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2006年06月06日 (火)
「なんか……ホントに疲れた」
司さんと別れてすぐ、あたしはアパートの二階の自分の家の前にいた。ぶつぶつ呟きながら鍵を取り出そうと鞄の中を引っ掻き回して、ようやく取り出したそれを片手にドアノブに近づけたとき。
「千紗ちゃん」
低く抑えられた声に振り返ると、人影がそこに一つあった。申し訳程度に廊下を照らす蛍光灯のせいで腰から下くらいしか見えないけれど、スーツとビジネスシューズと、なによりその声が誰だかを教えてくれる。
「どうしたの、司さん」
あたし、車の中に忘れ物でもしたかな?
内心でそんなことを考えながらあたしはドアノブから手を放した。二歩ほど近寄って、高いところにある顔を見上げようとした。優しい司さんの声が返ってくると思ってたし、それ以外のことなんて全く何も考えてなくて、だから普通に笑いかけた。
「――やっぱり、あいつと一緒だったのか」
「え?」
ワケのわからない言葉に薄闇に目を凝らすと、その人はメガネをかけてなかった。髪が短かった。タバコじゃなくて、ふんわりと爽やかなオレンジのにおいがした。
まさか……。
「ユーキさんっ?」
本当に、本当のユーキさん? なんでここにいるの? こないだまで逢わないって言ってたのに、どうして急に……。まさか、お嬢さまとの婚約解消がうまく行ったとか? もしかして葵さんが味方してくれたのかな?
自分にとって都合のいいことばっかり考えながら、あたしは彼に駆け寄ろうとした。今すぐ抱きついて、抱きしめて欲しかった。その胸でオレンジのにおいで、今日のことを全部忘れてしまいたかった。
「司の野郎と、今まで一緒にいたのか」
でも返ってきた言葉は、あたしが想像したような優しさは全然含まれてなくって。
「ユーキ……さん?」
その暗いまなざしに射すくめられたように足が動かなくなった。あたしを睨みつける、今まで見たこともない鋭い目に、呼吸さえ忘れてしまう。
こつり。
靴のかかとが鳴った音が、古いアパートの廊下に響いた。
「一緒だったんだな」
ゆっくりと伸びてきた手が、あたしの手首をつかんだ。
-つづく-
司さんと別れてすぐ、あたしはアパートの二階の自分の家の前にいた。ぶつぶつ呟きながら鍵を取り出そうと鞄の中を引っ掻き回して、ようやく取り出したそれを片手にドアノブに近づけたとき。
「千紗ちゃん」
低く抑えられた声に振り返ると、人影がそこに一つあった。申し訳程度に廊下を照らす蛍光灯のせいで腰から下くらいしか見えないけれど、スーツとビジネスシューズと、なによりその声が誰だかを教えてくれる。
「どうしたの、司さん」
あたし、車の中に忘れ物でもしたかな?
内心でそんなことを考えながらあたしはドアノブから手を放した。二歩ほど近寄って、高いところにある顔を見上げようとした。優しい司さんの声が返ってくると思ってたし、それ以外のことなんて全く何も考えてなくて、だから普通に笑いかけた。
「――やっぱり、あいつと一緒だったのか」
「え?」
ワケのわからない言葉に薄闇に目を凝らすと、その人はメガネをかけてなかった。髪が短かった。タバコじゃなくて、ふんわりと爽やかなオレンジのにおいがした。
まさか……。
「ユーキさんっ?」
本当に、本当のユーキさん? なんでここにいるの? こないだまで逢わないって言ってたのに、どうして急に……。まさか、お嬢さまとの婚約解消がうまく行ったとか? もしかして葵さんが味方してくれたのかな?
自分にとって都合のいいことばっかり考えながら、あたしは彼に駆け寄ろうとした。今すぐ抱きついて、抱きしめて欲しかった。その胸でオレンジのにおいで、今日のことを全部忘れてしまいたかった。
「司の野郎と、今まで一緒にいたのか」
でも返ってきた言葉は、あたしが想像したような優しさは全然含まれてなくって。
「ユーキ……さん?」
その暗いまなざしに射すくめられたように足が動かなくなった。あたしを睨みつける、今まで見たこともない鋭い目に、呼吸さえ忘れてしまう。
こつり。
靴のかかとが鳴った音が、古いアパートの廊下に響いた。
「一緒だったんだな」
ゆっくりと伸びてきた手が、あたしの手首をつかんだ。
-つづく-
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