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2006年05月10日 (水)
「まあ、別に結論なんて急がなくてもいいんだけどさ。少し立ち止まって考えたほうがいいよ、ってこと。俺が言いたいのはね」
眼を閉じてれば、その心地いい優しい声はユーキさんかと思うくらいだから、あたしは顔を上げて彼を見た。もしゃもしゃになって視界を覆う髪のあいだから透けてるその横顔は、眉を隠す長い前髪が銀色のメガネがタバコを吸う唇が、ユーキさんじゃないってはっきり教えてくれる。
「どこ、連れて行くつもり?」
「ん、ああ、もうすぐ着くよ」
いきなり話を変えても彼は動じたりしない。正面を見て運転したまま、なんでもないように答えを返してくれる。それはなんとなくわかっていた。だって、ユーキさんもそうだから。
「そこの角を曲がってすぐ」
言いながら彼は咥えていたタバコを指に取った。
タバコを吸う男の人はセクシーに見えるって、誰だったかが言っていた。でもあたしはタバコのにおいが苦手だったから、そのときは否定したような気がするけど、でも今はちょっとそういうのわかるような気がする。だって、長くなった灰を灰皿に落とすために軽く弾く指の動きは、とてもきれいだもの。
――あたしはいったい、何を考えてるの?
方向指示器のカチカチいう音と、ちょっとだけ感じる横向きの重力。ゆっくりスピードを落としながら車が曲がって、ネオンサインが踊る黒い高い壁が目の前に現れた。
このビルの中のどこかに、あたしに会いたいって言う人がいるんだろう。その人はユーキさんじゃないけどユーキさんの関係者で、そして多分、この人と……司さんとそれなりに親しい人。
「さあ、着いた」
天井の低いビル地下の駐車場に車を停めると、彼はタバコを消してからサイドブレーキを引いた。あたしを見て、にっこり笑いながら腕を伸ばしてくる。
「髪、直そうか。千紗ちゃん」
彼の手を避けるように上半身をひねって、それ以上近寄らないでと目で訴える。彼は曖昧な笑みを浮かべたまま、ちょっとだけ頷いた。視線を外すように顔を伏せて急いで髪を整えて、その場の雰囲気から逃げるようにあたしはドアを開けた。
-つづく-
眼を閉じてれば、その心地いい優しい声はユーキさんかと思うくらいだから、あたしは顔を上げて彼を見た。もしゃもしゃになって視界を覆う髪のあいだから透けてるその横顔は、眉を隠す長い前髪が銀色のメガネがタバコを吸う唇が、ユーキさんじゃないってはっきり教えてくれる。
「どこ、連れて行くつもり?」
「ん、ああ、もうすぐ着くよ」
いきなり話を変えても彼は動じたりしない。正面を見て運転したまま、なんでもないように答えを返してくれる。それはなんとなくわかっていた。だって、ユーキさんもそうだから。
「そこの角を曲がってすぐ」
言いながら彼は咥えていたタバコを指に取った。
タバコを吸う男の人はセクシーに見えるって、誰だったかが言っていた。でもあたしはタバコのにおいが苦手だったから、そのときは否定したような気がするけど、でも今はちょっとそういうのわかるような気がする。だって、長くなった灰を灰皿に落とすために軽く弾く指の動きは、とてもきれいだもの。
――あたしはいったい、何を考えてるの?
方向指示器のカチカチいう音と、ちょっとだけ感じる横向きの重力。ゆっくりスピードを落としながら車が曲がって、ネオンサインが踊る黒い高い壁が目の前に現れた。
このビルの中のどこかに、あたしに会いたいって言う人がいるんだろう。その人はユーキさんじゃないけどユーキさんの関係者で、そして多分、この人と……司さんとそれなりに親しい人。
「さあ、着いた」
天井の低いビル地下の駐車場に車を停めると、彼はタバコを消してからサイドブレーキを引いた。あたしを見て、にっこり笑いながら腕を伸ばしてくる。
「髪、直そうか。千紗ちゃん」
彼の手を避けるように上半身をひねって、それ以上近寄らないでと目で訴える。彼は曖昧な笑みを浮かべたまま、ちょっとだけ頷いた。視線を外すように顔を伏せて急いで髪を整えて、その場の雰囲気から逃げるようにあたしはドアを開けた。
-つづく-
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