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2006年06月04日 (日)
ぽかんとバカみたいに口を開けたままのあたしを見て、司さんはおかしそうに笑う。でもあたしは司さんの言ってることがわからなくて、だから簡単な疑問の言葉を返す。
「なにが?」
「いや、なにがじゃなくって」
司さんが苦笑しながらハンドブレーキを引いた。窓越しに周囲を見渡すと、暗闇を透かして見慣れた古いアパートがあった。
そっか。いつのまにか、もう家に着いてたんだ。全然気がつかなかった。内心でそう考えながらシートベルトを外す。足元の鞄を持ち上げてひざに置くと、司さんの手が伸びてきた。
「ちょっと。俺の話、聞いてる?」
「え、いやその……」
思ったよりもすぐ近くにあった笑みを含んだ目と、鞄の上から強く押さえる手に、立ち上がれなくなる。計器類のパネルの灯りで照らし出されて、煙が唇のあいだからゆらゆら昇って行くのが見えた。メガネ越しの細まったまなざしの、微妙な表情の意味はわからない、けど。
「だからさ。和真じゃなくって俺にしないかって。自分で言うのもなんだけど、俺、こう見えてもそこそこ優しいよ。今はフリーだし」
「え、ちょっと、ええっ?」
なにがなんだか、わかんない。
俺にしないかってどういう意味? いや、なんとなくわかるんだけど、でもどうして司さんがそんなこと言うのよ。
だってユーキさんと司さんって兄弟でしょ。そしてあたしはユーキさんとその……一応そういう関係だって、司さんも知ってるんでしょ。なのに、なんで? なんでそんなこと言い出すの?
パニックに陥ったあたしを見て、司さんは小さく声を立てて笑った。
鞄から手を放すとゆっくり運転席に身体を戻して、どさりと音を立ててシートにもたれた。タバコの煙を吹き上げる、どこか投げやりな表情がちょっと気にかかる。
-つづく-
「なにが?」
「いや、なにがじゃなくって」
司さんが苦笑しながらハンドブレーキを引いた。窓越しに周囲を見渡すと、暗闇を透かして見慣れた古いアパートがあった。
そっか。いつのまにか、もう家に着いてたんだ。全然気がつかなかった。内心でそう考えながらシートベルトを外す。足元の鞄を持ち上げてひざに置くと、司さんの手が伸びてきた。
「ちょっと。俺の話、聞いてる?」
「え、いやその……」
思ったよりもすぐ近くにあった笑みを含んだ目と、鞄の上から強く押さえる手に、立ち上がれなくなる。計器類のパネルの灯りで照らし出されて、煙が唇のあいだからゆらゆら昇って行くのが見えた。メガネ越しの細まったまなざしの、微妙な表情の意味はわからない、けど。
「だからさ。和真じゃなくって俺にしないかって。自分で言うのもなんだけど、俺、こう見えてもそこそこ優しいよ。今はフリーだし」
「え、ちょっと、ええっ?」
なにがなんだか、わかんない。
俺にしないかってどういう意味? いや、なんとなくわかるんだけど、でもどうして司さんがそんなこと言うのよ。
だってユーキさんと司さんって兄弟でしょ。そしてあたしはユーキさんとその……一応そういう関係だって、司さんも知ってるんでしょ。なのに、なんで? なんでそんなこと言い出すの?
パニックに陥ったあたしを見て、司さんは小さく声を立てて笑った。
鞄から手を放すとゆっくり運転席に身体を戻して、どさりと音を立ててシートにもたれた。タバコの煙を吹き上げる、どこか投げやりな表情がちょっと気にかかる。
-つづく-
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