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2007年07月13日 (金)
「やっとわかったか。おはよう、理香」
「お、おはようございます」
わざとらしい溜息混じりの亮治の声に応えながら、理香は枕元に残ったままのメガネに手を伸ばした。薄いピンクのセルフレームを片手で開き、耳に引っ掛ける。視線の焦点が合わずほわりと膨らんでいた部屋全体が、メガネで矯正されることによってきゅっと引き締まり焦点が合う。クセのある髪がヨダレを糊に頬に張り付いていることに気付き、左手で梳き流しながら理香は毛布を足先で払い除け布団から抜け出た。
「どうしたんですか、こんな朝早くに」
「ん、ああ。いや、何」
訝しげな理香の言葉に意味のない言葉をいくつか並べると、亮治はこほんと軽い咳ばらいをした。
「理香、今すぐ出て来られるか?」
「ムリです」
間髪入れず答えながら、理香は壁に張り付いた丸い時計を見上げた。デフォルメされた小さなうさぎが示す時間は、六時五十二分。理香の普段の起床時間よりわずかに早い。
「どれくらいで出られる?」
「どれくらいと言われても、えーと……」
理香がいつも起きるのは七時ちょうどだった。着替えとメイク、ヘアセット、それにオレンジジュースとカップヨーグルトと買い置きのミニマドレーヌという簡単な朝食を摂るだけでも、それほど手早いとは言いがたい理香には時間がかかってしまう。そこから駅まで歩いて十二分、時折駆け足を交えながらなら九分。乗換えを含めて電車で約三十分、更に駅から八分歩いて会社へ入り、更衣室に駆け込んで制服に着替える。それが理香の毎朝だった。
「えと、ちゃんと九時までには出勤しますから」
「家を出るのは?」
畳み掛けるような問いかけに理香はわずかに眉をひそめた。けれど寝起きの思考は積極的に動こうとはしない。亮治の求める答えの本質を見抜くこともなく理香はもう一度壁時計を仰ぎ見た。
「ええと、だいたい八時くらいです」
「一時間もかかるのか?」
「悪かったですねーっ」
呆れたように返ってきた言葉に、顔を洗うだけで人前に出られる男とは違うと理香はムッと唇を尖らせたが、電話の相手にはそこまでは伝わらない。
「いや、女の支度は時間がかかると相場が決まっているからな」
くっくっくと低く笑う声が返ってくる。相変わらずの余裕のある言い回しに理香は柳眉を逆立てた。
「わかった。じゃあ一時間後に」
その言葉を最後に、理香が抗議しようと口を開く間もなく、亮治からの電話はぷつりと切れた。
-つづく-
「お、おはようございます」
わざとらしい溜息混じりの亮治の声に応えながら、理香は枕元に残ったままのメガネに手を伸ばした。薄いピンクのセルフレームを片手で開き、耳に引っ掛ける。視線の焦点が合わずほわりと膨らんでいた部屋全体が、メガネで矯正されることによってきゅっと引き締まり焦点が合う。クセのある髪がヨダレを糊に頬に張り付いていることに気付き、左手で梳き流しながら理香は毛布を足先で払い除け布団から抜け出た。
「どうしたんですか、こんな朝早くに」
「ん、ああ。いや、何」
訝しげな理香の言葉に意味のない言葉をいくつか並べると、亮治はこほんと軽い咳ばらいをした。
「理香、今すぐ出て来られるか?」
「ムリです」
間髪入れず答えながら、理香は壁に張り付いた丸い時計を見上げた。デフォルメされた小さなうさぎが示す時間は、六時五十二分。理香の普段の起床時間よりわずかに早い。
「どれくらいで出られる?」
「どれくらいと言われても、えーと……」
理香がいつも起きるのは七時ちょうどだった。着替えとメイク、ヘアセット、それにオレンジジュースとカップヨーグルトと買い置きのミニマドレーヌという簡単な朝食を摂るだけでも、それほど手早いとは言いがたい理香には時間がかかってしまう。そこから駅まで歩いて十二分、時折駆け足を交えながらなら九分。乗換えを含めて電車で約三十分、更に駅から八分歩いて会社へ入り、更衣室に駆け込んで制服に着替える。それが理香の毎朝だった。
「えと、ちゃんと九時までには出勤しますから」
「家を出るのは?」
畳み掛けるような問いかけに理香はわずかに眉をひそめた。けれど寝起きの思考は積極的に動こうとはしない。亮治の求める答えの本質を見抜くこともなく理香はもう一度壁時計を仰ぎ見た。
「ええと、だいたい八時くらいです」
「一時間もかかるのか?」
「悪かったですねーっ」
呆れたように返ってきた言葉に、顔を洗うだけで人前に出られる男とは違うと理香はムッと唇を尖らせたが、電話の相手にはそこまでは伝わらない。
「いや、女の支度は時間がかかると相場が決まっているからな」
くっくっくと低く笑う声が返ってくる。相変わらずの余裕のある言い回しに理香は柳眉を逆立てた。
「わかった。じゃあ一時間後に」
その言葉を最後に、理香が抗議しようと口を開く間もなく、亮治からの電話はぷつりと切れた。
-つづく-
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