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2006年11月07日 (火)
有理が教えてくれたのは、いつもスマートに仕事をこなしている彼らしくない状況だった。
一昨日、何度も注文を聞き違え、それが原因でお客さんとトラブルになった。オーナーが出てきて謝り、なんとかその場は収まったらしい。翌日はグラスを割り、皿を割り、灰皿までも割り、挙句に今日はお酒の瓶を割ってケガをした。手のひらを五針も縫ったと言う。
一昨日。
彼と別れたのは四日前だった。つまりあの翌日が、有理の言う『一昨日』ということになる。
「そんで病院から帰ってきて、オーナーと話してたんだけど。『プライベートなことですから』とかぬかすのをさんざん脅して宥めて、ようやくあんた関連の話を聞きだして――」
「あのさ、有理」
居ても立ってもいられなくて、とりあえずベッドから降りた。
あの彼が、客とトラブルを起こすなんて考えられない。グラスを割るとかケガをするとか、ありえない。ありえないのに、どうして?
「今どこにいるの?」
「だから、店。今日は土曜だからね、オールナイト。カウンターはもう一人いるから助かったけど――」
「わたし、今から行ってもいい?」
明日は仕事も休みだ。たとえ眠らなくても差し支えるわけじゃない。彼がケガをしたのならお見舞いをしないと。知らなかったのならいいけど、聞いてしまったことだし。
自分に対する言い訳を頭の中で組み立てながら、ベニヤ板で作られた安物のクローゼットを押し開けた。そんな状況ではないのに、みっともない格好をしたくはないと彼にそう見られたくないと、どこかに残った見栄が囁く。
「あ、来る? すぐ来れる? 裏口わかる?」
「うん、わかる。駐車場のところからゴミ置き場の横通るんでしょ?」
「そうそう、そっちから入ってきて」
「わかった。じゃあね」
ケータイを置くとパジャマを脱ぎ捨て、フリルのついたベビーピンクのカットソーとブーツカットのブラックジーンズを急いで身に付けた。財布を通勤用の鞄から取り出して、持ち直したケータイと一緒にライトストーンのついた華やかなバッグに放り込む。
これくらいの時間でも、大通りに出ればタクシーは捉まえられるだろう。車に乗りさえすれば、二十分ほどで着く距離だった。ほんの二十分。そこに彼がいる。
「ケガですって? 五針縫ったですって?」
寝乱れた髪にブラシを通して、軽く顔を洗ってうがいをして、ピンクベージュの口紅を塗った。
「バカっ!」
-つづく-
一昨日、何度も注文を聞き違え、それが原因でお客さんとトラブルになった。オーナーが出てきて謝り、なんとかその場は収まったらしい。翌日はグラスを割り、皿を割り、灰皿までも割り、挙句に今日はお酒の瓶を割ってケガをした。手のひらを五針も縫ったと言う。
一昨日。
彼と別れたのは四日前だった。つまりあの翌日が、有理の言う『一昨日』ということになる。
「そんで病院から帰ってきて、オーナーと話してたんだけど。『プライベートなことですから』とかぬかすのをさんざん脅して宥めて、ようやくあんた関連の話を聞きだして――」
「あのさ、有理」
居ても立ってもいられなくて、とりあえずベッドから降りた。
あの彼が、客とトラブルを起こすなんて考えられない。グラスを割るとかケガをするとか、ありえない。ありえないのに、どうして?
「今どこにいるの?」
「だから、店。今日は土曜だからね、オールナイト。カウンターはもう一人いるから助かったけど――」
「わたし、今から行ってもいい?」
明日は仕事も休みだ。たとえ眠らなくても差し支えるわけじゃない。彼がケガをしたのならお見舞いをしないと。知らなかったのならいいけど、聞いてしまったことだし。
自分に対する言い訳を頭の中で組み立てながら、ベニヤ板で作られた安物のクローゼットを押し開けた。そんな状況ではないのに、みっともない格好をしたくはないと彼にそう見られたくないと、どこかに残った見栄が囁く。
「あ、来る? すぐ来れる? 裏口わかる?」
「うん、わかる。駐車場のところからゴミ置き場の横通るんでしょ?」
「そうそう、そっちから入ってきて」
「わかった。じゃあね」
ケータイを置くとパジャマを脱ぎ捨て、フリルのついたベビーピンクのカットソーとブーツカットのブラックジーンズを急いで身に付けた。財布を通勤用の鞄から取り出して、持ち直したケータイと一緒にライトストーンのついた華やかなバッグに放り込む。
これくらいの時間でも、大通りに出ればタクシーは捉まえられるだろう。車に乗りさえすれば、二十分ほどで着く距離だった。ほんの二十分。そこに彼がいる。
「ケガですって? 五針縫ったですって?」
寝乱れた髪にブラシを通して、軽く顔を洗ってうがいをして、ピンクベージュの口紅を塗った。
「バカっ!」
-つづく-
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