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2006年08月11日 (金)
「ええと、あの、美雪さん。これ」
わたしの身支度が終わったのを見計らったようなタイミングで、彼は背を向けたまま後ろ手に何かを差し出してきた。見慣れたサイズの白い小さな紙片を彼の指のあいだからそっと抜き取る。
そこには、知らない名前と数字とアルファベットが並んでいた。下の二行は多分、電話番号とメールアドレス。でも、この名前って。
「佐藤鎮夫って……? え、シズくん?」
思わず声を上げると、彼は背中越しにくすりと笑った。
「そ。俺のフルネーム。ダサい名前でしょ」
「ええっと、そんなことないけど。わたしも苗字は小林だし、フツーだよ。あんまり変わんないよ」
彼はいつもみんなに『シズ』と呼ばれていたから、わたしもそう呼んでいた。たまたま見た彼のサインは『SIZZ』だったし、店員さんでそういう通り名の人は多かったから、なんとなくそれで納得していて、本名はなんだろうとか考えたこともなかった。
だからなのかな、びっくりした。確かに……ちょっとイメージとは違う、かも。
「いいのいいの、慰めてくれなくっても。自分でわかってるから」
ふざけたように軽く笑うと、彼はいったん言葉を切って、そして咳ばらいをした。やわらかく緩んでいた口調が真面目な色を帯びる。
「ええと、それ、受け取ってもらえますか?」
言われて名刺に視線を落とした。
そりゃ受け取るくらい……いいけど。
「本当は美雪さんの電話番号とか教えて欲しいけど、でもイヤでしょ? だからせめて、俺の番号知っててください」
えっと、それって?
「ずっと待ってます。絶対にいつかまた、来てください」
えーっと……。
「いきなりこんなこと仕掛けてごめんなさい。でも俺は本気なんです。ええと、その」
口ごもるように二秒だけ彼は黙って、そして――。
「美雪さんが、好き、なんです」
見つめていた広い背中が揺れた、ような気がした。
-つづく-
わたしの身支度が終わったのを見計らったようなタイミングで、彼は背を向けたまま後ろ手に何かを差し出してきた。見慣れたサイズの白い小さな紙片を彼の指のあいだからそっと抜き取る。
そこには、知らない名前と数字とアルファベットが並んでいた。下の二行は多分、電話番号とメールアドレス。でも、この名前って。
「佐藤鎮夫って……? え、シズくん?」
思わず声を上げると、彼は背中越しにくすりと笑った。
「そ。俺のフルネーム。ダサい名前でしょ」
「ええっと、そんなことないけど。わたしも苗字は小林だし、フツーだよ。あんまり変わんないよ」
彼はいつもみんなに『シズ』と呼ばれていたから、わたしもそう呼んでいた。たまたま見た彼のサインは『SIZZ』だったし、店員さんでそういう通り名の人は多かったから、なんとなくそれで納得していて、本名はなんだろうとか考えたこともなかった。
だからなのかな、びっくりした。確かに……ちょっとイメージとは違う、かも。
「いいのいいの、慰めてくれなくっても。自分でわかってるから」
ふざけたように軽く笑うと、彼はいったん言葉を切って、そして咳ばらいをした。やわらかく緩んでいた口調が真面目な色を帯びる。
「ええと、それ、受け取ってもらえますか?」
言われて名刺に視線を落とした。
そりゃ受け取るくらい……いいけど。
「本当は美雪さんの電話番号とか教えて欲しいけど、でもイヤでしょ? だからせめて、俺の番号知っててください」
えっと、それって?
「ずっと待ってます。絶対にいつかまた、来てください」
えーっと……。
「いきなりこんなこと仕掛けてごめんなさい。でも俺は本気なんです。ええと、その」
口ごもるように二秒だけ彼は黙って、そして――。
「美雪さんが、好き、なんです」
見つめていた広い背中が揺れた、ような気がした。
-つづく-
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