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2007年11月09日 (金)
あたしの身支度が終わるのと藤元先生が小さくなったベッドを棚に戻すのとは、ほとんど同じくらいだったと思う。電車で帰るから別にいいと言うあたしの鞄を半ば奪い取るように持って先生専用の駐車場へ歩いて行く後ろ姿を追うと、先生は一台の軽自動車の前で立ち止まった。
「ええええっ? これぇっ?」
丸っこいラインと淡いエメラルドグリーンの小さな車は、藤元先生のイメージとは程遠かった。あからさまに体育会系なジャージ姿とあまりにも可愛すぎる車を見比べてしまう。
どう見てもこれは違うでしょ。もっとゴツい車に乗ってるべきでしょ。
「そう、これ。乗れ」
短くそれだけを言うと、先生はあたしの鞄を持ったまま、自分だけさっさと車に乗り込んだ。仕方なく助手席に回りドアを開ける。
あ、ドアの取っ手も丸っこい。
「早く乗れ」
いつもより素っ気ない言葉と態度は『なんでこんな可愛い車にしたの?』とか訊いても応えてくれそうな雰囲気じゃない。仕方なく黙って乗り込むと、シートベルトを締める間もなく車は動き出した。見飽きた校門を抜けて、普段は駅へと向かう道を反対側に曲がって走り出す。
「あれ、こっち?」
「ああ。芝口の家は森跡の近くだろ、こっちが抜け道になるんだ」
「へえー」
昔は権勢を誇っていた殿さまが、遊び用に作った森を切り開いて作った新興住宅地を地元の人たちは『森跡』と呼ぶ。正式には『お城森跡』らしいけど、パパの突然の転勤で、高校受験直前というきわどい時期に引っ越してきたあたしには全然関係のない話。今も、マンションの周囲くらいは知っているけど、道一本外れるとどこへ行ってしまうのかわからないくらいだもの。
「先生って、地元の人?」
「ああ。大学は東京だったんだけどな。タバコ、いいか?」
言いながら先生は器用に片手で、半分ぺったんこになりかけたタバコのパッケージから一本を取り出した。下唇を突き出すようにして咥えてあたしをちらりと見た。
-つづく-
「ええええっ? これぇっ?」
丸っこいラインと淡いエメラルドグリーンの小さな車は、藤元先生のイメージとは程遠かった。あからさまに体育会系なジャージ姿とあまりにも可愛すぎる車を見比べてしまう。
どう見てもこれは違うでしょ。もっとゴツい車に乗ってるべきでしょ。
「そう、これ。乗れ」
短くそれだけを言うと、先生はあたしの鞄を持ったまま、自分だけさっさと車に乗り込んだ。仕方なく助手席に回りドアを開ける。
あ、ドアの取っ手も丸っこい。
「早く乗れ」
いつもより素っ気ない言葉と態度は『なんでこんな可愛い車にしたの?』とか訊いても応えてくれそうな雰囲気じゃない。仕方なく黙って乗り込むと、シートベルトを締める間もなく車は動き出した。見飽きた校門を抜けて、普段は駅へと向かう道を反対側に曲がって走り出す。
「あれ、こっち?」
「ああ。芝口の家は森跡の近くだろ、こっちが抜け道になるんだ」
「へえー」
昔は権勢を誇っていた殿さまが、遊び用に作った森を切り開いて作った新興住宅地を地元の人たちは『森跡』と呼ぶ。正式には『お城森跡』らしいけど、パパの突然の転勤で、高校受験直前というきわどい時期に引っ越してきたあたしには全然関係のない話。今も、マンションの周囲くらいは知っているけど、道一本外れるとどこへ行ってしまうのかわからないくらいだもの。
「先生って、地元の人?」
「ああ。大学は東京だったんだけどな。タバコ、いいか?」
言いながら先生は器用に片手で、半分ぺったんこになりかけたタバコのパッケージから一本を取り出した。下唇を突き出すようにして咥えてあたしをちらりと見た。
-つづく-
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