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R18 らぶえっち小説Blog
えっちな表現が盛りだくさんにつき、18歳未満&清純派さん回れ右!
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この指を伸ばす先-119
2011年04月04日 (月)
「では、これで失礼致します。本日はありがとうございました」
 深く一礼し、ドアをゆっくりと閉める。かちゃりと鳴った音に息を吐きたくなるのをぐっと飲み込んで高瀬は頭を上げた。右手に握っていた、渡されたばかりの辞令書を開いて文字を辿った。もうすでに五回ほども読み返した文章は、しかし何度読んでも腑に落ちなかった。理解できない。納得がいかない。これ以外の辞令ならば、それがたとえ懲戒解雇であったとしてもそう言うことかとすんなり飲み込めただろう。
 ただのお坊ちゃまじゃないってことか。
 きびすを返すと、高瀬は重くなった足をエレベーターホールへと向けた。目をつぶれば今すぐに眠りに落ちることができそうなほどの疲労は、精神的なものと肉体的なものが半々だろう。いや、もしかしたら精神的なものが大半を占めているかもしれない。女との三戦より疲れるとは恐れ入る。
 ――それでもなんとか生き残った、ってとこかな。
 元部下の眠る部屋へ戻りたいとの不謹慎な考えもちらつかなくはないが、残念ながら再度部屋へ踏み込むための正当な理由は見つからない。ここはおとなしく白旗を掲げたままにするのが正解だろうと、埒もない事を考えながら左手首に目を落とした。時計の針は十時を少し回った辺りを静かに指していた。あの部屋で三時間以上もやり合っていたのかと、高瀬は眉をひそめて深く嘆息した。よく耐えたと自分を褒めたい気もするが、それよりもう二度とあんな雰囲気はご免だとの思いが強い。ようやくの自由によろよろとフロアを出て申し訳程度に開いた自動ドアを抜け、重い腕を上げてエレベータの呼び出しボタンを押してから高瀬は痛みさえ感じるほどに凝った肩を少しでも和らげようと首をぐるっと回した。
 全てを見透かすかのような人の悪い笑みを浮かべたまま高瀬の嘘に頷く執行役員と、それとは対照的に、慇懃な態度を崩さないまま虚偽の報告の細部を何度も確認してくる物静かな巨漢を相手にしていると、神経が擦り切れてなくなってしまうのではないかとさえ思えた。何度も訊き返され言質を取られるのも不快だが、嘘だとわかっていながら笑顔を見せてくる様子も恐ろしい。
 それにしても。
 やってきたエレベーターに乗り込んでボタンを押してから、高瀬は握ったままの辞令書をちらりと見やった。さすがに一言一句とまではいかないが、その文章は覚えていた。普通ならばこのような辞令は絶対に出ないと言い切ってもいいほどの内容に、開いた口が塞がらなかった。いったい誰がこのような事を考え付くのか、そして上からのオッケーが出るのか、出させる事ができるのか。裏の裏を読もうとすればするほど、寒気に近い感覚が肌を薄く舐めて行くようだった。
 巨漢の口ぶりでは、首謀者たる課長は退職金と企業年金との相殺で、背任と業務上横領罪での告訴だけはなんとか免れたようだった。それに比べれば、主任降下で済んだのは幸いとも言える。社内処分で済めば外には漏れない。不景気の底も見えないこのご時世、懲戒解雇された者に再就職先などある訳もない。
『じゃあそう言うことで。明日から改めて、よろしく』
 楽しげにクスクスと笑いながら右手を差し出してくる執行役員を思い出し、高瀬はもう一度深く嘆息した。

 -つづく-
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