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R18 らぶえっち小説Blog
えっちな表現が盛りだくさんにつき、18歳未満&清純派さん回れ右!
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あなたは知らない-11
2011年10月28日 (金)
「んっ、あっ、あぁ……っ!」
 首すじに熱い舌が当たる。ざらりと音を立てて耳朶を舐められるとぞくぞくする。同時に乳首をつままれて身体がぶるりと震えた。舌の動きに併せて、ショーツの奥がヒクヒクと蠢いた。
「ほら。もうおっぱいがピンピンになってきた」
「んっ、んんんっ」
 課長の繊細な指がキーボードを叩くように赤く腫れ上がった乳首を弾いた。なぶられて変形する自分の胸を見ながら、けれど本当はもっと違うところに意識が行っていた。不審な指のことを含めて、今朝の電車内のできごとを何度も思い返していたわたしのそこは、今すぐにでも彼を受け入れることができるほどにあふれている。耳たぶに舌が這うたび、胸を強く揉まれるたび、さわられていない場所が苦しいほどにひくつく。自分からは決して言い出せない言葉が欲望が、頭の中でぐるぐると回る。
「あん、課長……」
 耐え切れず、スカートを擦り付けるように腰をくねらせてしまう。身長差もあって、うまくその部分には当たらないけれど、言いたいことはわかってくれたらしい。吐息のような笑い声が耳にかかった。濡れた耳たぶへ息を吹きかけられただけでもぞくりと身体が震える。
「なるほどね」
 笑みの混じった声がつぶやいて、その手が離れた。不安に駆られて向けた視線の先にはお行儀よく壁に並んでいたパイプ椅子を持ち上げる背中があった。疑問を浮かべる暇もなく、がちゃりと音を立てて開いた椅子に腰をかける。
「さぁ、こっちへ」
 くくっと低い声で笑いながらベルトのバックルを外し、続いてジッパーを下ろした。大きく開いた長い脚の間から黒と赤のチェック柄のトランクスが顔を出す。
「早く気持ちよくなりたいんなら、協力して欲しい。いいかい?」
「はい」
 ゆっくりと近寄ったわたしに向けられた笑顔に頷いて、その足元にひざをついた。目の前のチェックがぐいと引き下げられて、課長のさわやかな外見からは想像もつかないような凶悪に反り返ったものが跳ねるように飛び出てきた。
「よろしくね」
 頭を撫でるように引き寄せられた。されるがままに先端にちゅっと吸い付く。丸っこい三角の赤黒い部分にぷつりと開いた穴を舌先で突付くと、苦いようなしょっぱいような、ヘンな味がする。わずかに糸を引くその液体をキレイに舐め取ってから、もっと欲しいとばかりにちゅっちゅとキスを繰り返した。
「んっ、あ、そう。いいよ、こっちを見て」
「ん……ふぁあい」
 くぐもった声で返事をして、先端に舌を這わせながら顔を上げた。

 -つづく-
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あなたは知らない-12
2011年11月01日 (火)
「いいね。小さな口でしゃぶってるのが何とも言えないな」
 課長は奉仕しているわたしを見るのが好きらしい。目が合うと息を漏らすようにふっと笑って髪を掻き上げてくれる。
 誰にでも公平に優しい課長が、今はわたしだけを見ている。そう考えただけでズキっと奥に衝撃が走る。もっと言って欲しくてもっと褒めて欲しくて、見せつけるようにぺろっと舐めてから、大きく口を開けてぱくっと咥えた。軽く吸いながら舌を這わせると、さっきまででも充分に大きかったのがさらにぐぅっと膨れた。
「おいしいかい?」
 いやらしい問いかけに咥えたまま頷いて、身体ごと近づくように深くまでゆっくりと含んだ。いったん吐き出してから幹の部分をぱくっと横向きに咥えて唇で強く挟んで、根元から先までを刺激する。
「いいよ、上手だ」
 うめくような低い声の褒め言葉にズキズキする。もっと喜んで欲しい。もっと感じて欲しい。そんなことを考えながら口いっぱいに頬ばって、顔が汚れるのも構わずに、にじみ出てくる苦いとろみをすすり上げた。途切れ途切れに聞こえてくる、切なそうな溜息がたまらなくわたしを煽る。
「もう、いいよ」
 先端を深く含んで舌の裏で撫で回していると、慌てた手がわたしを押し戻した。天を突き上げんばかりに反り返ったものからゆっくりと離れると、先端と唇が細い糸でとろりと繋がる。そっと課長を見上げると、眉をひそめた普段とは違う余裕なさげな顔が胸にずきんと響いた。この表情をさせているのはわたしだと、そう考えるだけで熱いものがあふれてくる。
「朝から煽られっぱなしで我慢できないよ。こっちへきて。後ろ向きで、跨がって」
 そんな苦しそうな顔で言われたら、こっちだって我慢できなくなってしまう。言われるまま、くるりと半回転して背中を向けて課長の脚のあいだに入った。いつもより少し乱暴にスカートがめくり上げられる。大きな手がお尻をつかんで引き寄せる。細い指先にショーツをずらされた。へっぴり腰で課長の上に座り込むような姿勢で、丸いものがぎゅっと押し当てられた。
「んんんっ、あっ……、はぁっ!」
 ずぶずぶずぶ、と音を立てそうな感じで奥まで侵入される。ごりごりと壁をこすり上げられる感覚に悲鳴を上げた。軽く左右に揺すられるだけで、ものすごい快感が押し寄せてくる。震えるたび、わたしの中の課長がぐうっと押し上げてくるのがわかる。
「今日はまた、一段とすごいね。ヒクヒクしてるよ」
 はぁっと耳元に息を吐きかけながら、課長は手を前に回した。ショーツの隙間から入り込んできた指が、痛みを訴えるほどに求めていた部分を優しくそっと撫でた。くにゅくにゅと捏ねるようになぞられて、全身が硬直した。

 -つづく-
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あなたは知らない-13
2011年11月12日 (土)
「あぁ……っ! うっ、く、ぅぅっ」
 ずるんと引き抜かれては突き上げられる。単調な強い力に流される。その激しさの前にわたしは波に弄ばれる笹の小舟のように無力だった。抵抗することもかなわず、ただあえぎ、もがき、快楽を享受する。欲しいものはすぐそこにあった。涙で曇った視界の向こうに、透けて見えるほど近くに。
「ひぁっ! あ、ああ……っ!」
 強い突き上げの合間にきゅうっと胸を摘まれて身体がぶるりと震えた。内側を突き上げられ、指先で弄ばれ、さらに加わった別の刺激がスイッチだった。背中から回ってきた指の攻めに、蹴りこまれるように快楽の淵へと転げ落ちる。
「きぃっ、ひ……っ! あ、あっ……」
「なんだ、もうイったの?」
 息ができなくなるような快感に背を波打たせるわたしに、嘲るような言葉が降りかかる。けれど、それに応えるような余裕はなかった。だらしなく口を開いてあえぎ、腰をくねらせてはもっと欲しいとねだる。
「今日はぼくのほうが早いかと思ってたんだけど、無用の心配だったな」
 くくっと耳元に息を吐きかけながら課長が愉しげにつぶやく。わたしの掲げた白旗は課長にも見えているはずだけれど、背後からの攻めに手心が加えられることはなかった。
「まぁ、いいか。好きにさせてもらうよ」
 残酷なまでに優しい声がささやくと、さらに早まった動きが打ち込まれた。こすり上げ、引き抜かれ、そのたびに壊れたおもちゃのようにぎくしゃくと震えるわたしを指先でも追い詰め、課長は圧倒的な力の差を見せ付けた。
「ダメ、もうダメ……あっ、ああっ、ひぃっ、やぁ……っ」
 蹂躙するリズムに併せて、指が優しくわたしをいじめる。電流が流されたように目の前がチカチカと白く光る。何度も頂点に押し上げられて自分がどうなっているのかわからない。
「か、ちょ……、も、だめ……っ」
「そうか、そうだな。じゃあ、遠慮なく」
 がくんと身体が前のめりになる。落ちると思うより早く簡単に抱きとめられた。腕は縛られたままだから、頬を視点に土下座するような体勢になってしまう。高く上げたお尻が大きな手のひらでぐっと挟み込むようにつかまれて、そして。
「いっ、きぃ……っ! ひ、あああっ!」
 がん、がん、と音が出そうな勢いで叩き込まれながら、アダルトビデオのような『壊れたおもちゃのように好き勝手に振り回されて犯されている女』のイメージが脳裏に浮かんだ。乱れた制服姿で獣のように組み敷かれ、何度も声を上げて快楽を享受するいやらしい女――その想像図になぜか快感が増す。
「あっくぅっ、あっ、ああ……っ!」
「いいかい、中に出すよ?」
 荒い息が混じった声が聞こえる。わたしがひどい生理痛のために低容量のピルを飲んでいることは知っているはずなのに、いつもそうやってわたしの同意を求める。それは課長の優しさなのかもしれない。
「はい、出して……出してくださ……あ、ああああっ!」
 ほとんど真上から叩き込まれるように奥にまで侵入された。行き止まりに押し付けられた課長のものがぐぅっと膨らむ。
「っく、うっ、うっ」
「やぁっ! ああっ、あっ、あああ……っ!」
 低く押し殺した課長のうめき声がわたしの頭の中まで掻き回していた。課長が気持ちよくなっている。わたしの中で気持ちよくなっている……。
 その後、課長が何かを言ってそれにわたしも答えたけれど、内容は覚えていない。

 -つづく-
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あなたは知らない-14
2011年11月23日 (水)
「んっ、あんっ、んんっ!」
 会議用の長テーブルに上半身を預けた体勢で両足を上げて、わたしは課長に組み伏せられていた。手の戒めは解かれてネクタイは課長のポケットに入っていた。ブラウスのボタンが外れ、スカートはウェストまでめくり上げられ、もうとっくに汚れていたショーツは床に落ちている。替えのショーツがなければこの後の業務にも支障をきたしかねなくなるけれど、もちろんそんな手抜かりはない。
「あっ、ああん……」
 課長は立ったままわたしのひざに手を置き、ゆっくりと身体を前後に揺らした。ときおり覆いかぶさるように身体を倒してきては、耳を噛み首すじに舌を這わせ、胸を含んで吸い上げる。一度目よりはかなり余裕があるようで、わたしが声を上げるたびに応えるように軽く突き上げてくる。課長を受け入れている箇所のすぐそばにある敏感な芽を弄んで、震えるわたしに笑みを漏らす。
「あ、ああぁっ!」
 ゆっくりと引き抜かれると同時に繊細な指先にぞろりと撫で上げられて、反射的に力が入る。そうするとゴツゴツとした感触が普段よりよくわかる。ずるずると抜けて行く感覚さえ気持ちいい。軽くつねられる、痛いほどの鋭さが呼び水となって、さらに深い快楽を求めてしまう。さっきまであれだけ何度も感じておきながらもっと欲しいなんて、わたしはどれほどに浅ましいのだろう。そんなことを考えてしまうときもあるけれど、でも。
「ああ、課長、やぁ……」
 すでに一度、奥まで痺れるような感覚に声を上げたあとでは、このゆったりとしたリズムは物足りなかった。指先で捏ねられるのも気持ちいいけれど、理性が吹き飛ぶほどの快感にはならない。もっと激しくして欲しいと思っても口に出すことはできない。気づいてもらえるのを待つしかない。
「あ、課長……?」
「しーっ」
 そのとき、刺激を与えてくれていた指がふいに離れた。次いで、わたしの中のゆったりした大きな動きも止まる。ぼんやりとさまよっていた視線を戻すと、悪戯っぽい目が唇に人差し指を当てて見せる。疑問に思うより早く、課長が上着のポケットから黒っぽい携帯電話を引っ張り出した。
「いいね。声は出しちゃだめだからね」
 相手を確認しているのか画面に目を落としたまま早口で言うと、携帯電話を耳に当て、そして動きを再開した。


 -つづく-
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あなたは知らない-15
2011年11月24日 (木)
「あ、いつもお世話になっています、企画二課の津川です」
「んっ! ん……んんっ!」
 わたしの口元を大きな手のひらで覆うと、課長は早いリズムでこすり付け始めた。オフィスでは聞き慣れている、課長の電話対応の言葉と同時に突き上げられて、必死で悲鳴を飲み込む。ずるりと一気に引き抜かれて身体が反り返る。ずんと奥まで叩き込まれて目の前がパチパチと弾ける。先ほどまでの穏やかさに抱いていた身体の不満は吹き飛んだけれど、この状況に頭の中はパニック寸前だった。
 ――もしも、わたしが声を出してしまったら、その声が相手に聞こえたら。
 危険度から言えば、今朝の電車の中での悪戯の比じゃない。相手は課長をよく知っていて、課長もよく知っているであろう人物だ。しかも今は、お昼休みとは言え就業時間中。仕事中に部下と社内でこんなことをしているとばれて、ただで済むわけがない。
『よくて降格、あるいは左遷、もしくは解雇……』
「っ、んんっ!」
 恐ろしくてたまらないのに、怖いと思えば思うほど身体が加速していく。びくっびくっと痙攣しながら先へと進んでいく。容赦なく掘り起こす激しさに、強くつむった目じりに涙が浮かぶ。
「……んっ! んっぁっ!」
 わずかに声が出た瞬間、口を覆っていた手のひらの力が強くなった。あごが痛むほどにに押さえつけられて、なぜか限界が吹っ切れる。
「んっ! んっ、んっ、んんっ!」
 がくんと身体が跳ねた。大きく見開いた目に、携帯電話を片手にわたしを見下ろす課長の姿が映る。視線が合ったと思った瞬間、その口元が笑いの形に歪むのがわかった。
「わかりました、二時ですね。あ、はい。大丈夫です。すぐ向かいます」
 話し終えると課長はふうっと小さく息をつき、手の中の機器をぱちりとたたんだ。そのままわたしから離れる。ぬるんとした感触に、脚の辺りを汚してしまったことがわかる。携帯電話と入れ替わりに出したポケットティッシュで、まだ勢いを失くしていないものを素早く拭くと、課長は身支度を整え始めた。
「クライアントから急な呼び出しが入った。今日はここまでだ」
 また今度、ゆっくりしようね。
 慣れた手つきでネクタイを結びながら課長が肩をすくめる。その声に残念そうな響きがあったのだけが救いだった。ここでごねても意味がない。邪魔な存在にだけはならない。なりたくない。
「お気をつけて。いい話だといいですね」
「ありがとう。行ってくるよ」
 さっきまでのことを全部忘れたようなさわやかな笑みに、わたしは黙って頷いた。

 -つづく-
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あなたは知らない-16
2011年12月10日 (土)
「ごめんね、美加ちゃん。お先です」
 六時ちょうど、定時就業時間。
 先約があるからと謝る同僚に、こう言うときはお互いさまですからと応えてマグカップを片手に席に戻った。携帯電話を片手にかばんを持ち上げる二人にちらりと視線を向けながら、スリープ状態に入っていたパソコンを再開させる。月末にはまだ少し間があるけれど、優秀な課員のおかげで締め切りに向けて事務量は増えてきている。それでも休日出勤も珍しくない課内全体の雰囲気から考えれば、月平均で二十時間を少し超える程度の残業と言う事務員の仕事は申し訳ないほどにのんびりだ。
「もうちょっとしたら主任が帰ってくると思うんで、よろしくね」
「はい、お疲れさまでしたー」
 拝むように片手を挙げた詫びに笑顔で手を振って、そそくさと帰っていく後ろ姿を見送った。
「また難儀なことで」
 濃く淹れた緑茶をずずっとすすりながら壁の時計を見上げた。
 本来ならば来月に決まるはずだった仕事が先方の決算の都合で急遽決定し、内勤予定だった主任が呼び出された。今回の資料が明日の会議で使われることに決まったため、今日中に入力しておかなければならない。
 急ぎの仕事に限って、今日中に明日中にと言われると目を回しそうなボリュームを持っていることが多い。今回も残念ながらそのケースだった。実際にどれくらいの分量があるのかはこの目で見てみなければわからないけれど、五枚六枚でないことだけは確かだ。もしかしたら主任は手伝ってくれるかもしれないが、内勤だったのを呼び出されたということは、そもそもほかにやるべきことがあったからだろうし、全部一人でやってと言われる可能性も低くはない。持ち帰られる資料が大量でないことを願うばかりだ。
「課長からは連絡ないし」
 誰もいないのを幸い、引き出しのチョコをつまみながら携帯の画面を確認したけれど、先ほどからまったく変化はない。三時過ぎに会社の電話に入った他人行儀な声での「遅くなるので本日は直帰します」の一言で課長の説明は終わったらしい。仕事が優先なのは当然だけれど、あの状況で置いて行かれたわたしの寂しさも少しは察して欲しいと思ってしまうのも事実だった。もやもやとしたなにかが、まだ身体中のそこここに熱を残しているような気がして、なんとなく落ち着かない。

 -つづく-
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あなたは知らない-17
2011年12月17日 (土)
「ま、これでもやっとくかー」
 主任が帰ってくるまでの時間つぶしにと、お世辞にもきれいとは言えない走り書きの束をファイルから抜き取った。暇なときによろしくと渡されていたものだ。これをワードで清書し、会議録としてファイリングしておくのがわたしの仕事だった。
 誰もいないのを幸い、一文節ずつ声に出して確認しながらキーボードを叩いていると、遠くから響いていた足音がカツリと止まり、そしてドアが開いた。
「ただいま」
「お帰りなさい。お疲れさまです」
 テンプレートのような返事をしながら顔を上げると、うつむき加減に入ってきた主任が部屋を横切って自分の机に向かうのが見えた。きれいに片付いた机の上に大きなビジネスバッグをどかっと置く。いかにも重そうな音を聞きながら、わたしは椅子から腰を上げた。立ったままバッグの中からパソコンと書類ケースを引っ張り出すと、主任が書類ケースだけを差し出してくる。受け取るとずしりとした重量が腕に響いた。
「これ、よろしく」
「はい」
 わたしが頷いたのを確認するように頷き返すと、主任はデスクの端に置かれた電源タップに持って返ってきたばかりのノートパソコンのプラグを差し込んだ。上着を脱いで椅子の背に掛け、どかりと音を立てて椅子に座る。自分の世界に入り込んだようなその仕草に、どうやら主任には優先事項があるらしいと気付いてしまう。これの入力は一人でやることになっているらしい。仕方ないなと小さく息をついて席に戻ろうとくるりときびすを返しかけたところで、背後から白井さんと声をかけられた。
「はい?」
 残っている事務がわたし一人だとわかっているのか、申し訳なさそうに軽く目を落としながら主任が言う。
「あの、悪いけど、それは今日中でお願いしたいんだ」
「はい、聞いています」
 ご心配なくと笑顔を見せると、主任はなぜか一瞬言葉に詰まったように止まった。
「……主任?」
 問いかけの視線を向けたわたしになんでもないと小さく首を振って、主任は画面に目を戻した。汗で額に張り付いた髪を指先で梳きながら画面を見つめる横顔は、いかにも仕事ができる男と言った雰囲気で、ちょっとときめいてしまう。

 -つづく-
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あなたは知らない-18
2011年12月20日 (火)
「それでは」
 目をそらすような気分で軽く頭を下げて自席に戻った。
 ――主任って、結構評判いいよね。
 本人に確かめたことはないからはっきりとは知らないけれど、主任はわたしより二つか三つ、あるいは四つくらい歳が上だろう。特別付き合いがないわけでもなければ、特別な付き合いがあるわけでもない。誰とでも雑談に気軽に応じるタイプだし、お酒の席も決して嫌いではないようだから、友人は多いだろう。彼女がいるかどうかは知らないけれど、いたとしても不思議じゃない。わたしだって、課長とのことがなければいいなと素直に思っただろう。
「さぁって、と」
 束になった書類を確認しながらそれでもちらりと顔を上げると、主任は眉をひそめたままネクタイを緩めていた。真剣な目が鋭くディスプレーを睨みつけているのを見て、無意識で溜息をついてしまう。ケースから出した資料を入力順に分類しながらも、ひそかにその仕草を凝視した。
 スーツは男っぷりが三割増しになると言われるけれど、それよりも魅力的なのは、その端正な姿が崩れる瞬間だった。そんな目を向けているのはわたしだけかもしれないけれど、緩んだ衿元やまくり上げた袖口は仕事に没頭してるがゆえの隙のように見える。後ろからそっと近づいて抱きついたら驚くかな、その顔が見たいな、なんて、バカげた衝動が胸の内から湯気のようにふわりと浮いてくる。
 ――この顔で意外と、主任もイジワル系の人だったりして。
 手元の書類を確認しながら、本人が聞けば勝手に人の性癖を決めるなと怒られそうな言葉をつぶやき、これから入力する資料を手元に広げてキーボードを叩き始める。至極まともそうな課長があんな感じだったのだから、男の人の大半にそんな趣向があったとしてもわたしはもう驚かない。
 ――基本的にみんな、拘束と言葉攻めが好きよね。女の子におもちゃを押し当てて眺めるって人もいるらしいし。今朝みたいな、電車でってのも、そう言う人たちには結構普通なのかな? 主任も誰かとそんなことをしてるのかな? 電車の中で後ろから女の子のスカートに手を入れて、『ほら、もう濡れてるよ』とか……。
 普通は男から女へ向ける妄想だろう。口に出せば立派なセクハラだ。訴えられても文句は言えない。少し前までは、そんなことを考えてしまう自分がとんでもなくいやらしい女のように思えて、そのたびに落ち込んだりもしたけれど、性欲を押し殺しても意味がないと課長に教えられてからは、罪悪感に苦しめられることもなくなった。
 それがいいことなのかどうかは正直よくわからなくても、男と同じように、女の身体にも性的快楽を享受するためだけの器官が存在する以上、性行為が人間に許されている営みであることだけは確かだ。

 -つづく-
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あなたは知らない-19
2012年01月13日 (金)
 ――だからって、こういうのもどうかと思うけど。
 自分の妄想に苦笑を漏らしながら書類を時折確認してキーボードを叩く。頭の片隅で課長との行為を思い出しながらもまじめな顔で過ごす毎日に慣れてしまっていることも一因だけれど、よくないとわかっていても、読み取った数字を機械的に打ち込むだけの作業には、いったん始まってしまった淫らな想像を停止させるほどの力はなかった。目の前の数字に反射的に対応する指がカチャカチャとキーを鳴らすのを遠くに感じながら、そっと視線を回してその横顔を盗み見た。
 詳しくは知らないけれど、昔から身体を動かすのが好きで、学生時代には勉強よりスポーツに熱中していたらしいことは聞いていた。なにをやっていたのだろう。野球にサッカー、陸上やバスケットボール、テニス。バドミントンや卓球もかなりの運動量だと聞いたことがある。
 ――だったらきっと、体力も結構なものなんだろうなぁ。
 男の強い力で圧し掛かられると身動きが取れなくなる。重ねた両手首を押さえつけられて抵抗もできないまま、器用に片手だけで外したボタンの隙間から手が入ってくる。ずらされたブラから出てしまった乳首を舌先でくすぐり、強く吸い上げ――。
「わっ、わわわわわっ!」
 何を考えてるんだろう、わたしってば。
 昼間の密会が中途半端に終わってしまったのがいけなかったのか、制服のまま抱き寄せられ脱がされている自分を想像してしまった。
 ヘンな方向へ暴走しかけた思考を修正するような気分で、顔をぷるぷると強く振ってから、両手ではさむように頬をパンと叩いた。心なしか頬が熱を持っていると言う事実にさらに顔を赤らめ、大きく息を吐く。そっと目を上げた視線の先で、眉をひそめ疑問符を浮かべた表情がゆっくりとまばたきをしていた。
「……白井さん? どうかした?」
「あ、いえ。なんでもない、です」
 さっきから見られていたのだろうか。まさか想像を口に出してしまったなんてとんでもない失敗だけはしていないはずとドキドキしながら答えたわたしに、主任は息を吐くようにふっと笑った。
「それなら、いいけど」
 この顔を事務職の同僚――特に成美ちゃんが見たら、なんてステキと指を組んで目をハートにするだろうなと頭の片隅でぼんやり考えながら、キーボードに手を置き直す。入力の終わった資料をまとめて机の隅に避け、壁の時計を見上げる。手元に戻そうとした視界の隅で主任が椅子から立ち上がったのが見えた。

 -つづく-
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あなたは知らない-20
2012年01月19日 (木)
「主任?」
 声が聞こえたのか、ひじの近くまで袖をめくり上げた両腕をデスクについて、肩凝りを振り払うように軽く頭を左右に振っていた主任がこちらを向いた。わたしの視線を確かめて、わずかに眉をひそめた厳しい表情がふっと緩む。ほっと息をついたようなその変化がなぜか心にズキっと響いた。
「お疲れですか? お茶でも淹れましょうか」
「あぁ……。頼むよ、ありがとう。じゃあちょっと、手を洗ってくる」
 溜息混じりの笑顔に、成美ちゃんじゃないけれど本当にステキだなと考えてしまう。
「はい、行ってらっしゃい」
 思わず笑顔で頷き返してから急いで席を立ち、電気ポットの残量を確かめた。定時で帰った二人が切ったのか、電源はコンセントから抜け落ちて丸まっていたけれど、惰性で保温されていたお湯は緑茶に使うのにはちょうどいい温度だった。
「今日だけね、ちょっとだけ」
 口の中で呟きながら、折り返したパックの口を洗濯バサミで止めたスーパーのお買い得品ではなく、千代紙を何枚も張り合わせたようなデザインの茶筒に手を伸ばした。ぽふんと音を立てて中蓋を開けると、普段見るのとは質の違う、コルネットのように上品に丸められた茶葉が慎ましやかに顔を出した。
「でも、主任だって、あんなに頑張ってんだし」
 ドアを抜ける疲れた後ろ姿を思い出しながら急須に茶葉を振り落とした。来客専用なのは百も承知だが、幸いここにはわたし以外の人はおらず、当然この行為を見咎める人もいない。飲ませてしまえば主任も共犯だ。主任の湯飲みと、ずうずうしくも自分用のマグカップを用意しているうちに、ぎぎっと軋むような音が鳴った。ノブを戻してドアを閉めると、濃い紺色に白と赤のラインの入ったスポーティなデザインのタオルハンカチをズボンのポケットに押し込みながら主任がこちらを向いた。
「あ、お帰りなさい。お茶入りましたから」
 ゆっくり急須を傾けると、注ぎ口が表面張力でいったんぷくっと膨れてから、耐え切れなくなったようにとろりと流れ出た。薄い緑の液体が白磁の湯飲みの底にわずかな澱みを作りながら優しい香りの沼になる。七分ほどで手を止め、いつのまにかすぐそばにいた主任に差し出した。
「どうぞ、主任」
 受け渡しの際に主任の冷たい指先が当たって、それにドキリと胸が鳴る。高校生じゃあるまいしここで手を引いたらイヤがってるみたいで失礼でしょと、ドキドキする心臓に言い聞かせてさわられるままじっと動かない。
「ありがとう」
 笑顔に頷き返して、残った分を自分のマグカップに注いだ。両手でくるんだマグに口をつけるふりで、湯飲みを鷲づかみにしてかなり男らしくお茶を飲む横顔をそっと目だけを上げて見た。視線に気づいたのか、主任の目がわたしに向けられた。一瞬お互い見つめ合って、そしてほぼ同時に声に出さずに小さく笑う。

 -つづく-
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