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2006年11月10日 (金)
怒鳴るように聞こえてきた名前に視線を上げた。間近にある、有理の横顔を見つめる。けれど彼女は、わたしに頬をすりつけるような体勢で、途切れ途切れに聞こえてくる二人の会話に黙って耳を傾けていた。そのひどく真面目な表情に何も言えなくなる。
今、誰かがシズと言った。そう聞こえた。彼の名前を呼んだ。
これはなに? なにをしてるの?
『だって、もう―――。俺が――、――でも――』
やはりそうだ。彼の声だ。彼の声だとわかれば、そう聞こえる。むしろ、彼の声だと最初にわからなかったのが不思議なほど、間違いなく彼の声だった。
けれど、その会話の大半は聞き取れないままだった。どんなに耳を澄ましても、なんとか理解できる程度に聞こえてくるのは、彼よりも少し低くて太い、別の男性の声だけだった。そのもどかしさに唇を噛む。
彼が話しているのに。それはわかっているのに。
「あー、ダメだわ」
唇を歪めてちっと舌打ちをすると、有理は忌々しそうにそう呟いた。
「ごめん美雪、作戦失敗だわ。声ちっちゃいよ、シズ」
彼女のその言葉で、だいたいの状況は読み取れた。彼と話している相手が誰なのかも、彼女のいう『作戦』とやらがなんだったのかも。
「シズくん、今あの中でオーナーと話してるの?」
「うん。美雪がいないほうが本音話すかと思ったんだけど……ダメね、これじゃ」
言いながら彼女は、わたしの手の中のから自分のケータイをするりと取り上げた。ぼそぼそした会話は続いていたけれど、ネイルアートの施されたきれいな指先は赤い電話のマークを無慈悲な手つきで押した。そのまま乱暴に本体を畳む。
「ホンットにもう、全くもう……。バカシズ」
その言い草はちょっとひどいんじゃないかなとも、ちらりと思ったけど。
「これじゃ仕方ないわねー」
怒ったような顔でそう言うと、彼女は窓の桟に置かれた空き缶を半分に切ったようなデザインの灰皿に吸いかけのタバコをねじこんだ。わたしの手を取ると、強い視線のまま大きく息をつく。
「乱入するわよ」
-つづく-
今、誰かがシズと言った。そう聞こえた。彼の名前を呼んだ。
これはなに? なにをしてるの?
『だって、もう―――。俺が――、――でも――』
やはりそうだ。彼の声だ。彼の声だとわかれば、そう聞こえる。むしろ、彼の声だと最初にわからなかったのが不思議なほど、間違いなく彼の声だった。
けれど、その会話の大半は聞き取れないままだった。どんなに耳を澄ましても、なんとか理解できる程度に聞こえてくるのは、彼よりも少し低くて太い、別の男性の声だけだった。そのもどかしさに唇を噛む。
彼が話しているのに。それはわかっているのに。
「あー、ダメだわ」
唇を歪めてちっと舌打ちをすると、有理は忌々しそうにそう呟いた。
「ごめん美雪、作戦失敗だわ。声ちっちゃいよ、シズ」
彼女のその言葉で、だいたいの状況は読み取れた。彼と話している相手が誰なのかも、彼女のいう『作戦』とやらがなんだったのかも。
「シズくん、今あの中でオーナーと話してるの?」
「うん。美雪がいないほうが本音話すかと思ったんだけど……ダメね、これじゃ」
言いながら彼女は、わたしの手の中のから自分のケータイをするりと取り上げた。ぼそぼそした会話は続いていたけれど、ネイルアートの施されたきれいな指先は赤い電話のマークを無慈悲な手つきで押した。そのまま乱暴に本体を畳む。
「ホンットにもう、全くもう……。バカシズ」
その言い草はちょっとひどいんじゃないかなとも、ちらりと思ったけど。
「これじゃ仕方ないわねー」
怒ったような顔でそう言うと、彼女は窓の桟に置かれた空き缶を半分に切ったようなデザインの灰皿に吸いかけのタバコをねじこんだ。わたしの手を取ると、強い視線のまま大きく息をつく。
「乱入するわよ」
-つづく-
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