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R18 らぶえっち小説Blog
えっちな表現が盛りだくさんにつき、18歳未満&清純派さん回れ右!
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マスカレイド-1
2007年07月28日 (土)
 正直言うと、最初はそれほど興味なかった。
 確かにキレイな顔をしてるけど、でもそれが逆に作り物みたいで、男はもっとがっちりしてる方があたしは好みだなあなんて、教室の隅できゃーきゃー騒ぐコたちをぼんやり眺めてた。
 だって、もう結婚しちゃってる人だよ、そんなのダメに決まってんじゃない。もっと身近に目を向けたほうがいいんじゃないの。そんなふうに考えてた。
 それが一転したのは、校内マラソン大会のとき。
 いつも何を見ているのかわからないクールな視線を周囲に向けていたあの人が、懸命に走る最後尾のコたちに『頑張れ頑張れ』って叫びながら、手を叩いてるのを見たとき。そして、そのコたちがゴールしたとき、自分のことみたいに嬉しそうに笑ってるのを見たとき。
 なんだ、澄ました顔以外もできるんじゃん。
 今から考えると当たり前だったとも思うけど、でもそのときのあたしには衝撃だった。残念なことにその表情はそのときだけのもので、すぐにいつもの冷たい目に戻ってしまったのだけれど、でもあたしの気持ちは戻らなかった。ただ、今までのことがあったから友だちにも打ち明けることができなくて、だから今までと同じ興味ない態度を貫いたけど。


 ――あの人。
 名前は佐上仁。年は二十八。物理担当。
 さらさらの前髪のあいだから見える、切れ長の目少し物憂げな表情、落ち着いた声。すらりとしたスーツ姿は、小汚いジャージのオッサン先生たちとは全然違う。特進クラス副担で学年一……ううん、多分、学校一の人気者。結婚しているにも関わらず、バレンタインにはデパートの紙袋いっぱいにチョコが集まるらしい。
 その人気が悪いのか、それともちょっと気軽には近寄りがたい見た目と性格のせいか、先生同士でもあまり親しい付き合いとかはないと言う。趣味はなんたら方程式を解くこと。頭の悪いコには興味がなくて、特進クラス以外のコは無視するなんて噂もあるくらいの人。
 だから、どうあったところで一般文系クラスのあたしにはチャンスも接点もなかったし、それはわかっていた。だから、ただひっそりと憧れていただけ。それくらいなら別に……。
 うん、別に。

 -つづく-
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マスカレイド-2
2007年07月30日 (月)
「あ、芝口。おまえ、まだ進路調査票出してないだろ。このまま残れ」
「えーっ」
 今日はチカちゃんたちとカラオケ行く約束だったのにー。
 ホームルームが終わった直後のざわついた教室の空中に不服の声を上げると、真っ黒の短い髪をガリガリと掻きながら、藤元先生は「何がえー、だ」と不機嫌に返してきた。
「調査票の提出期限はとっくに切れてるんだぞ。このまま夏休みに入るつもりか。とにかく、今日は絶対に残れ。いいな?」
 それでなくても真っ黒な太い眉をぎゅっとひそめて、先生はあたしを見た。
 普段はみんなの友だちみたいだけど、学生時分には陸上で国体だかインターハイだかへ行ったという迫力のあるガタイを誇る担任は、こう言うときにはささやかな抵抗さえ許してくれない。いかにも熱血系体育教師って見た目だけど実は化学の教師で、しかも結構頭がイイ。白衣よりジャージが似合う化学教師ってのも珍しい。あの太い指でよく試験管握り潰さないよなぁ、ちょっと全体的にゴツすぎるけど、でも割とイイなぁ、なんてあたしは思っていた。
 周囲でもそんな風に思ってるコは多いらしくて、佐上先生と一二を争う……ってほどじゃないけど、でも人気教師のベスト五には確実に入ってると思う。歳は二十九であたしたちと十以上も違うけど、実際より若く見えるのと話題が合って親しみやすいのと、あとまだ結婚してないってのも関係してるのかも。
「はーい、わかりましたー」
 渋々頷くと、背後からぽんと肩を叩かれた。
「あ、残念ー。じゃあ、私たちだけで楽しんでくるね」
「仕方ないね、ビッグの割引って今日までだもんね」
「藤元ちゃんと一対一なんて羨ましー」
「だったら代わってよっ」
 思わず叫んだあたしにチカちゃんはぶーっと唇を尖らせ、そして笑った。
「それはムリー。進路相談がんばってね、春奈」
「ばいばーい」
 楽しそうに笑いながら、心優しい級友たちはあっさりあたしを見捨てて行く。ボーゼンと見送るあたしの肩を藤元先生がぽんと叩いた。
「諦めろ、おまえが悪い」
 ええいっ、馴れ馴れしいっ!

 -つづく-
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マスカレイド-3
2007年07月31日 (火)
「さーてと。じゃ、始めるか」
 あたしたちの教室は、放課後は去年発足した将棋同好会の部室として使われていた。クラスメイトがいる中で進路相談ってのはさすがにちょっとってことで、理科準備室に移動した。
 一辺だけが長いH型をした校舎のその突き出した部分に、実験室と並んでその部屋はあった。実験室もそうだけど、危ない薬品なんかも置いてあるから理科の教師だけがカギを持っているという、ちょっと特別な部屋。担任が化学担当だから、今まで何回か入ったことはあった。戸棚の中には新品の試験管やフラスコ、そしてずらりと並んだ大小さまざまなサイズの薬瓶。中には何に使うのかもわからないようなのもあって、見ているだけでも楽しい。勿論、カギが掛かってるから取り出したりはできないんだけど。
「芝口、コーヒー淹れてくれ」
 教室にいるときよりさらにくつろいだ様子で長テーブルに並んだパイプ椅子に座ると、先生はあたしにカギの束を渡した。丸いわっかには大小のカギが五つ。
「その一番小さいヤツな」
 椅子の背に全体重を掛けるようにもたれながら、あたしの手の中のカギを指差した。アルコールランプと変わった形のフラスコと並んで、戸棚の片隅にインスタントコーヒーの瓶と耐熱グラスのマグカップが五つ並んでいるのが見えていた。
「え、開けていいの?」
「おー。俺と一緒のときだけな」
 返ってきた言葉にちょっとウキウキしながら戸棚を開けて、安っぽいプラスティックのお盆に乗ったコーヒーセットを取り出した。部屋の隅の小さな手洗い場(本当は試験管を洗ったりするところだけど)で水を入れてきたフラスコを、マッチで火を点けたアルコールランプの上に乗せる。しばらく待っているとしゅわしゅわと下のほうから小さな泡が湧き出して、そしてそれが徐々に大きくなって行った。
「もういい?」
「ああ」
 あくびしながら先生が頷いた。インスタントコーヒーを入れたマグカップに、アルコールランプの火を消して大きな鍋つかみでフラスコを持ってお湯を注ぐ。普段は何気なくしていることでも、道具が変わると実験みたいでおもしろい。
「お砂糖は?」
「いや、俺はいい」
 ブラックのまま口に運ぶ様子を横目で見ながら、自分のにだけお砂糖とパウダーミルクを二杯ずつ入れていると、先生はぷっと笑った。
「何よー」
「いやいやいや。芝口も女の子だなあって思って」
「あったりまえでしょっ」
 あたしは産まれてきたときから女なのに何を今さらと噛み付いていると、背後でがらりとドアの開く音がした。
「楽しそうだな。俺にもコーヒー」
「お、仁。お疲れー」
 低く聞こえてきた声に硬直するあたしの前で親しげに藤元先生が手を振る。おそるおそる振り返った先には、ファイルを小脇に抱えた佐上先生が立っていた。

 -つづく-
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マスカレイド-4
2007年08月04日 (土)
 えっ、この二人って、名前で呼ぶくらい仲いいの? 友だちなの? っていうか、なんで佐上先生がここに……?
 一人で慌てるあたしを見もせずに、佐上先生は後ろ手にドアを閉めてファイルを長テーブルに置いた。
「暑いな」
「ああ、今日はまだましだけどな」
「そうか、そうだな」
 藤元先生に向かって頷きながら、佐上先生はネクタイを緩めてシャツの一番上のボタンを外す。伸ばした人差し指がすじの浮き出た手の甲が、袖を折り返したシャツの隙間から見える腕のラインが、とてもキレイで。
「お、なんだなんだ、芝口。見とれてんのか?」
「ち、違うよっ」
 隣から向けられたからかうような声に急いでぷるぷると首を振ったけれど、慌てて返事をしたのがかえっていけなかったらしい。教師とも思えない意地悪なニヤニヤ笑いが覗き込んできた。
「おいおい、顔が赤いぞ。おまえもサガミセンセイ派かぁ?」
「違うって言ってんでしょっ!」
 横目で藤元先生を睨みつけながら空っぽになったフラスコを持った。佐上先生のコーヒーを淹れるためにお水を汲んでこようと思っただけなんだけど。
「あちっ……って、ああっ!」
 ぴりっと刺すような熱に、条件反射的に手から離してしまったフラスコが吸い込まれるように落ちて、床でパリンと硬い音を立てる。ほんの一瞬で、丸い形全体にぴしりとヒビが入り、フラスコの底に大きな穴が開いた。
「ごめんなさいっ」
 叫ぶように謝って、あたしは慌ててしゃがみ込んだ。割れたフラスコを拾い上げようとしたとき、別の方向から伸びてきた大きな手のひらに行き先を遮られた。
「え……?」
 顔を上げると、床に片ひざをついた佐上先生が、包み込むようにぎゅっとあたしの手を握っていた。額に落ちた前髪のあいだから涼しげな目が覗いている。その目があたしを見ている。思いがけないと言う表現を越えた状況にそれ以上声を出すこともできない。硬直するあたしを見て、先生は唇を緩めるようにふっと笑った。
「危ないから素手で拾わないほうがいい。武志、ちり取り」
「へいへい」

 -つづく-
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マスカレイド-5
2007年08月06日 (月)
 半分命令みたいな佐上先生の言葉に溜息混じりに頷くと、藤元先生は『よっこらしょ』とかジジくさいことを言いながら、パイプ椅子から腰を上げた。佐上先生に手を捉まれたまま動けないあたしにちらりと視線を向けてから、藤元先生は部屋の隅に置かれた金属製のゴミ箱と、壁のあいだに挟まれるように置かれていたほうきとちり取りと金バサミを順に手に取る。
「ほら、どいたどいた」
 ふるふると手の甲を振って、藤元先生が床にしゃがんだままのあたしたちを追い払った。そんな藤元先生の仕草に佐上先生がくすっと笑って立ち上がり、手を取られたままのあたしが引っ張られる。あたしが立ち上がると同時にその手はふわりと離れたけど、バクバクと口から飛び出そうな勢いで心臓が動くのは止まらない。無意識のうちに右手を左手で握りしめて、両手で強く胸を押さえた。
 右手の甲を指先でなぞると、あたしよりもちょっとだけ体温の低い先生の手の跡を辿ってしまうみたいみたいな気がする。そんなことを考えると、ぼわっと膨れ上がるように頬が熱くなるのがわかる。
「まったく、なんだって俺がこんなことをせにゃならんのだ」
 ブツブツ言いながら、藤元先生が慣れた手つきでフラスコの残骸を片付けていく。
 まだ無事なフラスコの口の部分を金バサミでぱくっと挟んでゴミ箱に入れる。次に比較的大きな破片を順に丁寧に拾い上げる。つかめるサイズのものがなくなると、素早く細かくほうきを動かして粉々になった欠片を刷き集めた。戸棚の中から紙タオルの箱を取り出して一枚を抜き出し、ほんの少しの水に濡らして丁寧に床を拭く。あっという間に何事もなかったように床は元通りキレイになった。
「ついでだ。これ、捨ててくるわ」
 手伝いもせずじっと立ち尽くしているあたしたちをじろりと見てから、藤元先生はゴミ箱を持って立ち上がった。
「仁、それ片付けといて」
「ああ」
 無表情で頷くと、佐上先生は部屋を出て行く藤元先生を見送ってからほうきやちり取りをまとめて持ち、元に置かれていた位置へ運んだ。片付け終えるとくるりと振り返ってあたしを見て、そして先生は眉をひそめた。
「芝口、ケガしたのか?」
「え、あ。え……?」
「指か?」
 佐上先生の言葉の意味がわからなかった。でも、答える暇も問い返す余裕もなかった。すたすたと近づいてきた先生が、胸元で握りしめたままだったあたしの手を取って、ぎゅっと自分のほうに引き寄せて、そして。
「せ……せん、せ……」
 濡れたやわらかい感触が人差し指にぬるりと触れる。次いで硬いものが当たる。ちゅっと強く吸い上げられる感覚。
 先生があたしの指を……舐めてる。
 目の前の状況を理解した瞬間、どくんと世界がずれるような気がした。

 -つづく-
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マスカレイド-6
2007年08月08日 (水)
 目を伏せるようにしてあたしの指先を咥える先生の唇の感触をじかに感じながらも、あたしはまだ信じられなかった。
 だって、佐上先生だよ? トイレに行く姿を見たってだけで大騒ぎになる人だよ?
 プライベートなことは一切答えないって噂で、どこに住んでいるのかは勿論、好きな食べ物さえ言わないような人で。とてもキレイでカッコよくてみんなの人気者だけど、誰も近づけないような人で。でもそんな冷たい雰囲気さえ……素敵、で。
「赤くなってるな。傷じゃなくてヤケドだな、これは」
 先生の唾液に濡れたままのあたしの人差し指を目を細めるようにして見ながら、先生はそう言った。
「痛いか?」
 この人の奥さんって、どんな人だろう……?
「芝口?」
「あ、は、はいっ」
 あたしのことを気にしてくれてるんだろうか。それは今まで見たこともないほどの、すごく……優しい目で。
「痛いか?」
「だ、だいじょうぶですっ」
 再びすごい勢いで動き始めた心臓に語尾がひっくり返ってしまう。先生がそんなあたしの反応に少しだけおかしそうにくすっと笑った。
「あ、あの、ええと……」
 上擦った声のまま、あたしは意味のない言葉を繰り返した。
「ええと、その、先生。あの……」
「なに?」
 優しく目を細めたままの先生は、まだ手を放してくれない。
 放して下さいって言う? やめてくださいって言う? ううん、言いたくない。ずっとこのまま握ってて欲しい。ずっと先生と二人でいれたらいいのに。指が震えるのが恥ずかしい。うわ、汗かいてきちゃった。
 混乱する頭の中でいろんな気持ちが嵐のように吹き荒れる。
「あ、あの、先生、あ……」
 のどまでが心臓になってしまったみたいで、声が出ない。でも先生は黙って微笑ってるだけで何も言ってくれない。先生の手があたしの手からそっと離れて、そのまますうっと上に……首を辿ってあごに辿り着いた。くいと上を向かされる。
「せん、せ……」
 どうしていいのかわからずに硬直する背中に先生の手がゆっくりと回った。びくんと震えるあたしに、笑みを残したままの先生の顔が近づいてくる。
 あと十センチ、五センチ……。
 少しずつ降りてくる、先生のきれいな目、整った唇。
 ――もう、くちびるが、当たっちゃう……。
「あー、外すげー暑っつ――」
 視界いっぱいの先生に耐え切れず目を閉じた瞬間、忘れかけていたもう一人の叫び声と同時にドアがガラリと開いた。

 -つづく-
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マスカレイド-7
2007年08月18日 (土)
「な……っ、じ、ん……?」
 ゴトンと、廊下中に響き渡るようなすごい音を立てて、藤元先生の手からゴミ箱が滑り落ちた。目を丸くした間抜けな表情があたしと佐上先生に向けられている。その視線の意味に硬直するあたしの耳元に、佐上先生がくすりと笑った。
「なんで、俺じゃなくて武志を見るんだ?」
 そのあまりにも場違いな言葉に反射的に振り返った。
 真正面にあったのは、前髪のあいだから見える切れ長のきれいな目。大きな手のひらが顔を覆うように近づいてきて、頬の位置を固定して、そして――。
「ん、……んっ」
 触れた唇のやわらかさと、すぐ目の前に広がるなめらかな肌。
 驚きのあまり抵抗することを忘れたあたしをおもしろがるみたいに、先生は何度もキスを繰り返した。腰に回った腕がぐいと強く抱きしめてくる。頬に当てられていた手がゆっくりと下がってきて、ブラウスの衿のあいだに隠れていたリボンの紐をくいと引っ張った。ぷつんとスナップが弾けた感覚が伝わってくる。レンガ色のリボンはしゅるりと小さな衣擦れの感触を残して、あっさりと抜き取られてしまった。
「じ、仁……、おまえ、何をやって……」
 開けっ放しのドアの向こうから聞こえてきた声にちらりと一瞬だけ視線を流すと、佐上先生は手の中のリボンをテーブルの上にぽとりと落とすように置いた。
「おいこら、聞いてるのか、仁っ!」
「大声出すな。誰かが来たらどうするんだ」
 顔をあたしに向けたまま、その指が淡々とブラウスのボタンを外して行く。
「な、芝口も見られると困るよな?」
 初めて見た佐上先生のその悪戯っぽい笑みは、十八年生きてきてこれまで経験したことのないほどの衝撃だった。
 こないだまでの先生は嘘だったの? あれは嘘の顔だったの? それとも、今が嘘なの? わかんない。わかんないけど、でも。
 指一本も動かせないまま、あたしはただ先生を見つめ返した。そんなあたしの反応に先生はおかしそうに笑う。
 先生の指が動くごとにボタンが一つ外れるごとに衿が崩れるように落ちて、肌が徐々にあらわになる。四つまで外れてブラの下線までが見えるほどになったところで、ブラウスの下に滑り込んだ先生の手が肩を撫でるように丸く抱いた。手に押されたブラウスがするりとひじまで落ちて、剥き出しになってしまった上半身にブラだけが残る。ブラウスに透けないようにと選んだ、飾りの少ない白い地味なコットンのブラを見て、先生はふふっと息を吐きだすように笑った。
「おとなしいな、芝口。いい感じだ」

 -つづく-
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マスカレイド-8
2007年08月19日 (日)
 唇の端を歪めるような、少し陰のある笑み。今までの端正で冷たいイメージを根本から覆すちょっと悪そうな先生の笑顔は、それでも息を飲むほどキレイでカッコよかった。
「せ、せんせ……」
「なんだ?」
 口元に薄い蔭を残した透き通るまなざしが、見えない糸のようにあたしを縛る。伸びてきた大きな手のひらがブラの上からあたしの胸をつかんだ。
「やっ、せん、せぇ……」
「いいサイズだ」
「うそ。あたし、胸小さい……」
 友だちと比べてもやや小さいあたしの胸は、一応数字的にはBカップだけど三角形に尖っていてふくらみが足りないから、実質Aカップくらいしかない。チカちゃんのDカップが羨ましい。薄着になる夏は、特に気になる。胸がおっきいとキャミソールもスリップドレスも似合うし、おとなっぽくてセクシーだし。
 でも先生はあたしの主張におかしそうに笑った。
「なんだ、知らないのか。そういうのがいいんだ」
 低い吐息と一緒に先生はあたしの首すじにちゅっとキスをした。そのあいだも親指と人差し指で挟むようにやわやわと胸を揉み続ける。手のひらでこすりながら親指を擦り付ける。そうされると硬くなってしまう。
「そう、なの……?」
「ああ」
 軽く頷くと先生はまたキスをした。やわらかな感触を押し当てられると、それ以上は何も言えなくなる。わからなくなる。もっとして欲しくなる。内側からの衝動に耐え切れず、あたしは指先に触れた先生のシャツをきゅっと握りしめた。
「小さい方が敏感でいいんだ」
 そう言いながら先生はきゅっと乳首をつかんでひねった。
「ひっ、いたっ」
 パットの入ってない薄い布越しの痛みに、全身に電流が走り息が詰まる。その衝撃にくらりと世界が揺れて脚が力を失った。倒れそうになった身体が強い力で抱きとめられる。そのまま先生は背を丸めるようにあたしの胸元に顔を伏せた。細いキレイな指先がカップをずらして、じんじんと痛みを訴える先端をぺろりと舐め上げた。
「や、恥ずかしい……」
 先生があたしの胸を……。
 思わず身をよじったけれど、先生はあたしをテーブルに押し付けるようにして逃げ道を塞いだ。
「恥ずかしいか? そりゃそうだな」
 クスクス笑いながら先生はふっと視線を横に流した。釣られるようにそっちに向くと、ドア付近に立ち尽くしているジャージ姿の人影が目に入る。
「いつまでそこに立ってるつもりだ、武志」
 佐上先生の声に影がびくっと震えたのがわかった。

 -つづく-
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マスカレイド-9
2007年08月21日 (火)
「藤元、先生……」
 そうだ、忘れかけていた。さっきからいたんだ、藤元先生。ずっと見られてたんだ。あたしが佐上先生にいろいろされてるところ、ずっと見てたんだ。
 ぼやけかけていた頭からさぁっと血の気が引く。
 だってこれってこの状況って、スキャンダル以外のなにものでもないでしょ。もし藤元先生が誰かにこのことを言ったら誰かを呼んできたら、あたしはよくて停学、ヘタしたら退学もの。でもそれは先生だって同じなのに、その声は楽しそうにしか聞こえない。
「入ってくるならくるでいいから、早く閉めろよ。誰かに見られたらマズいだろう、俺もおまえも」
 藤元先生も? どういうこと?
 わけがわからずにいるあたしに佐上先生がふっと笑いかけた。
「武志なら別にいいよな、芝口?」
 いいって、なにが。
 けどそれを訊く暇もなく、ガラガラとドアが閉まった。次いで聞こえてきたのは、カシャンと内側からカギが落とされる音。慌てて振り向くと、ゴミ箱を持って難しい顔をした藤元先生がそこに立っていた。
 ちょ、ちょっと待って。ちょっと、これってこれって……!
「これでおまえも共犯だ。まあ、止めなかったって時点で、潜在的共犯者ではあったわけだがな」
 けれどあたしの動揺なんか知ったこっちゃないって顔で、佐上先生はのどの奥を震わせて低く笑う。ゴミ箱を定位置に片付けてから藤元先生が振り返り、じろりと佐上先生を睨みつけた。
「ああ、世間はそう見るだろうさ。どうせ最初から俺を巻き込むつもりだったんだろう、おまえは」
「人聞きの悪いことを言うな。拗ねてるのか?」
「じゃなくて、怒ってんだよっ」
 機嫌悪そうに吐き捨てると、藤元先生はまったくあたしの方を見ないまま、戸棚の一番下の引出しを開けた。
「俺、こいつの担任なんだぞ。明日からどうしてくれんだよ」
 日焼けしたゴツい手が、奥の方から三泊旅行用の荷物くらいは入りそうな、黒いボストンバッグを取り出した。
「しかも、よりによって学校で。何を考えてんだ、何を」
「おまえにそんなことを言われるとは思わなかった。教え子に手を出したのはおまえの方が先だろう。忘れたとは言わせないぞ。体育祭の――」
「あれは! あっちから迫ってきて……!」
 佐上先生の語尾を引ったくるように叫びかけて、けれど藤元先生は言葉に詰まったように黙った。そして、普段の態度が嘘のような目であたしを見た。そのままぷいと目をそらすと、あたしに背を向けて大きなバッグの前にしゃがみこんだ。

 -つづく-
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マスカレイド-10
2007年08月22日 (水)
「――ちっくしょー」
 うめくように言いながら、藤元先生はバッグのジッパーを外した。開いたジッパーの隙間から似たような色の中身が見える。中身はなんだろう。膜を剥がすように引っ張り出す手元に、自分の置かれた状況を忘れて身を乗り出しそうになる。
「芝口は、武志のことが好きなのか?」
「え、あっ、やっ!」
 耳元に低く囁かれた言葉の意味を理解するよりも先に、佐上先生の手がブラウスの隙間から抱き寄せるようにするりと入り込んできた。あっと思う暇もなく、ブラのホックが外されてしまう。
「俺から目をそらして他の男ばかり見ているから、こういうことになる」
 キレイな切れ長の目が間近でゆっくり細められたけど、意味がわからない。
「どういうこと、ですか?」
「自分で考えろ」
 先生が短く言い捨てる同時に、肩から落ちていたブラウスがぎゅっと背中側に引っ張られた。脱がされると思ったけれど、なぜか先生はブラウスを抜き取らなかった。手首で引っかかったブラウスでそのままぎゅっと縛ったのがわかった。
「せん、せぇ……」
「これでもう抵抗できないな」
 先生の言う通りだった。手首を縛られただけで上半身がまったく動かせなくなる。先生がこんなことをするなんて知らなかった。想像したこともなかった。ひっそり先生に憧れていたけど、抱きしめて欲しいと思ったことも何度もあったけど、それでもこんな一方的なのってやっぱり犯罪だと思う。
「このまま、おとなしく先生に犯されてしまいなさい」
 なのに、なんでそんな目をするの?
「こんなときに教師気取ってんじゃねえよ」
 何をしているのか、向こうのほうでバサバサガタガタシューシューと賑やかな音を立てながら、藤元先生が吐き捨てた。ちらりと肩越しに視線を流すと、佐上先生は軽く左の眉を吊り上げた。
「このほうが背徳感があって楽しいだろう?」
「そんな雰囲気出さなくても、この状況は充分だよ。もっと罪悪感持てってんだ」
 佐上先生の腕のあいだから覗く大きな背中と、その向こうに広がる黒っぽい波。それがうねうねと揺れながら少しずつ膨らんでいるように見える。あれがなんだかわからない音の正体?
「ほら、また武志を見る」
 ぼそりと呟くような声に顔を上げると、少し眉をひそめたキレイな目がじっとあたしを見ていた。

 -つづく-
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