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R18 らぶえっち小説Blog
えっちな表現が盛りだくさんにつき、18歳未満&清純派さん回れ右!
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花を召しませ・番外編3~ライクネスラブ~24
2007年07月01日 (日)
「そんなもんじゃねーの?」
 あっさりそう言うと、オーナーは軽く肩をすくめた。
「ひよこも、一番最初に見たものにくっついて回るって言うしなァ、俺らも似たようなモンなんじゃねーの」
 言いながら彼は取り出したタバコを咥えた。左手に握ったままだったライターをタバコの先へ近づけて火を移すと、大きく一度吸い込んで火を定着させてから、あごを突き出すようにして軽く頭を下げてくれた。
「何をどう言い訳したって影響はゼロじゃないだろ、確実に」
 ふわーっと昇って行く煙をしばし見送ると、彼は俺にちらりと視線を向けた。
「世間でも言ってンだろ、男はみんなマザコンだって。できりゃ否定してーけど、事実っちゃ事実だしなァ」
「え、あ、いやそれは……確かに、そうなんですけど」
 彼の母親の、肝っ玉母ちゃんと言う表現が一番相応しいおばさんは、今も元気いっぱいらしい。だから、俺が彼女に抱く奇妙な罪悪感は、彼には伝わらないだろう。
 それでも、自分で壁を作っても意味はない。否定から初めても何も変わらない。必要なのは全肯定でも全否定でもなく、取捨選択を間違えないことだ。他人の言葉は新しい思考経路を作るきっかけになる。
「あいつだってなァ、うちの母親に似てるぜ」
「有理さんがですか?」
 訊き返すと、オーナーは頷きながら苦虫を噛み潰したように、眉をひそめて口をへの字に引き結んだ。
「特に、口うるさいところがそっくり――」
「あたしがなんだって?」
 背後から聞こえてきた鋭い声にぎくりと身体が固まる。
 慌てて振り返ると、足の甲に大振りのビーズが絡みついたデザインのサンダルからすらりと伸びたきれいな脚を惜しげもなく見せた女性が、いつのまにか大きく開いていたドアのすぐそばで、挑発的に腕を組んで俺たちを見おろしていた。
「有理さんっ」

 -つづく-
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花を召しませ・番外編3~ライクネスラブ~終話
2007年07月02日 (月)
「お、おまえ、いつのまに……」
 動揺する俺たちをあごを突き出すようにじろりと睨みつけながら、有理さんはつかつかとオーナーに近づいた。鮮やかなブルーのシャツを着たごつい肩にあでやかな仕草で手を回しながら、わざとらしくにっこりと笑う。
「で、あたしがなんだって? もっぺん言ってみな」
「や、いや、だから……」
「だから、なんだっての?」
 きわどいカッティングで胸元を強調するゴールドのキャミソールと、レースで作った羽根を貼り付けたかのような、どこがどうなっているのかわからないミニのスカート。華やかな巻き髪とそのあいだから覗く大きなピアス、首から胸へと巻きついた派手なネックレスは、夜に相応しいゴージャスさだった。どうして、この人とあの美雪さんが親友なんだろう。
 それはともかく、有理さんの目がオーナーにだけ向いている今がチャンスだ。この機を逃せば、どんなとばっちりが跳んでくるかわからない。俺が彼に相談を持ちかけたことがこのイザコザの遠因だから、申し訳ないとは思うけれど、それでもここは三十六計より確実に。
「じゃ、俺はカウンタに戻ります」
 まだ半分も減っていないタバコを灰皿にねじ込むと立ち上がる。
「こ、こら、シズっ! この薄情者っ!」
「すみません、オーナー!」
 有理さんに首根っこを押さえられたオーナーから目をそらすと、事務所を飛び出した。


 多分、オーナーの言葉は正しいのだろう。
 廊下を歩きながら思わず溜息をついた。
 もしかしたら俺たちは、幼い頃からの記憶にくさびのように打ち込まれた意識に従って、母親に似た人を探しているのかもしれない。産まれながらにかけられた呪縛のようだと思わなくもないけれど、でもそれが美雪さんと出会えるきっかけであったのなら、ありがたいくらいだ。呪われるのも縛られるのも、彼女が相手なら悪くない。
「つまり、美雪さんが好きなだけ、か」
 ふいに感じる空気は怖くなるくらい似ているときもあるけれど、でも違う。あれはきっと、女性特有の優しい雰囲気が共通するのだろう。
 俺は親父とは違う。何があっても好きな女をあんな目に遭わせたりしない。
「絶対、幸せにするんだ」
 口の中で小さく呟いて、そしてフロアへと続くドアを開けた。

 -おわり-
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「ライクネスラブ」終わりましたーっ☆
2007年07月02日 (月)
4/27に連載を開始した「ライクネスラブ」、ようやく終わりましたーっ!
約二箇月のおつきあい、ありがとうございました♪

シズくん視点の一人称と言うことで、美雪さん視点に比べればやっぱりちょっと難しかったのですけれど、心配していたよりはスムーズに話が進んだのでホッとしています。
本編でも散々情けない部分を出してくれてたシズくんですが、さらに情けなく……い、いいのっ?これでいいのっ?シズくんファンのかたに怒られちゃわないっ? と、ドキドキしています。

えっちしーんに関してはキッチンプレイ、騎乗位、言葉攻めと、シズくんらしく。ナマで中だしなんてしちゃったりして、もー、らぶらぶ!って感じですが、これはお話の中のことです。
言うまでもないことですが、みなさんはそういう危険なえっちをしちゃだめですよっ!一時の気の緩みが致命的!
作中でシズくんも言ってましたが、HIV感染は他人事じゃないのです(参考:レッドリボンキャンペーン)ちゃんと[AD-IMG]コンドームを使ってセーフティSEXしてくださいね!

ともあれ、みなさんが楽しんでくださったことを願って。
たくさんの「よかったよ♪」やお言葉、コメントなどなど、嬉しかったです。なんとか無事に最後まで書けました。
みなさんの応援の力のお陰です。本当にありがとうございました☆
これからもよければ、またどうぞよろしくお願いします♪
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お言葉頂きました☆
2007年07月04日 (水)
おはようございます、にゃおです☆「ライクネスラブ」が終わってちょっと一息ついてました。
そして、お言葉いただきました☆ありがとうございます♪

>ライクネスラブの22話、カテゴリが間違ってますよー
>ライクネスラブ22が「この指を伸ばす先」に収まってます。
お返事が遅くなってごめんなさい。ご指摘ありがとうございましたv

>シズくん視点楽しかったです。情けなくなんてないですよー。美雪さんにはまったきっかけが知りたかったので大満足です。
ありがとうございます。喜んでいただけたならにゃおもとっても嬉しいですv
結局マザコンかよって思われるかもしれませんが、オーナーも言ってますけど、多分そんなものなんでしょうねー。にゃおのダーリンもそうみたいですし。男の人ってそういうもので、それは仕方のないことなのでしょう。
ね、シズくんやらしーですよね! でもそんなところもよかったりして。優しい言葉でいじめられるのも素敵だなあってにゃおは思うのですv
「この指を―」もドキドキしていただけるように、がんばります☆

>リンさんへ
>ライクネスラブよかったです!!
ありがとうございます!よかったって言っていただけるとホッとしますねー☆
「この指を―」もね、頑張らないとダメですね。また真っ白なので…(;-;)
ええと、本当にがんばります!

>楽しませていただきました! ありがと~~~~!!!
こちらこそ、ありがとーーーっ!です!
楽しんでいただけて嬉しいです。「この指を―」も真っ白なんですが、ええと、がんばります!

本当にたくさんの「よかったよ♪」ありがとうございました!
多分書くのが早くなると思うので、また気が向いたらぽちっと押してやってくださいなv
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この指を伸ばす先-53
2007年07月06日 (金)
「あー、もうっ! なんだってのよっ!」
 就職を機に始めた独り暮らしのアパートに、普段よりも二時間以上早い午後四時台に帰り着いた理香は、身に着けていた全てを脱ぎ捨てるとそのまま風呂へ駆け込んだ。まだ温まりきっていないシャワーを頭からかぶって悲鳴を上げながらも、いつもの倍以上の時間をかけて全身を清める。拭き取った跡がまだ少しベタつく顔を、専用のスポンジで入念に泡立てたメイク落としで洗い、浴槽にお湯を溜めながら入念に歯を磨いた。必要以上に乱暴に歯ブラシをこね回し、ガラガラと音を立てて口内をゆすぐ。
「なんであたしがこんな目にーっ……げほっ」
 大声を出すと、のどの奥が痛む。今日一日、散々に叫ばされた結果だった。襲われた事実もさることながら、自分がどう応えてしまったのか、それを思うと理香の身体に電流が走る。けれどそれは冷たい恐怖と同時に、理香の思考の芯を蕩かせる甘い記憶でもあった。
「や、やだやだっ!」
 子犬のように濡れた髪を振りまくと、理香は歯ブラシをプラスティックのピンクのコップに立て、それをタイル棚に置いた。肌に残った泡を流しざぶりと湯船に浸かる。半ば寝転ぶように脚を伸ばし肩まで浸かると、ふーっと強く息を吐き出した。
「先輩とまた会っちゃうなんて……サイテー」
 俯くと、身長のせいもあってそれほど長くはない脚の付け根の丸い小さな丘の翳りが目に入る。普段から見慣れていたものよりも更に薄くなっていた。理香は数秒戸惑ってからおそるおそる手を伸ばし、わずかな痛みを訴えるそこを指先でなぞった。ムリヤリ脱毛させられた地肌の残り少ない蔭越しに、痛々しく赤い毛穴の跡がポツポツと浮いているのが見える。
「こんなこと、するなんて」
 しかも、平気な顔で。
 行為後、抱き寄せようとする亮治を拒否したことが理香の精一杯の虚勢だった。亮治の全てを許すつもりもこの状況に流されるつもりもないと、それだけは伝えておきたかったのだ。
「ひどいことするんだからっ」
 亮治に与えられた焼けるような痛みを思い出そうとして、けれど理香はぶるりと身を震わせた。
 屈辱も苦痛も、そのあとの激しいセックスの快感を超えることができない。拘束されるように男の腕で強く抱きしめられ、身体の内側を突き上げられこすりつけられる快感と甘く卑猥な褒め言葉に自分がどう応えたかそれを思うと、今日一日だけで普段の一箇月に相当するほど何度も達した箇所が、湯の中で熱く疼く。
 限りなくレイプに近い状況だったとは言え、約一年ぶりに女として求められた充足感が、理香の理性の届かない部分に奇妙にこびりついていた。
 ――そんなに、気持ちよかった? どこが気持ちよかった?
「えと、ね。ここ……」
 自分の内側から聞こえてきた淫猥な響きに、理香は触れていただけの秘所を指先でつうっと縦になぞった。

 -つづく-
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この指を伸ばす先-54
2007年07月07日 (土)
「んっ……。ん、んんっ」
 痛々しい赤い毛穴の跡が目立つ、ふっくらと膨らんだ丘の薄く残った翳りに揃えた人差し指と中指をを押し当て、理香は浅い息を吐いた。上下に何度も擦り付けられる刺激に身体が熱を帯びてくる。ぴったりと閉じていた縦のラインが徐々に口を開き、内側に収納されていた肉の花びらが隙間から顔を覗かせた。
 ――あれ、もう濡れてる?
「ちがうもん。これは、そういうんじゃないもん……」
 幼い口調で反論しながらも指を止めようとはしない。無意識のまま、理香を弄び焦らし狂うほどに泣かせた巧みな指の跡を辿る。強くこすりつけた拍子に、すでにぬかるみ始めていた粘膜はぬるりと指を吸い込んだ。
 ――ほら、濡れてる……。
「ちが……これはお湯が……あ、ん、んん……っ」
 喘ぎながらも理香は丁寧に自分の性感を掘り起こした。肉厚の花びらをなぞるように指先をこすりつける。入り口付近を浅く何度もほじり敏感な小さな芽をそっと撫でる。明らかに普通の水とは違うぬめりが指に絡み、ゆっくりと湯に解け始めた。
 ここ、それから、ここ。あと、この辺も気持ちよかったはず……。
「や、あっ……は、はっはっ、あ……ん、んんっ」
 絶え間なく湧き上がる快感にぶるりと身を震わせると、理香は空いた左手で小振りの胸をつかんだ。全体を揉みながら親指で頂きをカリカリと引っ掻く。見る見るうちにぷくりと勃ち上がった乳首をきゅっとつまみ、さらに指先で転がした。
「あ、はぁ……っ、ん、んん……あ、ん……」
 ――理香、何してるの?
「ん、とね、おなにー」
 とろんとした目で水面越しの淫らな行為を眺めながら、理香は子どものように呟いた。
 ――こんなことしちゃうなんて、やらしいね?
「うん、やらしいの。でも、いいの……いい、の……ん、ああっ!」
 ひざを立てるようにゆっくり両脚を開く。ふとももを抱きかかえるように手を回し、大きく開いた脚の付け根に指先を沈めて行く。
「や、あ、はっ……はぁっ」
 開いた唇から熱い息を吐きながら、指先で自らを追い詰めて行く。突き込んだ指と併せて赤く充血したクリトリスをなぞる理香の身体がふるふると震え始める。温浴効果も相まって、額と胸元に汗が浮き、つぅっと肌を滑って行く。
「あ、はっ、あ……あ、あ、ああっ!」
 イっちゃうイっちゃう、イっちゃううっ!
 のどをそらしガクガクと腰を揺らし、理香は自らの指での絶頂を貪った。
「や、ああ……! あ、はっ、はっ……は、あ……っ」
 徐々に快感の痙攣が引いて行く。それと同時に理香の内側から沸きあがってきた自己嫌悪が、雫となって頬を伝った。

 -つづく-
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お言葉頂きました♪
2007年07月07日 (土)
おはようございます、にゃおです☆
ここしばらくお腹が妙に痛くて…ってダーリンに言ったら「アイス食べ過ぎー」って。
うん、確かにそうかも。だって暑いんだもんー。
にゃおはクーラーが苦手なので、どうしてもアイス食べちゃうのです。ソフトクリームも大好きっv


さてさて、お言葉いただきましたー。
ありがとうございますv
>ライクネスラブ完結、おめでとうございます&ありがとうございました!
いえいえ、喜んでいただけたら嬉しいですv
そちらさまに伺う時間がなかなか取れないでいるのですが…楽しみにしていますv

>あんな人が彼氏だなんて、美雪さんが羨ましいですっ
いや、結構美雪さんはイロイロと大変じゃないかなって思うのですが…(^^;)
あ、でもシズくんが素敵って言っていただけて嬉しいです。やっぱり男の人はカッコよくないとね!

いつも「よかったよ♪」やコメント、お言葉などなど、ありがとうございますv 「ライクネスラブ」も終わったことですし、また新しいお話を考えたいなーと思ってたりしてます。らぶえっちなのをね。何がいいかなあ、みなさんはどんなのがお好きかなあ。そうやって二つ同時に書いてバランスを取れば「この指を―」を書くのも結構楽しいのですよ。
そんなわけで進みの悪い「この指を―」ではありますが、どうぞよろしくお願いしますっ☆
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お言葉頂きました♪
2007年07月10日 (火)
おはようございます、にゃおです☆
現在オフ生活や体調なんかの問題で、ちょーっと連載が滞っている状態です。ごめんなさい。今日は一日休みなので、これから頑張ってみます。

あと、まとめ読みサイトプッシーキャットテイルに「花を召しませ」番外編~ライクネスラブ~の二話三話をUPしました☆今回もこちょこちょと加筆修正はしていますので、気が向いた人はどうぞゆっくり読み直してみてくださいな。
そして誤字やヘンな脱落があった場合はまた教えてくださると嬉しいです。


お言葉いただきましたーっありがとうございますv
>年の(とても)離れた教師と女子校の高校生のお話が読みたいなぁと。
「ライクネスラブ」完結祝いのお言葉ありがとうございますv
そして、前に言っていたリクエストみたいなことですね。
先生と生徒かぁ、いいですねーっv にゃおもガッコの先生を好きになったことが二度ほどあるので、とても惹かれるのですっ☆
絶対に叶わないっていうのは先生が既婚者とか、そういうことなのかな。その辺ももうちょっと詳しく教えてくだされば書きやすいかなぁと思うのですけれど…
あ、でも、前にも言ったように、にゃおはどんなものもすらすら書けるわけでもないですし、気分がノらなければどんなに頑張っても書けないものは書けないので、絶対に書く!と言い切ることはできないのですけれど…。
そんな曖昧な条件でもよければ、教えてくださいなv


>にゃおさんの文章、どんどん冴え渡って行かれますね^^
きゃーいつもありがとうございます!
にゃおの身体のことも心配してくださって…本当にありがとうございます!おねーさまってカンジですよね。にゃおがおねーさまって言ったらちょっとやらしーかもしませんが…(^^;)
けど、褒めすぎですっ照れますっ!
褒められ慣れてないので、こんなに褒められちゃってどうしたらいいのやら…、おろおろってカンジですが、でも嬉しいです、ありがとうございますv
確かに一人称より三人称のほうがにゃおには難しいのですが…できるだけクールに、と情景描写に努めています。気持ちが引き締まるといえば、そうなのかもしれませんけれど、「この指―」はえっち満載なので、どちらかといえば潤…あわわ。
あと、にゃおの全年齢作品のことですが、うーんと、発表している名前も違うし、一緒にやっている人もいて、その人たちは「にゃお」のことを知らない(というか教えられない(^^;)ので…やっぱりちょっと、今のところお教えするのは状況が難しいです。ごめんなさい。(;-;)

でも、少し前からにゃおの全年齢作品のことを気にかけてくださっている方がぼちぼちいらっしゃるようなので、もしもみなさんが望んでくださるのなら、えっちなし恋愛のおはなしを書いてみるのも面白いかな、とも思います。
いかがでしょうか?

いつも「よかったよ♪」やお言葉、コメントなどなど、本当にありがとうございます! 
またもや進みが悪くなってしまった「プッシーキャット☆テイル」ではありますが、気長ーにお待ちいただけると、ええと、嬉しいです…
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この指を伸ばす先-55
2007年07月10日 (火)
 スイッチの入った携帯電話が最新のJポップを鳴らし始める。ぴくりと肩を震わせると、理香は薄い毛布から右手を伸ばした。
「んー。もう、朝ー?」
 枕元にメガネと並べて置いていた携帯電話を握って引き寄せると、理香はそれをぱちりと開いた。ボタンを押して音楽を止めようとして、首を傾げる。
「あれ……?」
 ライトストーンで囲まれた大きな液晶画面には、携帯電話からの着信であることを示すゼロから始まる十一桁の数字が表示されていた。先ほどの音楽は目覚ましのアラームではなく、電話が掛かってきていたのかとぼんやりと理香は納得した。見知らぬ番号からの着信は普通ならば警戒するのだろうが、理香はアパートに固定電話を引いていないため、携帯電話の番号が社内の書類にも連絡先として掲載されている。社内の人間から電話が掛かってくることも何度かあった。それにしてもこんな早くに誰からだろうかと思いながら、理香は急いで通話ボタンを押した。
「はい、もしもし……?」
「おはよう、理香」
 笑みを含んだ、爽やかとも言える声が返ってくる。理香はしばし手の中の小さな機器を見つめ、そしてもう一度そっと耳に押し当てた。
「あの……。どなた、ですか?」
「どなた? おいおい、俺の声をもう忘れたか」
 そう言われたところで理香に心当たりはない。馴れ馴れしいごく親しい間柄ならではの言葉は、おそらく恋人相手に掛けたつもりなのだろう。男の方からモーニングコールをするとなればアツアツのカップルなのかもしれない。それを羨ましいと思いながらも、理香は番号を間違っていると告げようとした。
「あの、失礼ですが……」
 そこまで言いかけたところで、先ほど『理香』と呼びかけられたことが稲妻のように戻ってくる。
「理香?」
 傲慢な口調、強引な腕。自信に満ちた態度と落ち着いた声。濃い眉の下の、優しそうにも冷酷にも見えるまなざし。どれほど忘れようしても忘れられない、何度も自分を貫き悲鳴を上げさせた激しさ――。
 まさ……か……。
「りょ、りょうじ……せんぱい……?」

 -つづく-
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この指を伸ばす先-56
2007年07月13日 (金)
「やっとわかったか。おはよう、理香」
「お、おはようございます」
 わざとらしい溜息混じりの亮治の声に応えながら、理香は枕元に残ったままのメガネに手を伸ばした。薄いピンクのセルフレームを片手で開き、耳に引っ掛ける。視線の焦点が合わずほわりと膨らんでいた部屋全体が、メガネで矯正されることによってきゅっと引き締まり焦点が合う。クセのある髪がヨダレを糊に頬に張り付いていることに気付き、左手で梳き流しながら理香は毛布を足先で払い除け布団から抜け出た。
「どうしたんですか、こんな朝早くに」
「ん、ああ。いや、何」
 訝しげな理香の言葉に意味のない言葉をいくつか並べると、亮治はこほんと軽い咳ばらいをした。
「理香、今すぐ出て来られるか?」
「ムリです」
 間髪入れず答えながら、理香は壁に張り付いた丸い時計を見上げた。デフォルメされた小さなうさぎが示す時間は、六時五十二分。理香の普段の起床時間よりわずかに早い。
「どれくらいで出られる?」
「どれくらいと言われても、えーと……」
 理香がいつも起きるのは七時ちょうどだった。着替えとメイク、ヘアセット、それにオレンジジュースとカップヨーグルトと買い置きのミニマドレーヌという簡単な朝食を摂るだけでも、それほど手早いとは言いがたい理香には時間がかかってしまう。そこから駅まで歩いて十二分、時折駆け足を交えながらなら九分。乗換えを含めて電車で約三十分、更に駅から八分歩いて会社へ入り、更衣室に駆け込んで制服に着替える。それが理香の毎朝だった。
「えと、ちゃんと九時までには出勤しますから」
「家を出るのは?」
 畳み掛けるような問いかけに理香はわずかに眉をひそめた。けれど寝起きの思考は積極的に動こうとはしない。亮治の求める答えの本質を見抜くこともなく理香はもう一度壁時計を仰ぎ見た。
「ええと、だいたい八時くらいです」
「一時間もかかるのか?」
「悪かったですねーっ」
 呆れたように返ってきた言葉に、顔を洗うだけで人前に出られる男とは違うと理香はムッと唇を尖らせたが、電話の相手にはそこまでは伝わらない。
「いや、女の支度は時間がかかると相場が決まっているからな」
 くっくっくと低く笑う声が返ってくる。相変わらずの余裕のある言い回しに理香は柳眉を逆立てた。
「わかった。じゃあ一時間後に」
 その言葉を最後に、理香が抗議しようと口を開く間もなく、亮治からの電話はぷつりと切れた。

 -つづく-
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この指を伸ばす先-57
2007年07月14日 (土)
「一時間後って……違いますよ? 会社に着くのは九時前で、八時は家を出る時間……って、ちょ、もしもしっ? 先輩ーっ」
 受話口から返ってくる音声の変化に通話が途切れたことはわかっていたが、理香はそれでも言葉を続けた。耳から外して液晶画面に浮かんだ『通話終了』の文字を確認し、溜息をつく。
「もうーっ、違うって言ってんのに……」
 折り返し電話をしようかと一瞬迷ってから、おそらく亮治は一時間後と二時間後を言い間違えたのだろうと考え直す。今まで考えたこともなかったけれど、あの人は意外とそそっかしいところがあるのかもしれない。そんなことを思いながら、理香は静かになった携帯電話をぱちりとたたみ、ゆっくり立ち上がった。
「お腹空いたし、今日は先にご飯食べよっと。それから顔を洗ってコンタクト入れよ」
 いつもとは逆になった手順を口に出して確認しながら、理香は両開き扉の押入れを空けた。
 押し入れの下の段の半分には、今の時期には使わない一人用サイズの電気コタツの布団が、その手前には掃除機が、もう半分にはホームセンターで購入したすのこ敷き詰められていた。すのこの上に毛布と敷布団を三つ折りにして入れ、すぐ上に枕を置く。そのまま立ち上がり、理香は上の段に横に二つ縦に三つ並んだ押入れサイズのプラスティック製チェストの引き出しを開けた。
「えーと秘書って、やっぱりスーツとか、そんなちゃんとした格好しないといけないんだよねぇ……。あたし、スーツってあんまり持ってないんだけど……」
 ぶつぶつ呟きながら、理香は一番上の引き出しから下着を、二段目からはインナー用のホワイトシャツを手に取った。押し入れをぱたりと閉じると次は壁際のクローゼットを開け、前にいつ着たのかも覚えていない紺色のスーツを引っ張り出した。
「入らなかったらどうしよう。別に太ってない、と思うけど……」
 不安げに言いながら、理香は空いた右手でパジャマの上から自分のウェストを軽くつまんだ。


 目覚め方と時間が少し違ったものの、それ以外は理香にとって普段通りの朝だった。
 三年前、就職活動用に買ったスーツのウェストが心配したほどもなくするりと入ったこと、いつも苦手で失敗することが多く朝の不機嫌の元でもある眉がここ何日かでトップ三に入るほどきれいに書けたこともあって、気分よく出社へ意識を向けることができた。鼻歌混じりに、学生の頃から使っているキーホルダーを片手にドアに向き直り、カギをかける。
 その途端。
「おはよう、理香」
 背中へと飛びかかってきた聞き慣れてしまった声に硬直した。

 -つづく-
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お言葉いただきました☆
2007年07月14日 (土)
おはようございます☆にゃおです♪
ここしばらくちょっとなんのかんのと忙しくて…って言い訳もみなさんもう飽きたんじゃないかなーと思うのですが。
本当に、とびとびの更新でごめんなさい。
もっと余裕が欲しいなあって思う今日この頃です…

お言葉頂きましたー!ありがとうございます!!
>2作品同時進行は、気分転換になる分、作品を書く時間が制限されて大変だったのでは、とお察しいたします。
きゃー、水樹さんっ!ライクネスラブ完結へ、おめでとうのお言葉ありがとうございます!そして、ご無沙汰ばっかりでゴメンナサイ。でもお言葉くださってとっても嬉しいです!
そうですね、確かに同時進行って難しいところもありますよね。水樹さんもこないだ「金の髪の―」と「GB」でしてらっしゃったし、その辺りはおわかりくださるかなーって思いますけど。でもにゃおは割合的に楽しいほうが多かったかなー。「この指を―」はわりとハードなので、らぶらぶなのを一緒に掻くほうがいいみたいです(笑)
そして、そう!アイス! 実はさっきも食べちゃいました…えへv
にゃおが一番好きなアイスクリームはセンタンのチョコバリ(公式ページ。結構重いページなので気をつけてクリックしてくださいねー!)なのです。チョコとアイスとナッツが絶妙~♪箱買いしちゃいそうですv

>彼女と浴衣と夏の日と の最終ページ、何行か飛んでませんか?
ご指摘、ありがとうございます!
お返事は遅くなってしまったのですけれど、対応はその場でしました。本当に、こういうご指摘はとっても嬉しいです!ありがとうございます!!
これからも見つけたらガンガン教えてください☆

>よかったよ♪ とても上手い!
きゃーっ照れますねーっ!
でも嬉しいです、ありがとうございます。これからもそう言っていただけるように書ければいいなあっておもいます☆

>リクエストの続きです。
なるほどです…。
確かに、いろんな意味で難しいですねえ…
あなたの思うとおりなものが書けるとはとても思えませんけれど、にゃおなりにいろいろ考えてみます。お話としてわかりやすくあちこちちょこっとイジったりしますので、設定は変わるでしょうけれど…
期待せずにのんびりお待ちくだされば嬉しいです。
そして、無用な期待をさせないために、ムリならムリだと早めに申し上げます。がっかりさせてしまうことは不本意ですけれど、意味のない期待で引っ張ることも失礼だと思うので…
ともあれ、頑張ってみます。

いつも「よかったよ♪」やコメント、お言葉などなど、本当にありがとうございます!にゃおの頑張ろうって力の源なのですv
これからもよければまたどうぞよろしくお願いします☆
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この指を伸ばす先-58
2007年07月17日 (火)
「せ……せんぱ、い……?」
 思わず棒立ちになった理香の肩と腰に背後から長い腕が巻きつく。布越しに感じる強い力に首だけで振り返ろうとした理香の頬に亮治の唇が押し当てられた。
「ちょ、ちょっせんぱ、こんなとこでやめて……うげっ」
 不意打ちのキスに驚いた理香は、上半身を拘束されるように抱きしめられた中で何とか自由になる腰から下をじたばたと動かすが、肺の中身を絞り出すかのような勢いで一気に強まった腕にささやかな抵抗も止まってしまう。
「こら、そんなに擦り付けるな。朝っぱらから俺を誘惑する気か?」
「ゆうわ……って、だ、誰がっ! 放してくださいっ!」
 覆い被さるように抱きしめられたまま、通勤用のバッグを振り回すように暴れる理香にくすりと笑うと、亮治はゆっくりと腕を解いた。
「やれやれ、相変わらずムードがないな、理香。上司がわざわざ迎えに来たんだ、もうちょっと歓迎してくれてもいいと思うが」
「頼んだ覚えはありません!」
 突き放すように叫ぶ理香を、三つ向こうのドアから顔を出した学生らしき男が胡乱な目を向けた。その視線に頬を赤らめ声を収めると、理香は俯くように玄関の施錠を確認し、カギをいつも通りバッグの内ポケットに入れたた。
「こんなことしてくれなくても、仕事くらい自分でちゃんと行きます。子どもじゃないんですから……」
「そうか。確かに、それはそうだな」
 軽い言葉で肯定する亮治を理香はちらりと見た。
「確かに子どもじゃなかったな。子どもはあんないやらしい声は出さない」
「そ、そんな意味じゃっ」
「違うのか?」
 からかうように口の端を歪めて笑う亮治に、理香は諦めの溜息をついた。一対一の場ならばらともかく、小さなドアの立ち並ぶアパートの廊下で言い争えば、耳を澄まさなくとも住人に丸聞こえだろう。学生の頃は周囲の目も気にせずにいられたが、議題がセクシャルな内容になるとわかっている今は、人目のある場所での亮治との口論は厳禁だった。そうでなくても、居住地周辺で噂の的になるような行動はできるだけ避けたい。
「まあ、それはいい。行くぞ、理香。話なら途中でもできる」
 言いながら亮治はさりげなく腰に手を廻し、理香を促した。一歩引いて手をかわしながら頭一つ分高い位置からの視線に眉を逆立てて見つめ返すが、返ってくるのはわずかに苦笑の混じった余裕の態度だけだった。
 誰にどんな目で見られようとも気にしない、悪びれた様子のない堂々とした姿は、昨日とはほとんど何も変わってはいなかった。オーダーメイドなのか、身体にぴったりと合ったダークグレイのスーツと一点の汚れもない真っ白なシャツ、顔が映りそうなほどに磨き上げられたビジネスシューズ。なめらかな艶を放つネクタイは落ち着いたベージュ地に点線のような細い黒のラインが斜めに入っていた。
 ――相変わらずのお坊ちゃまぶりで。
 せめてもの仕返しにと、理香は亮治に聞こえないほどの小声で呟いた。

 -つづく-
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この指を伸ばす先-59
2007年07月18日 (水)
 裕福な家庭で育ったとは言いがたい理香にとって、オーダーメイドスーツなど夢のまた夢だった。仕事場に着て行けるようなきちんとしたスーツは、三年前に量販店のリクルートセールで買ったジャケットとパンツとタイトスカートの三点セット、それに喪服を兼ねたワンピースとボレロのアンサンブルの二つだけだ。入社式も新人研修もこれらの組み合わせで通した。
 どちらかと言えばカジュアルな服装が好きな理香は、夏場はサンダル、秋冬はブーツがメインで、パンプスもバッグもきちんとしたものは片手で数えられるほどしか持っていない。女子社員の制服があった昨日まではどんな服装で出勤しても着替えれば済んだため、ジーンズにTシャツ足元はスニーカーというラフな格好で通勤しても何の問題もなかったが、なぜか制服が支給されない秘書職に就いてしまった今、毎朝のように着て行く服に悩まなければならないだろう。昨日なしくずし的に手に入れた黒のパンツスーツを頭数に入れても、一週間も経たないうちに困窮するのはわかりきっている。そんな自分に比べてこの男の優雅なことを思うと意味もなく苛立ってくる。
「どこへ行くんですか。あたし、仕事が……」
「だから、俺がおまえの上司だと昨日言っただろう。俺と一緒に来ればいい。それがおまえの仕事だ」
 言いながら亮治は理香の腰を軽く叩き、自分が先に立って歩き出した。
 自分と一緒にいるのが仕事だと言う亮治の理論は呆れるほど乱暴なものだが、理香は秘書の実態を知らない。そのようなものなのかと首を捻りながら、理香は亮治のあとを追った。
「急げよ。予定時間に遅れる」
「はいっ」
 わざわざアパートまで迎えに来るとは何事かと思ったが、仕事と言うのは嘘ではないようだった。本当に急な仕事が入ったのかもしれない。自分が知らないだけで、大切な会談があるのかもしれない。
 亮治の仕事内容さえも知らないが、役員が一人で出歩くのは威厳に欠けるのだろうと理香は考えた。さして役に立たない秘書であっても鞄持ち程度には使える。能力的に考えても、自分にできることはその程度だ。もっと重要な仕事は達也に振り分けるのだろうと、努めて前向きに思考を巡らせる。昨日の今日で亮治を信用するのは難しいが、上司命令とあっては従わないわけにもいかない。そう考えるほどには理香も会社に馴染んでいた。
「で、どこへ行くんですか?」
 慣れないパンプスとタイトスカートで懸命に歩いてくる理香をちらりと振り返り、亮治は立ち止まった。アパート前の、狭い道の端に停められていたメタリックシルバーの国産高級車をあごで指し、ポケットから取り出したカギを右手で示しながら軽く頷く。
「これだ。乗れ」
 どこへ行くのかって訊いたんだけど。
 内心で不服げに唇を尖らせ、けれど理香はおとなしく助手席のドアを開けてその隙間に滑り込んだ。

 -つづく-
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お言葉いただきました!
2007年07月19日 (木)
おはようございます、にゃおです。
ええと、あっちこっちで大雨と地震で大変なことになってますよね。
アクセス解析を見ると、全都道府県に「プッシーキャット☆テイル」にきてくださってるかたがいらっしゃるようで、なので今回お家や地域が大変なことになってる人もいるかも…と、思います。
自分に関係のある人は大切でそうじゃない人はどうでもいいとか、そういう意味じゃないのでそんなふうに取らないでくださいね。にゃおは実は中学生の時にお家が壊れた経験があって、そのとき結構ショックを受けたのを覚えているので、災害に遭ってしまった人の気持ちもそれなりにわかるつもりです。
にゃおには何もできませんけれど、どうか早く復興しますように、と願っています。


お言葉いただきましたー。ありがとうございます☆
>『あたしの彼はご主人さま』メチャクチャツボです。特に「番外編 俺が彼女を縛る理由」の雰囲気が甘くて好きです。
ありがとうございますっ!ユーキさんの一人称も人気あるみたいで、にゃおも嬉しいです☆
番外編は、これはこれで題材を探すのが結構難しいので、今すぐ書けるものではないんですけど…。でもそろそろ「あたしの彼は―」も動き出さないといけないかなー。第四部の構想を練ってはいるんですけれど、これもなかなか難物で…
ええと、がんばります。

>にゃおさん、大好き♪
ありがとうございますv 元気出ます☆


ええと、いつも「よかったよ♪」やお言葉、コメントなどなど、本当にありがとうございます!
暑くてぐてーってなってしまっているにゃおですが、これからもまた気が向いたときにでもぽちっと押してやってくださいな☆
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この指を伸ばす先-60
2007年07月20日 (金)
 運転席の亮治は、シートベルトを締めドアをロックしエンジンをかけると、車の切れ目にさりげなく入り込んだ。そのまま流れに乗って進む。その手馴れた工程を横目に見ながら、理香はシートベルトを締めた。
 出合った頃からそうだった。理香が一つのことで苦戦しているあいだに、涼しげな表情を保ったまま三つ四つの事柄を済ませる。そんな亮治をカッコいいと思わなくもなかったが、それ以上に周囲からのさりげなくそして時にはあからさまな言葉に、思春期の理香が傷ついたことも事実だった。
『どうして、あんたなのかしらね』
 そんなのあたしだって知らないわよっ。この人の性格の悪さも知らないくせに、勝手に憧れてんじゃないわよ!
 そう叫べるならばと何度思ったことだろう。どうせ誰に言ったところで信じない。相手は、家柄正しく品行方正な生徒会長。比べて自分は、何か飛び抜けて優れたところがあるわけでもなく、いい意味でも悪い意味でも平凡な一生徒だった。周囲がそのような目を向けてくるのも仕方がないと諦めていた。何か危害が加えられるならばまだしも、厭味の言葉は聞き流せばそれでいいだけだと大人しく俯いて黙っていたが、その度ごとに胃の中がぐるぐると掻き回されるような思いをしてきた。
 あー、思い出しただけで腹が立つ……。
 ぎりりと力いっぱいこぶしを握りしめながら理香は奥歯をも噛みしめた。
 ――何もかも、この男が。
 睨み付けた横顔のその瞳が、ふいに理香へと向けられた。
「理香」
「何よッ!」
 反射的に出たケンカ腰の理香の返答に驚いた亮治の身体が一瞬止まった。やや不自然な動きで首を傾けるように横目を流し、けれど口元には落ち着いた笑みを浮かべる。
「どうした、理香」
「え、あ、い、いや、別に……」
 あからさまに動揺した理香が亮治の視線から逃げるように顔をそむけ、こほりと咳ばらいをする。過去はどうあれ、今の亮治は直属の上司だ。現状を喜んでいるわけでは決してなく、できるならば亮治から解放されて庶務課へ戻りたいと思っているが、それとこれとは別の問題だ。

 -つづく-
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この指を伸ばす先-61
2007年07月24日 (火)
「えっとえーっと、これからどこへ行くのかなあって」
 それでもなんとか意味のある言葉を繋げると、理香は取り繕うように曖昧な笑みを眉をひそめた亮治に向けた。わずかではあるが気弱な部分を見せる理香の態度に、亮治の唇の端が意地悪く歪む。
「心配か?」
「心配?」
 オウム返しの問いかけに亮治は密かに微苦笑を浮かべた。不思議そうに首をかしげる理香に視線を流しながら、からかうようにわざと声を立てて笑う。
「なんだ、心配じゃないのか。どこかへ連れ込まれたらどうするつもりだ」
「えっ、で、でもこれから仕事って……」
 目を丸くする理香に亮治は軽い溜息をついた。
「おまえもいい加減、俺が平気で公私混同する人間だとわかっているだろう。仕事だと嘘をついた可能性もあるんだぞ」
「えっ、そうなんですか?」
 素直に驚く理香に耐え切れず、亮治は吹き出した。肩を揺らし声を上げて笑う。バカにされたと気付いた理香がぷうっと頬を膨らませ睨みつけるが、亮治はそれにも構わず笑い続けた。
「おまえ、そんな性格だったか?」
「どういう意味ですかっ」
「そのまんまの意味だ。理香、もっと用心したほうがいいぞ。世の中悪いヤツだらけなんだからな」
「先輩みたいに?」
「そう、俺みたいに」
 くっくっくとのどの奥で笑いながら、亮治はバックミラーとサイドミラーを交互に確認した。車体に大きく会社名を書いた業務用のワゴンをやり過ごしてから、ウィンカーを出して素早く車線変更をする。そのまま左端に寄り、歩道を横断してその向こうの建物の敷地に入った。どこに行くのかとフロントガラス越しに背の高い建物を見上げた理香がひきっと硬直する。
「な? だから言ったろ」
「な、な、な……」
 おかしそうにくすくす笑いながら地面に描かれた矢印に沿って車をゆっくり進ませる亮治を、握りこぶしをわなわなと震わせた理香が睨みつけた。
「なんでホテルなんですかっ!」

 -つづく-
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近況報告みたいなの?
2007年07月24日 (火)
おはようございます、にゃおです。
ええとですねー。またかよって思われるかもしれないんですが、にゃおまたもや体調崩しちゃいまして。
不正出血って言うのかな、女の子期間じゃないのに出血があるんです。にゃお前からこういうのあって、お医者さんに行ったりしたこともあるんですけれど、そのときは特に問題はないよって言われて帰って来たのです。
でも今回はすごくひどくて、貧血気味になっちゃうのかダルくて起きられなくて、一日の半分くらい寝てるんですよね。起きても根性がなくてパソコンに向かったり全然できなかったんです。
あれからしばらく経ったし、またもう一度見てもらったほうがいいのかなあ…行くの怖いなあ…
ここしばらく、こんな感じで。
でも食欲はちゃんとあるので、多分元気です。

更新頻度も落ち気味なのに「よかったよ♪」やお言葉とかくださって、ありがとうございます。嬉しいです。がんばれるかどうかはわからないんですけれど、がんばります。
こないだの「先生と生徒」ってお話も書きたいなあって思ってるので、寝転んでダラダラしながら考えまーす☆でもにゃおが考えるとなんだか鬼畜っぽい話になってきて…にゃお、『好きな人に恥ずかしいことされる』ってシチュエーション好きだからv
ええと、これはフィクションですからね!と先に言い訳しておきます☆
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この指を伸ばす先-62
2007年07月26日 (木)
 久しぶりに会った大学時代の友人たちとランチで来たことがわずかに一度あるだけの高級ホテルを見上げて、理香はあごを突き出すようにして叫んだ。
「なんでと言われてもな」
 噛み付かんばかりの理香を横目に、ホテルの正面へと車を向けながら亮治は端正な表情を崩さず口の端だけでにっと笑った。
「ここがあっちの指定してきた場所だからだ。八時半に人と会うことになっている。今は……二十二分か。よし、間に合ったな」
「へ?」
 腕時計に目を落とし時間を確認する亮治の口から、思ってもいなかった方向で返ってきた言葉に、理香はぽかんと口を開けた。
「ええと、じゃあ仕事ってのはホント……?」
「そんなつまらない嘘を言ってどうする。さあ降りろ。二十三分になったぞ、あと七分だ」
 背の低い針葉樹が並んで植えられた正面口の、上半分がステンドグラスで飾られた豪奢な回転ドアの前に着けると、亮治はきゅっと車を停めた。身体をひねるようにして後部座席に置かれたファイルがたっぷり詰まった紙袋を取ると、理香の尻を叩くように追い出し、自らも運転席のドアを抜ける。
「え、でも、車こんなところに置いたら――」
「これは、榊原さま」
 慌てる理香の背後からやわらかな声がかかる。こんなところへ駐車してと怒られるのかと怯え、おそるおそる振り返った理香の目の前には、にこやかな笑みを浮かべる若いドアマンが立っていた。
「おはよう、近崎さん」
「おはようございます、榊原さま」
 若いと言っても三十前後のその年齢は、理香から見れば随分と年上だ。それは勿論亮治も同じことだ。年上の相手に『さま』付けで呼ばれるなど、理香の身には滅多に起こることではない。ちらりと隣の表情を見上げるが、そこに大きな変化はなかった。
 あたしだったらおどおどしちゃうけどなー。
 素直な感想を内心で述べながら、顔見知りらしい二人が挨拶をするのを理香はぼおっと眺めた。ホテルの従業員までが亮治を知っているとは、今まで何度来たことがあるのだろう。二度目である自分とは大違いだ。この年齢ではそれくらいが普通だとは思うが、だからこそ亮治と自分との差を見せ付けられたように理香には思えた。
 このお坊ちゃまが!
 朝から何度も思った言葉を小声で呟き、理香はわずかに溜飲を下げた。

 -つづく-
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お言葉頂きましたっ!!
2007年07月26日 (木)
おはようございます、にゃおです☆
ええと、本当にたくさん心配させちゃって…ごめんなさい。
でもとっても嬉しいです!
症状はですねー、三日ほど経ったのもあって出血は止まったんですけれど、とりあえずお医者さんには行こうって思っています。

お言葉いただきましたー。
>私は鬼畜っぽいの大好きですよ、ユーキさんもシズ君も亮冶さんもみんな素敵です(≧ω≦)
ありがとうございます!大丈夫です、ちゃんとお名前は伏せますからね!
ええと、確かにうちの男性陣は多かれ少なかれ俺様系ですよね…今のところ亮治さんが一番みたいですけれど。順番をつけるなら『シズくん<ユーキさん<亮治さん』ってカンジかなあ。いや、ユーキさんもかなりのものなので、この二人の差はあまりないのかも…ですが(^-^;)
そしてにゃおの身体の心配もありがとうございます。ムリせずダラダラします……ってダメじゃん!(笑)
でも、そっかあ、ストレスってのもあるんですねえ。にゃおは能天気だけど、それでもストレスってあるのかなあ…
ともあれ、がんばります!

冬樹凍矢さん
>亮治先輩、サイコーです! この小説を生み出したにゃおさんも素敵です!
きゃーありがとうございます! にゃおが素敵だなんて…照れますねっ☆
でも、亮治さんツボなんですかっ? ええっ?でもひどい人ですよっ?とか思ったり(笑)にゃおも俺様系の人はカッコよければ(重要だよねっ?)好きですけれどね(笑)
そして、体調の心配もありがとうございます。
前述の通り出血は止まりました。ダルすぎて起きられないっていうのも治まったので、これから少しずつ起きる時間を増やしていきたいなあって思います。
これからもどうぞよろしくです、とぺこり。

>子宮筋腫とかの可能性もあるので、病院行った方がいいですよー!
きゃー、そうなんですかっ?と、ドキドキ。慌ててネットで調べた結果に逆に怖くなりました。だってガンとか書いてあるんだもの!
びょ、病院行きます! 今日は別の用事があって忙しいので行けないですけれど。

>病院行ったほうがいいですよー!!何もなくてもちゃんと安心できますしね。
病院勤務ってことは、にゃおみたいな人も結構見慣れてるのかな。
安心できるってのは大切ですよねー。はい、行ってきますっ

水樹さん
>体調不良、なんだか大変そうですが、早く病院に行かれてご安心できますように。
うわー、わざわざすみません、水樹さん! 水樹さんこそいろいろと大変そうなのに、にゃおの心配までさせちゃってごめんなさいっ(><。
実はこないだこっそり伺って「GB」読んでました。ええと、香織ちゃんがワンピ買ってもらうところまで、かな。やっぱり高いのかなあ…って、見るところが間違ってるよっ!ゴメンナサイ

>う~んと自分を可愛がって甘やかしてあげてくださいな。
うーん、そうですねえ。
なんかね、痛いとか苦しいとかじゃなくて、とにかくダルくって、だから怠けてるみたいな気が自分でもしちゃうのですね。だから『自分を甘やかしてあげてくださいな』って言っていただけて、本当に嬉しかったです!ありがとうございます!


そしてたくさんの「よかったよ♪」もありがとうございました!
久しぶりにいっぱい並んでて、とても嬉しかったです。ありがとうございます!でも心配お掛けしてるんだろうなって思うと申し訳なくて…ごめんなさい(;-;)
これからもできるだけ頑張ろうって思ってるので、どうぞよろしくお願いします☆
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