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2007年11月10日 (土)
「どーぞ」
あたしが頷くと、先生は目を伏せるようにしてタバコの先に火を点けた。
ホントはタバコはちょっと苦手なんだけど、でももう口に咥えちゃってるのにダメって言うのも可哀想だし、それにこれは藤本先生の車だし、乗せてもらっているだけのあたしにホントは選択権なんてないんだと思う。それでも一応は訊いてくれるのは、先生が優しいからなんだろう。
「あのな、芝口。今日のことだけどな」
「はい」
真正面を向いたまま、先生はふうっと大きく煙を吐き出した。
「これは俺たちの勝手な言い草だとは思うんだが。一応、その、できればこのことは誰にも――」
「あ、はい。絶対誰にも言いません」
もし言ったとしたって、誰にも信じてもらえないに決まってる。だって、相手は佐上先生だもの。あたしと佐上先生なんて、ありえないもの。今だって、あれは夢だったんじゃないかって、自分でも思っちゃうくらいだし。
「あ、そ、そっか。それはその……助かる」
いっぱい並んだ計器類のあいだから灰皿を引き出して、そこに長くなりかけた灰を落としながら、藤元先生は小刻みに何度も頷いた。ほっとしたようにちょっとだけ笑って、でもすぐに眉をひそめる。
「けど、その、芝口は初めてだったんだろ。それでいいのか?」
いいも何も。
「だって、仕方ないでしょ。もうやっちゃったんだし」
でも、もしも時間が戻せたとしても、あたしは何度でもあの場に踏み込んじゃうと思う。襲われるように先生に抱かれて、逃げようとしないと思う。
だって、好きだったんだもん。ずっと好きだったんだもん。抱かれたいって思ってた。何回も想像した。実際の佐上先生は思っていたような人じゃなかったけど、ひどい人だったけど、それでも。
「そうか、そうだな」
「でも、あしたっから、さー」
呟くような藤元先生の言葉を遮るようにそう言って、身を乗り出してハンドルを握る横顔を覗き込む。先生は目だけであたしを見て、そして左側の眉をきゅっと吊り上げた。
-つづく-
あたしが頷くと、先生は目を伏せるようにしてタバコの先に火を点けた。
ホントはタバコはちょっと苦手なんだけど、でももう口に咥えちゃってるのにダメって言うのも可哀想だし、それにこれは藤本先生の車だし、乗せてもらっているだけのあたしにホントは選択権なんてないんだと思う。それでも一応は訊いてくれるのは、先生が優しいからなんだろう。
「あのな、芝口。今日のことだけどな」
「はい」
真正面を向いたまま、先生はふうっと大きく煙を吐き出した。
「これは俺たちの勝手な言い草だとは思うんだが。一応、その、できればこのことは誰にも――」
「あ、はい。絶対誰にも言いません」
もし言ったとしたって、誰にも信じてもらえないに決まってる。だって、相手は佐上先生だもの。あたしと佐上先生なんて、ありえないもの。今だって、あれは夢だったんじゃないかって、自分でも思っちゃうくらいだし。
「あ、そ、そっか。それはその……助かる」
いっぱい並んだ計器類のあいだから灰皿を引き出して、そこに長くなりかけた灰を落としながら、藤元先生は小刻みに何度も頷いた。ほっとしたようにちょっとだけ笑って、でもすぐに眉をひそめる。
「けど、その、芝口は初めてだったんだろ。それでいいのか?」
いいも何も。
「だって、仕方ないでしょ。もうやっちゃったんだし」
でも、もしも時間が戻せたとしても、あたしは何度でもあの場に踏み込んじゃうと思う。襲われるように先生に抱かれて、逃げようとしないと思う。
だって、好きだったんだもん。ずっと好きだったんだもん。抱かれたいって思ってた。何回も想像した。実際の佐上先生は思っていたような人じゃなかったけど、ひどい人だったけど、それでも。
「そうか、そうだな」
「でも、あしたっから、さー」
呟くような藤元先生の言葉を遮るようにそう言って、身を乗り出してハンドルを握る横顔を覗き込む。先生は目だけであたしを見て、そして左側の眉をきゅっと吊り上げた。
-つづく-
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