだけだった。
「いやだとか言いながら、ずいぶん気分出してンじゃねぇか。ええっ?」
軽く指を押し付けて先生はゆっくりと掻き回した。わざとのようにくちゅくちゅと音を立てるからあたしにも聞こえる。いやいやと首を振るあたしに、先生はクリちゃんにトロトロを塗りつけながら唇をゆがるように笑った。
「クリはピンピン、こっちはぐちゃぐちゃ。こんだけ濡らしてりゃ世話ないな、春奈」
「あっ、は……っ」
上がってきた先生の手がおっぱいをつかんだ。指先のぬめりを塗りつけながら乳首をクリクリと弄ぶ。そうされると、内側から顔を持ち上げるようにぷくんと膨れる。尖った先っぽをきゅっとつままれる痛みが気持ちよくて、どうしても声が漏れてしまう。
-つづく-
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2010年08月28日 (土)
おはようございます、にゃおですっ
ちょっとお知らせです。
エルシーラブコスメティックさんがいま、楽しい『ビンゴ』ゲームやっています。ハズレなしだそうですので、めちゃめちゃクジ運の悪いにゃおでも大丈夫かな。
会員さん限定なので、もしかしたら関係ないって人も多いかもしれませんが、まぁ一応お知らせだけ。
にゃおもこのあと行きますっ♪
お言葉いただきましたーっ
ちょっとお知らせです。
エルシーラブコスメティックさんがいま、楽しい『ビンゴ』ゲームやっています。ハズレなしだそうですので、めちゃめちゃクジ運の悪いにゃおでも大丈夫かな。
会員さん限定なので、もしかしたら関係ないって人も多いかもしれませんが、まぁ一応お知らせだけ。
にゃおもこのあと行きますっ♪
お言葉いただきましたーっ
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2010年08月30日 (月)
「ちょーっとイジってやると、すぐこれだ。乳首おっ勃たてて、本当にいやらしいな、春奈は」
「せんせ、ヒドイ……」
あたしがこうなったのは先生達がいろいろとして、あたしの身体がそれを覚えちゃっただけ。なのに先生は、いかにもあたしだけのせいみたいな口振りで、呆れたような顔で言う。唇を尖らせたあたしになんの感情も見えない視線を返しながらも、右と左を順番につまんでいじめて舐めて軽く噛んで、気持ちよくしてくれる。
「なにがひどい? あんな若造について行ってどうするつもりだったんだ、ええっ?」
低くささやく声は落ち着いていたけど、穏やかそうな瞳だけど、でもその奥に燃えるような感情のうねりが見える。先生が怒ってるってことだけはわかる。あの人たちと一緒に行こうとしてたから? 電話を無視してたことじゃなくて?
「なんで、あいつらについて行こうとしていたんだ? そんなことして、どうなるかわかってなかったってワケじゃねぇよな?」
言いながら、先生は乱暴にクリちゃんを弾いた。
「っぁ! ……う、くぅ……っ」
一瞬の痛みは、けれどそれが引いた瞬間に快感に吸収される。きゅうんと奥がわなないて、とろんとしたのが流れ出てくるのがわかる。もっとして欲しくなる。もっと、ひどいことをして欲しくなる。願いをこめて見上げたけれど、先生の目は冷たい光を返すだけだった。
「そんなに、あいつらに抱かれたかったか?」
「そんな……そんなこと……」
くちゅんと音を立てて、先生の指が少しだけ入り込む。浅くぬるぬると出し入れされて、それじゃ物足りないけど、でもその焦らされてるカンジもいい。
「あ、あたし、そんなつもりじゃ」
「じゃあ、どういうつもりだったんだよ!」
「きぃっ、ひゃぁああっ!」
叩きつけるような声と同時に、ずぶっと音がしそうな勢いで先生の指があたしに突き刺さった。その瞬間、全身に響くような痛みが生まれた。
「抱かれたかったんだろうが! 突っ込んで欲しかったんだろうが!」
「ひ、はっ、あ、ああぁっ」
それは、先生が『先生』のときには嵌めてないドクロのリングだった。ぐうっと思いっきり奥まで指を挿れられると、入り口の敏感なところに、ドクロのかぶった王冠が食い込む。そのまま突かれると、ドクロの顔がぐうっと壁に押しつけられる。初めての感覚は波になって、痛みが身体全体まで広がった。
-つづく-
「せんせ、ヒドイ……」
あたしがこうなったのは先生達がいろいろとして、あたしの身体がそれを覚えちゃっただけ。なのに先生は、いかにもあたしだけのせいみたいな口振りで、呆れたような顔で言う。唇を尖らせたあたしになんの感情も見えない視線を返しながらも、右と左を順番につまんでいじめて舐めて軽く噛んで、気持ちよくしてくれる。
「なにがひどい? あんな若造について行ってどうするつもりだったんだ、ええっ?」
低くささやく声は落ち着いていたけど、穏やかそうな瞳だけど、でもその奥に燃えるような感情のうねりが見える。先生が怒ってるってことだけはわかる。あの人たちと一緒に行こうとしてたから? 電話を無視してたことじゃなくて?
「なんで、あいつらについて行こうとしていたんだ? そんなことして、どうなるかわかってなかったってワケじゃねぇよな?」
言いながら、先生は乱暴にクリちゃんを弾いた。
「っぁ! ……う、くぅ……っ」
一瞬の痛みは、けれどそれが引いた瞬間に快感に吸収される。きゅうんと奥がわなないて、とろんとしたのが流れ出てくるのがわかる。もっとして欲しくなる。もっと、ひどいことをして欲しくなる。願いをこめて見上げたけれど、先生の目は冷たい光を返すだけだった。
「そんなに、あいつらに抱かれたかったか?」
「そんな……そんなこと……」
くちゅんと音を立てて、先生の指が少しだけ入り込む。浅くぬるぬると出し入れされて、それじゃ物足りないけど、でもその焦らされてるカンジもいい。
「あ、あたし、そんなつもりじゃ」
「じゃあ、どういうつもりだったんだよ!」
「きぃっ、ひゃぁああっ!」
叩きつけるような声と同時に、ずぶっと音がしそうな勢いで先生の指があたしに突き刺さった。その瞬間、全身に響くような痛みが生まれた。
「抱かれたかったんだろうが! 突っ込んで欲しかったんだろうが!」
「ひ、はっ、あ、ああぁっ」
それは、先生が『先生』のときには嵌めてないドクロのリングだった。ぐうっと思いっきり奥まで指を挿れられると、入り口の敏感なところに、ドクロのかぶった王冠が食い込む。そのまま突かれると、ドクロの顔がぐうっと壁に押しつけられる。初めての感覚は波になって、痛みが身体全体まで広がった。
-つづく-
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2010年08月31日 (火)
「おまえは、仁じゃなくっても、俺じゃなくってもいいんだろうが!」
「ちがう、よぉ……っ」
否定はしたけど、自分の言葉にウソが混じってることもわかっていた。
あのとき、ついていったらえっちされちゃうかなって思った。あの人たちに二人がかりですごいことされたら、佐上先生と藤元先生の二人にされたみたいな気分になれるかな、とも思った。もう二度と佐上先生はあたしを見てくれないし、えっちしてくれないし、だったら、ちょっとだけ。気分だけ。それもいいかなって、ちょっとだけそんなことも考えた。
だけど、ホントのことを言って軽蔑されたくなかった。ウソを知られても自分の本性を知られても平気なくらい、先生のことをどうでもいい存在だと思ってなかった。
あたしのことを気にかけてくれる人。心配してくれる人。そして合格を心から喜んでくれる人。もちろん先生には先生の考えがあって、それはあたしみたいな世間知らずの高校生がぼんやりと望んでいるような甘い話じゃないだろうとはわかってるけど、先生が何を考えてたとしても、あたしに優しくしてくれることは事実だから。
――でも先生は、あたしのウソなんて、初めから全部見抜いてたのかもしれない。
「そんなすぐ、簡単に、他の男に、なんでっ!」
「きぃっ、あぁぁっ!」
ぐぐっと押し込まれるたび感じる痛みは、一突きごとに痛みじゃないものが混じっていく。もうすぐこれは快感になっちゃうってわかる。これだけ痛いのが気持ちよくなったらどうなっちゃうんだろう。狂っちゃいそうなくらいなんじゃって思った瞬間、もっとして欲しい、もっと痛くして欲しいって、そんなことばっかり考えてしまう。
「誰でもいいんなら、なんで俺を呼ばねぇんだよ!」
「ち、がっ、せんせ、ちがう、よぉ……っ!」
誰でもいいなんて思ってない。誰でもいいから先生とでもって、そんなつもりで先生としてるワケじゃない。
「ホントに、ちがうのっ! あっ、あ、ああぁぁ……っ!」
「違う? なにが違うっ!」
太い指にくちゅくちゅ掻き回されて、ぐいっとリングを押し付けられて、奥までひくひくする。気持ちいい。すごく気持ちいい。だから、もっと。もっと、すごいことして。床に捨てられた魚のように身体をくねらせながら、膝を開いて先生の指を誘い込む。そんなあたしの反応に、先生がぎっと眉を吊り上げた。
-つづく-
「ちがう、よぉ……っ」
否定はしたけど、自分の言葉にウソが混じってることもわかっていた。
あのとき、ついていったらえっちされちゃうかなって思った。あの人たちに二人がかりですごいことされたら、佐上先生と藤元先生の二人にされたみたいな気分になれるかな、とも思った。もう二度と佐上先生はあたしを見てくれないし、えっちしてくれないし、だったら、ちょっとだけ。気分だけ。それもいいかなって、ちょっとだけそんなことも考えた。
だけど、ホントのことを言って軽蔑されたくなかった。ウソを知られても自分の本性を知られても平気なくらい、先生のことをどうでもいい存在だと思ってなかった。
あたしのことを気にかけてくれる人。心配してくれる人。そして合格を心から喜んでくれる人。もちろん先生には先生の考えがあって、それはあたしみたいな世間知らずの高校生がぼんやりと望んでいるような甘い話じゃないだろうとはわかってるけど、先生が何を考えてたとしても、あたしに優しくしてくれることは事実だから。
――でも先生は、あたしのウソなんて、初めから全部見抜いてたのかもしれない。
「そんなすぐ、簡単に、他の男に、なんでっ!」
「きぃっ、あぁぁっ!」
ぐぐっと押し込まれるたび感じる痛みは、一突きごとに痛みじゃないものが混じっていく。もうすぐこれは快感になっちゃうってわかる。これだけ痛いのが気持ちよくなったらどうなっちゃうんだろう。狂っちゃいそうなくらいなんじゃって思った瞬間、もっとして欲しい、もっと痛くして欲しいって、そんなことばっかり考えてしまう。
「誰でもいいんなら、なんで俺を呼ばねぇんだよ!」
「ち、がっ、せんせ、ちがう、よぉ……っ!」
誰でもいいなんて思ってない。誰でもいいから先生とでもって、そんなつもりで先生としてるワケじゃない。
「ホントに、ちがうのっ! あっ、あ、ああぁぁ……っ!」
「違う? なにが違うっ!」
太い指にくちゅくちゅ掻き回されて、ぐいっとリングを押し付けられて、奥までひくひくする。気持ちいい。すごく気持ちいい。だから、もっと。もっと、すごいことして。床に捨てられた魚のように身体をくねらせながら、膝を開いて先生の指を誘い込む。そんなあたしの反応に、先生がぎっと眉を吊り上げた。
-つづく-
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