2ntブログ
R18 らぶえっち小説Blog
えっちな表現が盛りだくさんにつき、18歳未満&清純派さん回れ右!
スポンサーサイト
--年--月--日 (--)
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
本当に、ありがとうございますっ!
2006年11月01日 (水)
 おはようございます、にゃおですっ☆
 いっぱい心配掛けてごめんなさい!
 そして、ありがとうっ!本当にありがとうございますっ! びっくりするくらいたくさん「よかったよ♪」を送っていただけて、にゃおはとても癒されました。元気になったのが思ったより早かったのも、熱が下がったのも、きっとみなさんのお陰です。
 もうみんな、大好き!

 そして本当は『お待たせしました!今日これから更新復帰です!』ってなるとよかったんですけど…。
 ええと、体調は戻ったんですけど、お話書く時間が上手く作れなくって…。ちょっと寝込んでたあいだにしないといけないことが溜まってしまってて…。
 本当にごめんなさい。明日かあさってには是非!! と気持ちでは思っていますので、どうかもう少し待ってやってください。お願いします
m(_ _)m
 本当にごめんなさい。がんばります!

 そして、おことばもたくさんいただきました!
 嬉しいっ(><。
『調子悪いんですか?ゆっくり寝てね。 お大事に! 』
 ありがとうございますっ! まだちょっと頭はぼーっとしてるんですけど、でもだいぶん元気になりました☆

『無理せずにお大事にして下さい。いつも楽しく読ませていただいてます。ありがとうございます。早く体調よくなったらいいですね。』
 にゃおの小説で楽しんでくださってありがとうございます! とても嬉しいです!
 体調はよくなったのですが…ううう、がんばります!

『お大事に。 げんきになってバリバリの更新(?)まってます。 』
 バリバリの更新がまだですみません! できる限りがんばりますので、どうかもうちょっと…もうちょっと…ううーっ

『いつも楽しみにしています。でも調子の悪いときはお体を大切にされて、休まれてください。続き、待ってます。』
 うわーん、優しいおことばありがとうございますっ!
 続きなかなか書けなくってごめんなさい!にゃおも精一杯がんばりますので、どうか見捨てないでやってくださいーーっ

 本当に情けないにゃおでごめんなさい。
 とりあえず歯医者さん行ってきます。きゅいんきゅいん削られてきます。とほほほのほ。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
花を召しませ-57
2006年11月03日 (金)
 ――ぴぴぴ、ぴぴぴ、ぴぴぴ、ぴぴぴ、ぴぴぴ、……――。
 しつこく鳴り響く耳障りな電子音で目が覚めた。
「んー……」
 目を瞑ったまま手を伸ばして、枕元を探った。ずれたシーツの上、マットレスから半ば落っこちそうになっていた携帯電話のストラップを、指先に引っ掛けてそのまま引き寄せる。サブディプレイに示されていた電話を掛けてきている相手の名前を確認してからケータイを開いて、通話ボタンを押した。
「んー、もしもし……?」
「みゆきっ!」
 脳に直接突き刺さるかのような大音量に思わずのけぞった。耳から遠く離して、まるでそこに相手がいるかのようにケータイを見つめる。聞き慣れた大声が早口でまくしたてるのをぼんやりと眺めた。
「何回電話したと思ってんの、今どこにいんのっ! ――ちょっと、聞いてるっ?」
 理由もわからないまま責められる。そう言えば何度か電話が掛かってきていたような気もするかも、なんて心の中で呟きながらわたしは軽い溜息をついた。
「どこって、うちに決まってるでしょ。寝てたんだから」
「えっ、ウチ? あ……あ、そう」
 トーンダウンした声にそっと耳にケータイを押し当てた。
「あーっと、もしかして寝てた?」
「もう二時でしょ。寝てたっておかしくないのよ、普通」
 まだ半分ほど眠ったままの頭で大きなあくびを吐きながら、手元のスタンドライトをつけた。ビデオデッキの表面に浮いたデジタル数字を読み取る。
「で、何の用なの、こんな時間に」
 普通ならばベッドに入っていてもおかしくない時間なのだけど、有理ならば話は別なのかもしれない。週に二回か三回は、朝まで遊んでいた店から大学へ直行していた彼女のことだ。当然のように講義を寝倒していたけれど、それでも定期テストではきちんとした点数を取っていた。彼女のそういうところはすごいと思う。
「そうよ、それそれっ!」
 すうっと一つ大きく息を吸い込んで、そして。
「美雪、あんた、シズとどうなってんの!」

  -つづく-
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
ありがとうございますっ!!
2006年11月03日 (金)
 おはようございます、にゃおですっ☆
 にゃおふっかーつ!ですっ!! どうも風邪だったみたいです。お騒がせしまして、ごめんなさい。
 ただその…ダーリンがにゃおの風邪感染っちゃったみたいで…。寒気がするとか言ってるんですよね。やっぱりにゃおが感染したのかなー。ちょっと心配です。

 さてさて。おことばいただきました! ありがとうございますっ!!
『元気になってよかったですね! 更新すんごく楽しみに待ってますよーー。でも無理しないでね。』
『毎日楽しみにしています。待ってますので無理しないでね!』

 お二人とも、本当に優しいお言葉、とっても嬉しいです!ありがとうございます!! 楽しみにしていただいた更新が今日ようやくできて、にゃおもとてもホッとしました。
 さあて、「花を召しませ」もそーろそろ…かな? さあもう一息がんばるぞっ☆

 そしていつも「よかったよ♪」を押してくださってありがとうございます!
 いつもとっても嬉しいなあって思ってたんですけれど、今回、体調を崩して更新できないのにみなさんが押してくださるっていうのは、みなさんがにゃおに頑張ってねって言ってくれてることなんだと思いまして。
 それって、にゃおが今まで書いてきた小説がみなさんに可愛がってもらっていたってことなのかなあって思って…。

 うー、感動ですっ!(><。
 これからもどうぞ、応援してやってください! よろしくお願いします!
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
花を召しませ-58
2006年11月06日 (月)
「どうなってんのって、そんないきなり言われても……」
 投げつけるような直球攻撃に眠気も一気に吹き飛んだけれど、眠かろうが眠くなかろうが、言いづらいことであるのは確かだ。言いよどみながら一番正解に近い言葉を探るが、それでもなかなか出てこない。
「あのね、わたしにもよく……わかんないんだけど」
 困りながらもそう告げてから、それが正しいのだとようやくわかる。そうだ。わたしはよくわかっていないのだ。
 彼がホストをしていたことをとやかく言うつもりは毛頭ない。人にはそれぞれ歩いてきた道があって、それが他人から見てどういう状況であれ、過去となった時点で本人にさえもどうすることもできないものになってしまうのだから。
 そして、彼とわたしがセックスをしてしまったことも問題はない。
 わたしは彼が好きで、彼もわたしを好きだと思ってくれていたのだから、それなりの年齢の男女が好き合えばそういう行為に及ぶのはごく自然なことだろう。わたしに経験がなかったことで、その過程が少々間延びしたのだけれど。
 彼の家庭環境もその苦しみに対する彼の行為も、他人であるわたしが口を出すことではない。
 ただ、問題は。
『俺、あの人に金で飼われてんの』
 楽しげで悲しげで、そしてなによりも自分を蔑むようなあのまなざしが、未だに咀嚼されないまま心の入り口に引っかかっていた。噛むことさえできないのだから、当然飲み込めない。指先に刺さったとげのようにいつまでもちくちくと痛みを伝えてくる。
「本当に……わからないの」
 あの日わたしは、何も言わずに服を着て、そのままホテルを出た。彼は追ってこなかった。だから地下鉄に乗って家に帰った。帰り着いたアパートの狭いお風呂場でシャワーを浴びて、一人で眠った。朝起きて、見覚えのある名前がずらりと並んだケータイの着信履歴に、嬉しいと思いながらもうろたえた。掛け直すことも掛かってきた電話に出ることもできず、聞こえない振りで通した。
 彼を軽蔑できたら楽でいいのにと思う。バカな男に処女を捧げたと怒ればいい。もう二度と掛けてこないでと言ってしまえばいい。
 それができない理由はただ一つ。
「あのさあ、あたしだってわかってんのよ。恋愛なんて他人がとやかく言うもんじゃないって。あんたにはあんたの言い分があるだろうし、それが正しいかどうかなんて、あんたにしかわかんないんだから。――でも、ね」
 彼女がふうっと大きく息を吐いた音が、ノイズ混じりの中、奇妙なほどクリアに聞こえた。
「でもシズが……ちょっと見てらんないのよ」

  -つづく-
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
お言葉いただきました☆
2006年11月06日 (月)
 おはようございます、にゃおです☆
 本当にこのところ更新ペースが…ごめんなさいっ!
 それでもたくさんの「よかったよ」を押していただけて、申し訳ないけどとっても嬉しいです!ありがとうございますっ!!

 おことばいただきましたーっ☆
『体調が戻ったようでなによりです。 』
 はい、ありがとうございますっ!! ご心配おかけしてごめんなさい。そして、心配してくださってありがとうございますっ!
 にゃおなりに精一杯頑張っていくつもりですので、どうぞこれからも見守ってやってください
m(_ _)m

 そして、サイトにもまとめ読み用をUPしましたーっ
 サイト版プッシーキャットテイル
 花を召しませ 一話から 十六話から
 今回はシズくんの仕事場であるクラブで、友だちの有理さんから美雪さんが忠告(?)されるシーンまでです。短いですけれど、楽しんでいただけるといいなあって思います。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
花を召しませ-59
2006年11月07日 (火)
 有理が教えてくれたのは、いつもスマートに仕事をこなしている彼らしくない状況だった。
 一昨日、何度も注文を聞き違え、それが原因でお客さんとトラブルになった。オーナーが出てきて謝り、なんとかその場は収まったらしい。翌日はグラスを割り、皿を割り、灰皿までも割り、挙句に今日はお酒の瓶を割ってケガをした。手のひらを五針も縫ったと言う。
 一昨日。
 彼と別れたのは四日前だった。つまりあの翌日が、有理の言う『一昨日』ということになる。
「そんで病院から帰ってきて、オーナーと話してたんだけど。『プライベートなことですから』とかぬかすのをさんざん脅して宥めて、ようやくあんた関連の話を聞きだして――」
「あのさ、有理」
 居ても立ってもいられなくて、とりあえずベッドから降りた。
 あの彼が、客とトラブルを起こすなんて考えられない。グラスを割るとかケガをするとか、ありえない。ありえないのに、どうして?
「今どこにいるの?」
「だから、店。今日は土曜だからね、オールナイト。カウンターはもう一人いるから助かったけど――」
「わたし、今から行ってもいい?」
 明日は仕事も休みだ。たとえ眠らなくても差し支えるわけじゃない。彼がケガをしたのならお見舞いをしないと。知らなかったのならいいけど、聞いてしまったことだし。
 自分に対する言い訳を頭の中で組み立てながら、ベニヤ板で作られた安物のクローゼットを押し開けた。そんな状況ではないのに、みっともない格好をしたくはないと彼にそう見られたくないと、どこかに残った見栄が囁く。
「あ、来る? すぐ来れる? 裏口わかる?」
「うん、わかる。駐車場のところからゴミ置き場の横通るんでしょ?」
「そうそう、そっちから入ってきて」
「わかった。じゃあね」
 ケータイを置くとパジャマを脱ぎ捨て、フリルのついたベビーピンクのカットソーとブーツカットのブラックジーンズを急いで身に付けた。財布を通勤用の鞄から取り出して、持ち直したケータイと一緒にライトストーンのついた華やかなバッグに放り込む。
 これくらいの時間でも、大通りに出ればタクシーは捉まえられるだろう。車に乗りさえすれば、二十分ほどで着く距離だった。ほんの二十分。そこに彼がいる。
「ケガですって? 五針縫ったですって?」
 寝乱れた髪にブラシを通して、軽く顔を洗ってうがいをして、ピンクベージュの口紅を塗った。
「バカっ!」

  -つづく-
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
花を召しませ-60
2006年11月08日 (水)
「あ、こっちこっち」
 華やかな店内とは真逆の、どこかの事務所のような簡素な廊下の端で立ったままタバコを吸っていた有理は、わたしを見つけると手を振った。普段の五割増で動く心臓と呼吸を抑えつけるように、のどを手のひらで押さえながら、早足で彼女に駆け寄る。
「で、シズくんは?」
「あの部屋」
 声をひそめるようにという意味か、唇に立てた人差し指を押し当てる仕草をわたしに見せてから、彼女は廊下の突き当たりのドアを指した。
「中でオーナーとしゃべってるの。ちょっと待って」
 言いながら握ったままのケータイを開いて素早く操作して、誰かへ電話を掛ける。
「あ、もしもし? うん、着いた。始めて」
 それだけを言うと、有理はわたしを振り返ってにっと笑った。
「え、なに? 誰?」
 髪の上から押し当てられたケータイに慌てたけれど、わたしを押し留めるように肩に回った手と真摯なまなざしは、それなりの理由があるものなのだろう。そう判断して小さく呼びかけた。
「もしもし……?」
 相手は誰なのだろう。もしかして。そう考えただけで少し収まりかけていた鼓動が一気に早まった。まるで口の中で心臓が動いているかのように声が出にくい。
 けれど、ケータイの向こうから返ってきたのは。
『――で、彼女はなんて?』
『――も、黙って――――です。――電話――ですし、俺もう――』
 まるで通勤電車内でなんとなく人の話を聞いているときのような、そんな奇妙な違和感があった。誰が話しているのだろう。低いぼそぼそした声はひどく聞き取り難い。
『おまえバカだなぁ。なんでそのとき追っかけなかったんだよ?』
『――ホントですよね――でも、―――って……』
『納得してんじゃねえよ。彼女をあきらめるのか? あきらめられるのか?』
『それができりゃ、――――、ですけどね――、でも――』
『おいシズ。おまえ、俺を舐めてんのか?』
 えっ?

  -つづく-
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
お言葉いただきました&あんけーとのお知らせです
2006年11月08日 (水)
 おはようございます、にゃおです☆
 ここ数日で急に寒くなったりしてますが、みなさんお元気ですか? にゃおはこないだのことがあって以来、体調にはとても気をつけてるので大丈夫なのですけど。
 風邪は万病の元と言いますし、みなさんもどうぞ気をつけてくださいね☆

 お言葉いただきましたーっありがとうございます!!
『いつも楽しく拝読させていただいてます。 この後の展開がめっちゃ気になりますぅ~。これからも無理のないペースで更新がんばってくださいね☆』
 きゃーっ、うれしいですっ! 本当にいろいろと心配してくださって、ごめんなさい。そしてありがとうっ!!
 ここのとこエッチなシーンは全然ないし、暗いし、どうしようかと思ってるんですけど……ごめんなさい。楽しんでいただけるように精一杯頑張りますので、これからもどうぞよろしくですっ!

『わくわく、ドキドキ!続きが楽しみです 』
 うわー、とっても嬉しいです!ありがとうございますっ!
 ドキドキしていただけてるのかなって思うと、にゃおがドキドキしちゃいますー(≧∇≦)

 いつもたくさんの「よかったよ♪」ありがとうございます!にゃおの糧です!!
 そしてもうすぐ「プッシキャット☆テイル」が一歳になろうとしてるのですよ!ということで記念にアンケートを設置してみました☆
 簡単なものなので、気が向いたら答えてやってくださいなv
 プッシーキャット☆テイル 一周年記念アンケート
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
花を召しませ-61
2006年11月10日 (金)
 怒鳴るように聞こえてきた名前に視線を上げた。間近にある、有理の横顔を見つめる。けれど彼女は、わたしに頬をすりつけるような体勢で、途切れ途切れに聞こえてくる二人の会話に黙って耳を傾けていた。そのひどく真面目な表情に何も言えなくなる。
 今、誰かがシズと言った。そう聞こえた。彼の名前を呼んだ。
 これはなに? なにをしてるの?
『だって、もう―――。俺が――、――でも――』
 やはりそうだ。彼の声だ。彼の声だとわかれば、そう聞こえる。むしろ、彼の声だと最初にわからなかったのが不思議なほど、間違いなく彼の声だった。
 けれど、その会話の大半は聞き取れないままだった。どんなに耳を澄ましても、なんとか理解できる程度に聞こえてくるのは、彼よりも少し低くて太い、別の男性の声だけだった。そのもどかしさに唇を噛む。
 彼が話しているのに。それはわかっているのに。
「あー、ダメだわ」
 唇を歪めてちっと舌打ちをすると、有理は忌々しそうにそう呟いた。
「ごめん美雪、作戦失敗だわ。声ちっちゃいよ、シズ」
 彼女のその言葉で、だいたいの状況は読み取れた。彼と話している相手が誰なのかも、彼女のいう『作戦』とやらがなんだったのかも。
「シズくん、今あの中でオーナーと話してるの?」
「うん。美雪がいないほうが本音話すかと思ったんだけど……ダメね、これじゃ」
 言いながら彼女は、わたしの手の中のから自分のケータイをするりと取り上げた。ぼそぼそした会話は続いていたけれど、ネイルアートの施されたきれいな指先は赤い電話のマークを無慈悲な手つきで押した。そのまま乱暴に本体を畳む。
「ホンットにもう、全くもう……。バカシズ」
 その言い草はちょっとひどいんじゃないかなとも、ちらりと思ったけど。
「これじゃ仕方ないわねー」
 怒ったような顔でそう言うと、彼女は窓の桟に置かれた空き缶を半分に切ったようなデザインの灰皿に吸いかけのタバコをねじこんだ。わたしの手を取ると、強い視線のまま大きく息をつく。
「乱入するわよ」

  -つづく-
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
花を召しませ-62
2006年11月11日 (土)
「え? ええっ?」
 早足気味に廊下の突き当りへと進んで行く彼女に強く腕を引かれて、まるで連行される犯人のようによろよろと歩く。
「ちょ、ちょっと……」
「あたし。入るわよ」
 それだけを言うと、彼女はノックもなしにドアを開けた。そのまま遠慮のない足取りでずかずかと入って行く。
 部屋には、サイズ違いのソファが三つとガラス製の灰皿が乗った小さ目のテーブル、そして小さな本棚と引き出しが壁際に並んで置かれていた。ドアの真正面に置かれた一人がけのソファには、見知らぬ男性が座っていた。
 ウェスタン調の、胸の切り替えにフリンジのついた茶色のシャツと白いパンツ。少し開いた胸元からターコイズブルーのペンダントが覗いている。身体つきが大きくて顔もちょっといかつい感じだけれど、垂れ気味の目元のせいか、とても優しそうに見える。茶色の前髪を全部後ろに流して、スパイラル状の鈍く銀に光るカチューシャで留めているのがなぜか可愛い。
「お、どうした?」
 有理と、そしてわたしに目を留めて、その人は少し野太い低い声でそう言った。この人がオーナーで、シズくんを助けてくれた人で、そして有理の友だちなのだろう。
「ダメだよー、聞こえない」
「聞こえなかったのか?」
「うん。肝心のところが全然ダメ」
 彼の驚く顔に拗ねた口調で答えると、彼女はわたしの手を強く引っ張った。
「ほら、美雪も来なって」
 有理の声に、三人がけのソファの端に浅く腰をかけて俯いていた男性が弾かれたように顔を上げた。きれいに光る黒髪と、普段よりしわの目立つ白いシャツ。いつも優しく笑っていた瞳は今は、驚きに強く見開かれていた。薄く開いた唇が震えている。
「みゆ、き……、さん?」
 彼に会わなかったのはほんの数日のあいだだったというのに、随分と久し振りのような気がした。
「なんで? なんで、ここに……いんの?」

  -つづく-
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
花を召しませ-63
2006年11月13日 (月)
 わたしを見上げるその顔の左の頬に、五センチほどの傷があった。白い肌の赤い切り口が痛々しい。そう言えば、お客さんとトラブルになったと聞いた。まさか、殴られたりしたのだろうか。そんなことまであったのだろうか。考えるとぎゅっと息が詰まる。
「だってシズくん……、ケガしたって、聞いた、から」
 彼の両腕は力なく落ちた肩からひざへと、だらりと投げ出されていた。右の手首から手の甲までが、元の形がわからないほどに包帯でぐるぐる巻きになっている。手首から先が白いボールに変わってその先に指が生えている、そんなふうに見えた。
「ああ、これ?」
 そう言いながら彼はゆっくりと右手を持ち上げた。曖昧な、照れているような困ったような顔で、溜息混じりに笑った。
「なによ、それ。なにを……してたのよ!」
 縫う傷というのがどの程度のケガなのか、経験のないわたしにはわからない。それでも軽いものでは決してないだろう。痛いだろう。血もたくさん流れたのだろう。そう思うと苦しくなってくる。彼は右利きなのだから、右手をケガなどしたら、仕事にも日常生活にも支障がある筈だ。食事をするにもお風呂に入るにも、もしかしたら着替えるときにさえも不便かもしれない。
「いや、それが、俺もよくわかんなくて。ちょっとぼーっとしてて、気がついたらザックリ切れて、血が出てて」
 不思議な物を見るような目で包帯に包まれた自分の手のひらを眺める横顔は、いつもの彼の表情に限りなく近かった。あまりの安堵にひざの力が抜ける。体重を支えられなくなった脚がかくんと折れて、薄いベージュのカーペットが敷かれた床に崩れるように座り込んだ。
「美雪さんっ?」
「美雪っ!」
 力が入らなくて、顔さえ上げられない。
「ばか」
 全てを篭めた言葉を口の中で呟いた途端に、世界がゆらりと揺れた。まるで水中にいるときのように焦点の合わない視界は、限界まで膨れ上がったあと、まばたきと同時にジーンズの上に円球の黒い染みを作る。その周囲にぽつぽつと、大きく小さく丸の数が増えて行く。

  -つづく-
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
花を召しませ-64
2006年11月15日 (水)
「なんで、美雪さんが泣くの?」
 頭にふわりと優しく触れるのは、きっと彼の左手なのだろう。大きな手のひらのわずかな重みと、ゆっくり前後する度に少しずつ髪の中へ入ってくる指先の感触に、子どもになったような気がする。頭を撫でられることがこれほどまでに安らぐとは思わなかった。忘れていた。
「なんでって……そんなの知らないわよ。勝手に出てくるんだもん」
 耳を伝ってゆっくりと降りてきた手が頬を撫ぜて、そしてあご先にかかった。わずかな指先の力だけで上を向かされる。されるがままに視線を上げる。
 優しく細まった目と短い黒髪。広い額に浮いた汗の理由はなんだろう。
「ね。俺のことで泣いてくれてるの? 俺のために泣いてくれてるの?」
 普段よりも白い頬は、ケガのせいだろうか。それとも照明が違うからだろうか。
「はいはいはいはい、そこまで」
 パンパンと手を叩く音に振り返ると、難しい顔の有理が仁王立ちしていた。思わずと言った様子でシズくんが身体ごと手を引く。
「その辺はあとでゆっくり、二人で話しなさい」
 強い口調で、でも優しい顔でそう言いながら、彼女はどこからともなくポケットティッシュを取り出した。長い両足を折り曲げるようにわたしの顔の前に屈み込むと、抜き出した一枚でそっと目元を押さえてくれた。ぽんぽんと軽く叩くように涙を拭き取ると彼女は少し困ったような笑顔で頷いた。わたしを右手を取って引っ張りながら一緒に立ち上がってくれる。
「シズ、あんたわかってんの? あたしの親友に勝手に手ぇ出して、挙句泣かせて……ホント許さないわよ?」
 有理の言葉に、彼は申し訳なさそうに目を伏せた。ワックスでキラキラ光る綺麗な黒髪を下げて、叱られている子犬のようにうつむく。
「で、何がどうだっての。ちゃんと説明しなさい、あたしにも美雪にも。隠し立てなんてしたら、この場で絞め殺してやるから」
 言いながら彼女はシズくんの向かいの、二人がけのソファにどかりと腰を降ろした。
「ホラ、さっさと吐いちまいな」
 ミニのプリーツスカートから伸びる脚を高々と組むと、彼女は取り出したタバコに火を点けた。視界の端でオーナーが苦笑しているのが見える。確かに、その姿はとても品がいいとは言えないけれど、女性らしいとは言えないけれど、でも。

  -つづく-
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
サイトにUPしました&あんけーとのこと
2006年11月15日 (水)
 おはようございます、にゃおです☆
 ええとですね、サイトにまとめ読み用UPしました!
 サイト版プッシーキャットテイル
 花を召しませ 第一話から 第十九話から


 そして、あんけーとのことなのですが。
 ええと…その…サンプリングするには数がちょっとその…少なすぎて…。なので、誰が人気があるのか、よくわかりません(T∇T)
 とりあえず、現在連載中ということもあって、シズくんが一番みたいです。
 まあもうちょっと置いておきます。これ以上は票も動かない気もするけど
(^∇^;)
 でもいろんなご意見が聞けてとても楽しかったので、意味がなかったなーとは思わないようにします(;_;)下さったリクエストにはできるだけお応えしていきたいなーと思うので、忘れた頃になるかもしれませんけれど、気長に気長~にお待ちいただけると嬉しいです。

 いつも「よかったよ♪」押してくださってありがとうございます。にゃおの糧です☆ああ、がんばろーって思います☆これからもどうぞよろしくお願いしますm(_ _)m
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
花を召しませ-65
2006年11月17日 (金)
「そうだな、全部吐いちまえシズ。そうすればおまえだってすっきりするだろう?」
 曖昧な笑みを浮かべながらのオーナーの言葉に、有理は髪を広げるような勢いで振り返った。
「ちょっと、何よそれ? 正直、シズなんかあたしはどーでもいいの。問題は美雪よ、美雪が一番傷ついてンだからね! こんな状況になることがそもそも情けないんじゃないのよ!」
 うわ、手厳しい。
「いや、だけど、おまえ……」
「アンタはちょっと黙ってて!」
 叩きつけるように有理がぴしゃりと言い放つと、オーナーは肉厚の肩を軽くすくめて「はい」と呟いた。この二人ってきっと付き合ってるんだろうな、そして有理のほうが強いんだろうな、なんて、そんなのんきなことを考えている場合じゃないけど。
「さあ、美雪も」
「はい」
 名前を呼ばれて、なぜかいいお返事をしてしまう。けれど彼女は自分の隣を手で軽く押さえると、わたしを見上げてにっこり笑った。
「いつまでもそんなとこに突っ立ってないで、こっち座りなさい」
「あ、はい」
 駆けるようにソファに近寄って彼女の隣に座る。彼女はわたしに視線を向けると、気遣わしげな表情で軽くやわらかく笑いながら頷いた。そのあまりの態度の違いに、男二人が一瞬顔を見合わせる。それが少しおかしい。ちらりとそう思いながら、ふとももにバッグを置いて、ひざを揃えた。
 すぐ右に有理、その向こうにオーナー、そして真正面にシズくん。
「さあて、と」
 有理はそう言うと、タバコの先に溜まった灰を指先で弾いて灰皿に落とした。それが合図だったかのように、わたしを含めて、有理以外の三人が顔を上げた。
「で? なんだって?」
「あ、はい」
 ぴんと、まるで胸を張るように背をそらしながらも、シズくんのそのまなざしはひどく暗かった。
「ええと、ですね――」

  -つづく-
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
お言葉いただきました&あんけーと中間発表♪
2006年11月17日 (金)
 おはようございます、にゃおです☆
 ええとですね、前々からずっと欲しいと思っていた[AD-IMG]ラブシロップをこないだようやく買ったんですよ!
 まだ一回しか使ってない(*^-^*)のですが、甘くてとっても美味しかったですっ☆ナッツの香りもすごく素敵で、うん、かなり…イイです♪でも、ダーリンにはちょっと甘すぎたみたい…(≧θ≦)
 まあ、まだ一回目だし、これからちょっと様子見てみますね

 と、お言葉いただきましたー!
『アンケート一応参加したんですが・・・』
 お気遣いくださりありがとうございますーっ はい、これからも頑張りますvここんところお話も進みが悪いし…それにえっちくないし…
 ごめんなさい(><) どうか見捨てないでくださいねっ!


そして、あんけーと中間発表ですっ☆
 一位 シズくん
 理由 かわいい、情けないところが逆に萌え、実は俺様系? 等々(^^)

 二位 ユーキさん
 理由 普段とエッチのときのギャップ、千紗ちゃんのことになると余裕がなくなるところ、ご主人さまなのにかわいい、等々

 三位以下はまた今度のときにv

 いつも「よかったよ♪」押してくださってありがとうございますv 進みが悪くて…ホントにすみません(;_;) 頑張ります。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
花を召しませ-66
2006年11月18日 (土)
 彼の話は、結論から言えば『父親の借金が残っているからパトロンと今はまだ別れられない』と言うものだった。
 彼のパトロンは、いわゆるバツイチ独身の女社長で、かなり羽振りがいいらしい。週に一度か二度の逢瀬を条件に、月に換算すれば四十から五十万円の手当てと、それ以外の呼び出しには別にそれなりの金額を渡すと言う。彼が乗っているスポーツカーも『いつでも駆けつけられるように』との彼女の意向で買い与えられたものらしい。そして彼女から貰う金額の殆どが、父親の借金返済に回っている、とのことだった。
「うーん、つまり、お金のことがあるから社長サンとは別れない、と」
 事情が事情と言うことでさすがに強く出られないらしく、やや穏やかになった口調で呟くように言いながら、有理は短くなったタバコをガラス製の灰皿で押し潰した。
「でも、美雪は美雪でキープしておきたいってワケだ。シズとしては」
 それでも消えない皮肉混じりの彼女の言葉に、シズくんはちらりとわたしを見て、そして申し訳なさそうに目を伏せた。
「そんなつもりじゃないんですけど……でもそういうことになっちゃいます、かね」
「そうね。そっちのほうが都合いいもんね」
「おい、有理。だからさ、シズの立場も考えて――」
「アンタは黙ってて!」
 叩き付けるように返ってきた反応に、オーナーは首をすくめた。有理のほうがずっと年下なのに、これは思っていたよりずっと尻に敷かれてるなあ、なんて、他人の事を気に掛けている余裕なんてわたしにはない筈なのだけれど。
「お金かあ……」
 言いながら有理は新しいタバコに火を点けて、ふーっと大量の煙を吐き出した。ガリガリと後頭部を掻きながら唇を歪ませて、うーんと口の中で唸る。
「お金はあたしも持ってないし、アンタもこの店の借金あるもんねえ」
 ちろりとオーナーへと視線を向けて、有理は深く溜息をついた。なぜかオーナーが情けなそうに頷きながらシズくんへと目だけを向ける。
「多少なら給料上げてやってもいいけど……」
「あ、いや。そんな、全然。いいです、そんなこと」
 慌てたようにシズくんは言う。

  -つづく-
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
花を召しませ-67
2006年11月19日 (日)
「俺、今でも充分頂いてますから」
 シズくんの言葉にオーナーが困ったように溜息をつく。つられるようにシズくんと有理と、そしてなぜかわたしまでが溜息をつく。
「でも、借金あるんだろう? 俺、おまえは親父さんとは完全に切れてると思ってたから、その辺が結構意外でさ。――いや、悪い意味じゃないんだけど」
「あー、その……」
 言い難そうに口ごもると、包帯に包まれた右手で頭を掻こうとしてから包帯に気がついたように眉をひそめて手を下ろして、そして彼は黙って俯いた。
「なんとかしてやりたいとは思うんだけどなー、でも、俺も借金だらけなんだよな、まだ」
「だから、独立なんてまだ早いって、あたし言ったのに」
「うー。今となってはおまえの言うこと聞いときゃよかったと思うこともある」
 がっくりと肩を落とすオーナーを横目でちろりと見る有理に、そんな場合じゃないのにおかしくなる。それは、普段の姉御肌な性格と照らし合わせても全く違和感はなくて、納得はするけれど。
「あの……」
 そのとき、おそるおそると言った様子でシズくんが声を出した。
「あ? 何?」
「い、いや、その。あの、ですね」
 軽く肩をすくめながら彼はオーナーから有理へと視線を巡らせて、そしてわたしの上で止めた。
「俺のほうは今話したような、そういう事情なんですが」
「あ、そ、そうだった。うん」
 慌てたように頷くオーナーは、どう見ても、途中からシズくんのことを忘れてて今言われて思い出したって感じだった。シズくんもそう思ったんだろう、少し胡乱な目でちらりと見て、そして軽く溜息をついた。それに対するように有理が曖昧に笑いながらわたしに目を向ける。
「とりあえずさ、美雪はどうするつもり?」
「どうって……?」
「だから、シズのことよ。借金持ちで、しかもパトロン付きの男よ。そんなんでいいの、って」
 容赦のない有理の言葉に彼が申し訳なさそうに顔を伏せるのは、もうなんだか見慣れたような気がする。

  -つづく-
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
花を召しませ-68
2006年11月20日 (月)
「ね、いいの?」
 だって、そんなこと。そんなこと言ったって。
「そうよねえ。そりゃ、そうよねえ」
 わたしがまだ何も言わないうちに、有理は納得したような口調で天井を見上げた。半分ほどになったタバコを器用に指先にはさんで、ふうっと白い煙を吐く。
「まあ、こんなめんどくさい男、普通は……」
 彼女の言葉にオーナーとシズくんがわたしに視線を向ける。そのまなざしの意味に慌てた。
「え、ちょっと待って、有理。わたし――」
「はい、ストップ、美雪」
 え?
 キレイに光る唇を尖らせると、有理は突き出した右手人差し指を悪戯っぽい仕草でちょんと動かした。優しい笑みと軽いウィンク。
「さあ、シズ。クイズです。答えはどっち?」
「は?」
 ぱちぱちとまばたきをすると、彼は有理とわたしを交互に見た。
「んもー、鈍いわね。だから、美雪の答えはどっちでしょう、って」
「え、でもそれは……」
「あんた、ホントにバカね」
 くすっと彼女は笑う。言葉とはうらはらの、優しい笑顔。
「この状況で、だいたいわかるでしょ? 真面目なOLの美雪が、あんたがケガしたからって夜中の二時に飛んできたのよ。あんた、好きでもなんでもない相手がケガしたって聞いて、寝てたのにわざわざ起きる? んで、出かける? 顔見て泣く?」
「あ、えっ……ええと……?」
 そのときわたしに真っ直ぐ向けられたシズくんの表情は、いけないと思いながらも笑ってしまうくらい、間抜けすぎるほどに真面目だった。おかしくないのに、口元が緩んでしまう。けれどそれはわたしだけではなかったようだった。笑いを堪えているのだろうオーナーは、顔を半ば歪ませてゆっくりと立ち上がる。
「じゃあ、まあ、俺らはこの辺で」
「そうね。ずっと座ってたら逆に疲れちゃった。踊ってこよう」
 組んでいた脚を解くと、有理も立ち上がる。大きく伸びをしながらわたしに視線を向けてにっこりと笑った。
「じゃあね、美雪。明日は休みでしょ。せっかくだしゆっくりしてってよ。その下、毛布とかも入ってるから、要るのなんでも使って」
 めくれあがったシフォンブラウスの裾を直しながら、彼女はシズくんの座っている三人がけのソファを目で示した。

  -つづく-
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
お言葉いただきました。
2006年11月21日 (火)
 おはようございます、にゃおです。
 ええとですね、お言葉いただきました。

『最近遠回し過ぎです。』
 この一言だけなのでその真意は読み取れないところもあるのですけれど、でも多分ここしばらくの、もっと言えば57話からの進み具合のことだろうなあと思うのです。そして、確かに、と頷いてしまいます。
 登場人物が増えちゃったのと、あとは美雪さんの性格だとも思うのですけれど、確かにグダグダなんですよね。雰囲気も暗いし、それに全然えっちくないし。
 もうUPしちゃったのに関しては今さらどうしようもないのですけれど、まとめ読みにサイトに置くときにはできるだけ推敲しなおすつもりです。
 本当にごめんなさい。そして言い難いことをはっきり言ってくださってありがとうございます。
 これからもどうぞよろしくお願いします。

 そしていつも「よかったよ♪」を押してくださってありがとうございます。
 こんな情けないにゃおですが、これからもよかったら見捨てないでやってください。 
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
花を召しませ-69
2006年11月22日 (水)
 この下? それに毛布? 内心で首を傾げながらも彼女の言葉に頷いた。
「ありがとう、有理。オーナーさんも、ありがとうございました」
「あ、いえいえ。こっちこそ。ウチのシズが面倒掛けてしまって」
 頬に落ちてきた髪を耳に掛けながらオーナーはわたしに軽く頭を下げた。
「そんな、とんでもないです」
 互いに頭を下げて、そしてゆっくり顔を上げた。
 彼の、わたしを見る目はとても優しかった。笑うと左の頬に小さなえくぼが浮かぶ。妙に新鮮な気分でわたしはそれを見た。
 身体つきが大きいことも、脱色しすぎたような色合いの髪も少し胸元が開いた服の感じも、何も知らずに街中で見かけたのなら視線を合わさないように努力してしまいそうなタイプだけれど、きっと素敵な男性なのだろう。有理が選んだ人なのだから、シズくんが慕う人なのだから、きっと。そう思うとなぜか嬉しくなる。 
 ――それでもわたしは、シズくんがいいけど。
「あ、シズ、もう今日は出なくていいから。あと、引出しの上から二番目な、好きなだけ使え。でも手は気をつけろよ。ムリすんな」
「はい、ありがとうございます。すみませんでした」
「んー、じゃあなー」
「頑張ってねー」
 それだけを言い残すと、異様なほどの性急さで二人はバタバタと部屋を出て行った。
「引き出しの二番目?」
「頑張ってね、って?」
 静かになった室内の取り残されたような空気の中で、わたしとシズくんは顔を見合わせる。
「引き出しってこれだよね」
 言いながら、彼は壁際に本棚と並んで置かれている木製のチェストに歩み寄った。彼の腰の高さより少し低いくらいのそれは、一番上の引き出しだけが鍵がついていた。一番上が一番薄くて、二段目から下は一つ下がるごとに順番に、厚みが増している。その二段目の引き出しのくぼみに左手の指先を掛けて、木がこすれる微かな音を立てながら引っ張り出して、そして彼の動きが止まった。
「どうしたの?」
 ソファに座りながら背中に声をかけると、彼はゆっくりと振り返った。困ったような呆れたような吹き出しそうなのを我慢しているような、そんなひどく曖昧な笑顔で、左手に握った薄い箱を振る。
「コンドーム、入ってた」

  -つづく-
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++