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R18 らぶえっち小説Blog
えっちな表現が盛りだくさんにつき、18歳未満&清純派さん回れ右!
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マスカレイド2-107
2010年10月04日 (月)
「えーと。ごめんね、せんせ」
「おう。まぁ、な」
 眠ってるときのことだし殴る気で殴ったわけでもないし、あたしに責任なんてないかなって思わなくもないけど、でもやっぱりちょっとは悪かったかな。そんな気分で謝ったあたしに、先生は心の広いところを見せるぜ的な態度で頷き返した。それでもあごを撫で続ける仕草とその表情を見てると、ホントに痛かったみたい。申し訳ないかなと思わなくもないけど、でもさっきから点きっぱなしのテレビにアップで映ってるのは、女の人の身体の一部とおぼしき詳細判別不能なモザイクで、小さな音で流れてるのはもろに女の人のあえぎ声で、しかもそれをあたしに見られても全然慌てるふうでもないって、もうホントに、この人は!
 ――って、まぁ、慌てて消したりされても、それはそれで困るんだけどさ。
「あ、そうそう。おまえ、風呂入るか」
 枕元から灰皿を引き寄せながら先生はいきなり話を変えた。振り仰いだ目の前に来た灰皿の中には吸殻が十本近くあって、どうやらあたしは自分で思ってたより長く眠ってたみたい。そう言えば、いつ寝たのか全然記憶がない。
「お風呂? なんで?」
「なんでって、おまえさっき、やたらと風呂に入りたがってたじゃねーか」
 あたしに煙がかからないように、顔をそむけながら先生はふぅっと大きく息をついた。元からそういうタバコなのか、それとも肺活量の問題なのか、先生のタバコはパパとかと比べると短くなるのが早い。早くなくなっちゃうから次に火をつけるまでの時間も短い。だから総合的にタバコの量が多い。心理的安定とかオトナの嗜好品とか、その辺はもちろん理解してるつもりだけど、それでもあんまり身体にいいもんじゃないらしいし、ちょっとだけでも量を減らしたほうがいいんじゃないかなぁって、そんなことも思わなくもないけど。
「いやー、あのときは俺もちょっとホラ、なんつーの? そういう余裕なくって。風呂後回しで悪かったな」
 明るい笑顔で謝りながら先生は豪快に笑った。
「や、あ、うーん。まぁ……別に、いいけど」
 ホントはものすごーく先にシャワーしたかったんだけど、でも先生には男の人の都合があったのかな。今までもガッコでしてたから、直前シャワーって決まってたわけでもないし、藤元先生がそう言うの全然気にしないのなら、それはそれで別にいいんだけど。
「じゃあ、入ってくる」
 そう言って腰を上げたあたしに先生はそうか、って頷いて、――って、なんで先生までタバコ消してベッドから起き上がるのーーっ!?

 -つづく-
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うふふ♪なこと
2010年10月04日 (月)
おはようございます、にゃおです☆
しばらく更新お休みさせていただきました。
そのあいだも来てくださっていたかたにはごめんなさいんですけれど、
実は実は、にゃお毎年恒例のお誕生日♪でございまして。
今年もダーリンとお泊りデートしてきましたっ☆
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マスカレイド2-108
2010年10月09日 (土)
「あの、あたしが入るんだけど!」
「わーってるって」
 当たり前だろ的な顔で頷きながら、でも言葉とはうらはらに、先生は身体を回して床に足をつけた。これは言い合ったほうが分が悪い。こんなカンジでも相手は頭のいい先生だし、男の人だし、言いくるめられるか力技の体力勝負に持ち込まれたら、間違いなくあたしの負けになっちゃう。
「やーだーっ!」
 ここは先手必勝しかないと、あたしは思い切ってベッドから飛び降りて、目の前のドアへ走った。素っ裸でってのがちょっとアレだけど、でもこの際仕方ない。部屋は結構暗いし、詳細までは見えないハズ。
「待て、こらっ! あっ、やられた逃げられたっ!」
 逃げられたってなによっ?
 心の中で激しく突っ込みながら、目の前のドアノブをつかんだ。でもここがお風呂じゃなかったらアウトだなぁってドキっとしたけど、でもその心配は必要なかった。叩きつけるような勢いで開けたドアの先の空間は、壁の一面を広い鏡で覆った洗面所でさらに奥にドアがふたつ。しかもまるであたしを待っていてくれたように、ひとつのドアのあいだが開いて中が見えてて、お風呂場はここだよって教えてくれていた。
「こら、開けろっ」
 偶然と神さまに感謝しながら、隙間からバスルームに駆け込んでカギを閉める。惜しいタイミングでがたっとドアに大きなものがぶつかった音がした。次いでとガラス戸がどんどん叩かれる。まさか叩き破ったりしないよねとか思いながら、おっかなびっくり施錠確認。うん、これなら大丈夫。ちゃんと閉まってる。
「やーっ! 絶対に開けないからね!」
「そーんな冷たいこと言うなよ。背中流してくれりゃ、それでいいからさ」
 思いっきり叫び返したあたしに、猫なで声がすりガラスの向こうから返ってくる。言っちゃなんだけど、そのセリフを信じるやつの顔が見たいわ。
「あとでゆっくり、ひとりで入ればいいでしょ」
 思いっきりべーってしながらシャワーヘッドを取って、マンションの湯船よりもずいぶん広い湯船に、まだちょっと冷たいシャワーを流した。すぐに温まったシャワーを頭からかぶってると、背後でカチャカチャとドアノブが回る音がする。ちゃんと確かめたとこだけど、でも先生なら開けて入ってこれそう、とか思うとドキッとする。

 -つづく-
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マスカレイド2-109
2010年10月11日 (月)
 別に、ここまで必死で拒否するほどイヤってワケでもないんだけど、でもお風呂ってホントに全部見られちゃいそうで、まぁ今までも散々いろいろされて見られてってしてるわけだけど、でもそう言うのとはちょっと違って、なんとなく、その……。
 ――でもやっぱり、背中流すだけくらいなら、いいかな。
 怖い結果が待ってませんようにって心の中でつぶやきながら、そっとカギに手を伸ばした瞬間、くくっと低い笑い声が向こうから聞こえた。
「わーったわーった、あきらめる。ゆっくり入ンな、春奈チャン」
 言葉と同時に、ガラスに映ってた影がすうっと遠くなった。
「え……」
 ドアノブを握ったまま固まったあたしのことなんか知らんふりで、洗面所のドアが閉まる音がする。さっきまで感じていた先生の気配がなくなる。結果だけを見れば、あたしの言い分が通ったって喜んでいいはずなのに、なんか寂しいなんて思ってしまったのはなんでだろう。
「へんなのーっ」
 ふぅっと大きく息を吐いて、見たこともないパッケージのシャンプーに手を伸ばした。いつものワンプッシュのはずなのに、ガシャガシャと頭を掻いてると、とんでもないくらい大盛りの泡になる。ソフトクリームみたいに頭の上に泡を盛って撫でつけながら、これだって先生と一緒に入ってたら大笑いできたのにって思ってしまう。
 ――あたしって、ホント要領悪い……。
 それでもなんとかなってきたのは藤元先生のお陰だった。勉強も佐上先生とのことも、ママとパパのことだって、藤元先生が面倒見てくれた。愚痴だって聞いてくれた。
 今日だって、多分偶然あそこに通りがかったとかじゃないって、ずっと探してくれてたんだろうって思う。佐上先生が出て行ったあの日も、あたしがガッコ休んだ日も、そして今日も、先生はあたしのためにっていろいろとしてくれる。考えてくれてる。でもあたしに恩着せがましく言ったりしないから、あたしはなかなか気づかない。ホントに心配してくれてる先生に、でもあたしは自分のことばっかり主張して。先生のことなんて考えてなくって。うわ、どうしよう。落ち込んできた。
「あたしって、サイテー……」
 でも、落ち込んでても仕方ない。頭洗って顔洗って身体も流して、そして先生に謝ろう。ちゃんとお礼も言おう。
「よしっ!」
 大丈夫。頑張れ、あたし!

 -つづく-
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マスカレイド2-110
2010年10月12日 (火)
「えーと、あのー。なんか着る物……」
「あ? そんなもん、ねーぞ」
「えーっ?」
 洗面所の棚に置かれていたのは、ホテルの名前の入った真っ白のタオルとバスタオルが一枚ずつ、二組だけ。濡れたままの頭にターバンみたいにタオルを巻いてから、助けを求めてドアから顔だけを出したあたしに突きつけられた現実は過酷だった。
「ちょっと、困るよーっ」
 ホテルなんて初めてだし実はあんまりよく知らないけど、普通はバスローブとか、そういうのが置いてあるもんじゃないの?
「あぁ、そーいや、あるとこもあるな」
 あたしの問いかけに先生は真顔で頷く。先生が隠したのかもって疑いだけは晴れたけど、でもだからってなんにも解決しない。
「なんでぇ、バスタオル巻いときゃいーじゃねーか」
「え、やっ、それはちょっと……」
 先生はなんでもないようにそう言って明るく笑うけど、でもさっきまでの、なんとか隣にいる人の表情くらいはわかるってくらいの暗さならともかく、スポット照明とランプで煌々と照らし出された今の部屋は放課後の教室くらいの明るさ。これじゃ全部見えちゃう。そりゃ今までもいっぱい見られたりはしてるけど、でもそれとこれは全然違うし。
「別に今さら。恥ずかしがるもんでもねーだろ?」
「やだよ、恥ずかしいよーっ」
「そう。その恥ずかしがる顔がいいんだよ」
 教師のくせに矛盾したことを笑いながら平気で言う。ぶうっと唇を尖らせるあたしにおかしそうに顔をゆがめながら、先生は天井に向かって大きな煙を吐き出した。手を伸ばして長くなった灰をクリスタルの灰皿に落とす。
「いーじゃねーか。ホラ、ここおいで、春奈ちゃん」
 言いながら、先生はどてっと寝そべるように腰かけたソファの隣をぽんぽんと叩いた。ソファの斜め前に陣取ったテーブルには、ジュースのグラスと、ちょっと口をつけたっぽい飲みかけのビールのジョッキが並んでいた。
「のど乾いたろ? このオレンジジュースおまえンだから。さっき持ってきたばっかだから、まだ冷てーぞ。ここはメシも結構うまいんだぜ。おまえ、なにが食いたい?」
 ジョッキに手を伸ばしておいしそうにビールを飲みながら、先生はテーブルの脇に置いてあったマガジンラックからパンフレットくらいの大きさの本を取り上げた。ぱらぱらとめくって熱心にページに視線を落とした。

 -つづく-
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マスカレイド2-111
2010年10月15日 (金)
「メンチカツコロッケ、ハンバーグ、期間限定ミックスフライ……おっ、これいいな。ライスサラダセットでこれひとつ。春奈はなにがいい? ステーキ丼、ポテト盛り合わせ、ホットサンド、ピザ、パスタ、カレーにドリア。デザートはプリン、アイスクリーム、ケーキ、あ、パフェもあるってよ」
 恥ずかしいけど、先生の言葉ひとつひとつに胃が反応する。これだけ距離があれば聞こえるはずがないって思うけど、でも先生の人の悪そうな笑顔はあたしのことを見抜いてるっぽい。
「そこじゃ食えねーだろ? あきらめて、こっち出てこいって」
 抜き打ちテストを宣言した直後の、あたしたちのブーイングを見下ろすときみたいな超余裕顔で先生が笑う。そして、高校生にもなって食べ物に釣られてしまうあたし。子どもじゃあるまいしって思うけど、でも仕方ない。だってホントにお腹空いてきちゃったんだもん。我慢できなくなってきちゃったんだもん。晩御飯にってバーガーサンド食べたはずなのに、さっきから食べ物の話題ばっかで、口の中にツバが溜まってきちゃったよー。
 ホントに情けない。情けないけど、でも降参の前にせめてひとつだけ。
「あかり……」
「あ?」
 メニュを眺めていた先生がちらっと目を上げた。あたしの顔を見て、そしてにやっと笑う。白旗は先生にも見えちゃったみたい。よしよしどうしたって、それはそれは広い心をお示しくださる。寝ぼけたふりしてもう一回ぶん殴っちゃおうかななんて思いながら、あたしは唯一の要求を先生に願い出た。
「あの。部屋のあかり、暗くして」
「おっけー、わかった」
 短くなったタバコを消すと先生は軽く肩をすくめた。仕方ないな、まぁそれくらいはな、なんて勝利者の顔が憎たらしい。
「よし、これでいいか?」
 いかにもあたしがものすごいわがままを言ってる、みたいな態度で、先生はテーブルに手を伸ばした。細めのリモコンを取り上げるとそれをさわる。先生の指の動きに併せてふわぁっと灯りが弱まって、夕焼け時の室内くらいの明るさになった。
「できれば、もうちょっと暗いほうが……」
「真っ暗だと、なに食ってんだかわかんねーだろ」
 再要求をあっさり蹴散らすと、先生は手にしていたメニュをテーブルに置いた。くつろいだ様子でゆっくりとソファにもたれる。肺に残っていた煙をふぅっと吹き上げてソファの背もたれに腕を乗せた。
「さぁ、春奈」
 ソファに乗せたままの腕があたしに向かって伸べられる。ここまできたら、もう仕方ない。

 ――あああっ、返す返すも自分の食欲が憎いっ!

 -つづく-
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マスカレイド2-112
2010年10月20日 (水)
「んじゃ俺は、一人寂しく風呂入ってくっから」
 電話口に向かって、ミックスフライセット、ステーキ丼、唐揚げオードブル、ピザとホットサンド、あとビールとコーラ、なんて大量の注文をしてから、先生はソファから立ち上がった。わざとらしく哀しげに溜息をついて見せてから一人で大笑いして、のしのしとドアへ向かう。ムダに頑丈そうな後ろ姿を見送りながら髪を拭いていると、くるっと先生が振り返った。
「春奈。メシ来たら、先に食ってていいからな」
「え、あ、うん」
 先生は多分、あたしがお腹空いてるだろうからって気を使ってくれたんだろうけど、でもあたしが先生が上がってくるのを待ってるだろうってホントはわかってると思う。わかってて、それでも言ってくれてるんだと思う。もしあたしと先生のお風呂に入る順番が逆なら、先生は絶対に待ってくれてる。だって、わざわざお弁当抱えてマンションまで来てくれるような人だもん。
「いってらっしゃーい」
「お、おお」
 ひらひらと手を振って見せると、先生はちょっとびっくりした顔をして、それから笑ってドアを閉めた。
「ヘンなひとー」
 でも、わかってた。だいぶん前から、先生がそう言う人だってことはわかってた。先生はあたしのことを見てくれる。授業中もえっちのときも、それ以外のときも。それは多分、責任とか義務とか罪悪感とかそういうことで、あたしだからどうのってことじゃなくって、困ってる人がいたら親身になってしまうタイプの人なんだろうけど。だって、あたしが好きなのは佐上先生で、藤元先生じゃないし、そのことは藤元先生だってよく知ってるはずだし。
 どうしてパパと結婚したのって訊いた小学生のあたしに、主婦だったママはにっこり笑って、パパはとっても優しいのよ、春奈もよく知ってるでしょって言った。女は愛されるのが幸せなの、もうちょっと大きくなったら春奈もわかるわって、ちょっと恥ずかしそうに笑っていた。でもママはその数年後、優しいだけのパパを切り捨てた。
 愛されたから優しくしてくれたからその人を好きになったなんて、安易でバカな選択をしたわとまで言ってしまったママの気持ちはわからないけど、がんばって好きになってもどこかに軋みが出ちゃうものなのねって呟いたママの横顔はいつもと変わらなかったけど、でもやっぱりママはママで苦しんでたんだと思う。もちろん、言われたパパのほうがずーっと可哀相だったけど。
 だから、怖かった。先生がそんなつもりじゃなかったら、あたしの勘違いだったら、あたしは今度こそ本当にひとりになっちゃう。
 ――なのに。

 -つづく-
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マスカレイド2-113
2010年10月23日 (土)
「どうしよう……」
 なんだか居ても立ってもいられなくて、あたしは無意味にウロウロとソファの周りを裸足で歩き回った。
 多分あたしは、藤元先生を好きになってきてる。もしかしたら、もうだいぶん前から好きだったのかもしれない。もともと藤元先生のことはキライじゃなかったし、担任に決まったときにはちょっとラッキーって思ったくらいだし。まぁそのときは、こんな関係になっちゃうとは夢にも思ってなかったわけだけど。
「うおりゃっ!」
 誰もいないのをいいことに、子どもみたいにベッドにダイビングする。ごろごろとシーツを転がると身体に巻いたバスタオルがほどけていく。胸元を両手で押さえながら転がっていって、枕にぽふっと顔をうずめた。こっちの枕がさっきまで藤元先生が使ってたほうみたい。ちょっとタバコのにおいがする。
「でも、ホントに、まさかよねー」
 藤元先生との二人っきりの時間は、佐上先生との時間よりも長かった。お昼にお弁当を買ってもらって勉強を教えてもらって、ときどきはえっちもしたりして。自分じゃ気がつかなかっただけで、ゆっくりゆっくり好きになってたのかもしれない。好きになってって言っても、順番をつけたら佐上先生のほうがずーっと好きなんだけど。
「それはちょっと、仕方ないもんね」
 佐上先生が好きだった。あたしのことが好きなわけじゃなくてもそんなに優しくなくても、それでもよかった。抱かれるだけで嬉しかった。そんな日がいつまでも続くことだけを願っていた。今だってホントは、藤元先生とじゃなくって、佐上先生と一緒にいたい。抱かれたい。抱かれたい、けど。
「でも、ね……」
 でもそれは、もうムリなんだってわかってる。
 大学生になっちゃうことが決まったあたしは、もう佐上先生の好みのタイプじゃなくなってしまった。もう二度と佐上先生には抱かれない。話しかけることも、近寄ることさえできない。なんにもなかった頃みたいになんにも知らなかった頃みたいに、あたしと佐上先生を繋ぐものはもう全部消えてしまった。改めて考えると、人生を投げ捨てたいくらいの衝動に駆られそうになるけど、でも哀しんでてもなにも変わらない。誰も助けてくれない。助けて欲しいなら、顔を上げて目を開けて、手が届くところまでは自分で出てこなきゃ。バカみたいに必死に、助けてくれようとしてる人はいるんだし。

 -つづく-
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マスカレイド2-114
2010年10月25日 (月)
「ホントに、バカみたいだけどね……」
 あの底なしのお人好しさって、どっから出てくるんだろう?
 メトロノームみたいに、シーツの上でぱったんぱったん左右に半回転しながらいろいろ考えていると、胸に差し込んだバスタオルの端っこがするっと抜け落ちた。身体から剥がれて抜け殻みたいにシーツに広がったバスタオルに手を伸ばしたその瞬間、カチャッとドアの開く音がした。
「あー、さっぱりした」
「あ、わっ! わわわっ」
 あっちのほうから聞こえてきた先生の声と気配に、慌てて指先に当たったバスタオルを引き寄せたけれど、どこかに引っかかったのか全然手元にきてくれない。こうなったら仕方ない。バスタオルをあきらめて、あたしは毛布の隙間にもぐりこんだ。首まで全部隠れてからそおっと視線を向けると、バスタオルを腰に巻いただけの先生がぽかんと口を開けてこっちを見ていた。
「おまえ、なにしてんだ?」
「べっ、べつにっ」
 ぶんぶん首を振るあたしに、先生はちょっときょとんとして、そしてニヤっと笑った。さては、なんて言いながらガリガリと髪を拭く。
「なんだ、こっそりオナニーでもしてたか……てっ、でぇっ!」
 あたしが投げたにしては見事なくらいど真ん中、マンガみたいに顔に枕をぶつかった先生がくぐもったうめき声を上げる。
「痛てーじゃねーか、このやろうっ」
 叫びながら先生は足元に落ちた枕を拾い上げて、軽くベッドに叩きつけた。怒ったふりしてるだけなのは顔見ただけでわかるから、あたしだって引かない。
「あたしは野郎じゃないしっ! 女の子だし!」
「そーゆーこと言ってンじゃねえ!」
 どかっと音を立ててベッドに上がってくる。毛布にかじりついて、怒ったネコみたいにぐるるって唸ったあたしに、先生は人が悪そうな笑みを浮かべた。
「そんな強気に出ていいのかな? 春奈チャン」
 ふふん。そんな感じでエラソーにあたしを見下ろしてから、先生はぐいっと腕を突き出してきた。
「これ、なーんだ?」
 高く上がった右手から、白い布が風のない日の旗みたいにたらんと垂れ下がっていた。これってなに? って考えないとわからないような物じゃない。さっきまであたしを隠してくれてた、そしてこれからも助けてもらわないといけない、大切な大切な。
「あたしの、バスタオルーーっ!」

 -つづく-
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マスカレイド2-115
2010年10月27日 (水)
「ここに捨ててあったぞ」
「捨ててなんかないよっ、返して!」
 毛布から右手だけ伸ばして端っこをつかもうとしたけれど、見事な反応速度で急上昇したバスタオルは、指のあいだをすり抜けた。届かない位置でひらひらする、今のところ唯一のあたしの服が戻ってきてくれる気配は、全然ない。
「なぁ、春奈。遺失物法って知ってるか?」
 そう言ってニコニコ笑う楽しそうな顔は、子どもっぽくてかわいいって一瞬ちょっと思ってしまいそうだけど、でもそこに掛かってるのがあたしのバスタオルとなると、話は変わってくる。
「知らないよっ、とにかく返してっ!」
 右手をぐっと突き出したあたしに、先生は溜息つきでわざとらしく首を振った。
「だろうなぁ」
 一般常識の範囲内だと思うけどな、なんてつぶやく言葉がイヤミったらしい。物を知らなくて悪かったわね、だからそれがなんなのよって思いっきり睨みつけても、超余裕顔は全然変わらない。さっき、先生に悪いことしたかもって悩んでたのがバカバカしい。ごめんなさいってお風呂で思ってたのも、全部取り消しなんだから!
「遺失物法によるとだな、落とし主は拾い主に五から二十パーセント相当の報労金を払わなければならない」
「二十パーセント、って……バスタオルだよ?」
 それを言うなら、そもそもあたしは落としたつもりもないんだけど。
「うむ、不可能だな。だから、だな。持ち物じゃなくって持ち主から払わせればいいと俺は気づいたわけだ。と、言うわけで」
「きゃあぁっ」
 バスタオルをぽいと背後に投げ捨てた先生がダイブしてくる。それでなくても力が強い先生に体重をかけて毛布越しにぎゅうっと抱きしめられると、文字通りあたしは手も足も出ない。まぁ手足を出したところでつねったり引っかいたりが限界だし、無事逃げ出せたとしても実は裸だし、それを言うならそもそもホテルから逃げようもないんだけど。
「やっ、ちょ、ちょっと! せんせっ、ホントに苦しいっ」
「おまえの二十パーセント分をもらおうか」
「それちょっと意味わかんないし!」
 あたしのまっとうな抗議なんてどこ吹く風、理不尽な担当教師は聞く耳も持たず、がぷっと生徒の耳に歯を立てた。
「やぁっ、たすけてーっ!」
 思わず悲鳴を上げたあたしをおもしろがるように、先生は首すじにふぅっと息を吹きかける。まだ濡れた髪に当たった冷たい息に鳥肌が浮く。反射的に、あたしは唯一動かせる頭をぶんぶん振った。

 -つづく-
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