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2006年05月30日 (火)
「もうあんなことはしないから、また会ってね」
マイウェイに微笑むと、ドレスのすそを返して葵さんは部屋から出て行った。さっきのことが嘘みたいな優雅な足取りで、本当に嘘だったんじゃないかと思うくらいの堂々とした後ろ姿で。
ユーキさんのお姉さんもお兄さんも、どこかユーキさんに似ていて、困る。
――恨めないじゃない。
心の中でちいさく呟いて、そしてあたしはほっと息を吐いた。
「もう送るよ。遅くなってしまうから」
どこか遠慮がちなその声に振り向くと、司さんは部屋の隅に置きっぱなしだったあたしの鞄を左手に、車の鍵を右手に、少し困ったような目で立っていた。すらっとしたスーツ姿で学生鞄を持っている様子は、ちょっと違和感で可愛い。
「お母さんが先に帰っちゃってたらまずいでしょ」
「え、あ……うん」
ママは今日は多分徹夜になると思うって言ってたから、帰ってこないだろうけど。でもあたしはそれは言わずに、ただ頷いた。
「あー、疲れたぁ」
助手席の背もたれを倒して、手足を伸ばして寝そべる。全体重をソファに近いような座席に預けて眼を閉じる。かすかに聞こえるエンジンの音がなぜか心地よくて、すぐにも眠れそうなくらいで、あたしは慌ててまぶたを引き上げた。
司さんは多分そういうことはしてこないだろうとは思うけど、それでもこんな状況で寝ちゃうなんて、あまりにも無防備すぎる。葵さんにあんなに簡単にクスリを飲まされちゃったのだって、あたしに警戒心がないからだろうと思うし。これからはもうちょっと用心深く行動しなきゃ。
ぷっと強く息を吐いて顔を上げると、運転中だから真正面を見ているはずの司さんとなぜか目が合った。
「なぁに?」
「ん、ああ……。いや、なんでもない。タバコ吸っていい?」
「どーぞ」
軽く頷くと、司さんは頷き返してきた。
咥えたタバコに火を点ける横顔、白い煙を吐き出す唇、前髪を掻き上げる指先、遠くを見ている目。
-つづく-
マイウェイに微笑むと、ドレスのすそを返して葵さんは部屋から出て行った。さっきのことが嘘みたいな優雅な足取りで、本当に嘘だったんじゃないかと思うくらいの堂々とした後ろ姿で。
ユーキさんのお姉さんもお兄さんも、どこかユーキさんに似ていて、困る。
――恨めないじゃない。
心の中でちいさく呟いて、そしてあたしはほっと息を吐いた。
「もう送るよ。遅くなってしまうから」
どこか遠慮がちなその声に振り向くと、司さんは部屋の隅に置きっぱなしだったあたしの鞄を左手に、車の鍵を右手に、少し困ったような目で立っていた。すらっとしたスーツ姿で学生鞄を持っている様子は、ちょっと違和感で可愛い。
「お母さんが先に帰っちゃってたらまずいでしょ」
「え、あ……うん」
ママは今日は多分徹夜になると思うって言ってたから、帰ってこないだろうけど。でもあたしはそれは言わずに、ただ頷いた。
「あー、疲れたぁ」
助手席の背もたれを倒して、手足を伸ばして寝そべる。全体重をソファに近いような座席に預けて眼を閉じる。かすかに聞こえるエンジンの音がなぜか心地よくて、すぐにも眠れそうなくらいで、あたしは慌ててまぶたを引き上げた。
司さんは多分そういうことはしてこないだろうとは思うけど、それでもこんな状況で寝ちゃうなんて、あまりにも無防備すぎる。葵さんにあんなに簡単にクスリを飲まされちゃったのだって、あたしに警戒心がないからだろうと思うし。これからはもうちょっと用心深く行動しなきゃ。
ぷっと強く息を吐いて顔を上げると、運転中だから真正面を見ているはずの司さんとなぜか目が合った。
「なぁに?」
「ん、ああ……。いや、なんでもない。タバコ吸っていい?」
「どーぞ」
軽く頷くと、司さんは頷き返してきた。
咥えたタバコに火を点ける横顔、白い煙を吐き出す唇、前髪を掻き上げる指先、遠くを見ている目。
-つづく-
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