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R18 らぶえっち小説Blog
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メメント・アモル-3
2011年01月10日 (月)
「着いたよ、まゆ」
「あ、はい」
 車から降りたヒロ兄ちゃんは、入院中のあたしの荷物が入った大きなボストンバッグを後部座席から引きずり出して軽々と持ち上げると、ドアロックをしてからくるりと振り返った。どうしていいかわからず立ち尽くすあたしの手を当たり前のように握る。一瞬固まったあたしのことは気にせず、ヒロ兄ちゃんはマンションの駐車場の床に黄色のラインで描かれた横断歩道のミニチュアの上をすたすたと歩き出した。
「ほら、こっち」
 軽く腕を引っ張られて、慌ててその背中を追った。横に並んだあたしを見て、ヒロ兄ちゃんがくすっと笑う。反射的に笑い返してから前を見るふりでそっと視線を外した。
 ――なんか、ウソみたい。
 普通にスーツを着てネクタイを締めたヒロ兄ちゃん。走るのに邪魔だからって理由で短くしていた髪が全体的に長くなって、授業中だけは必要だって話に聞いていたメガネをずっとかけてるから印象がずいぶん違う。すごくおとなっぽくてカッコイイってしみじみ思っちゃう。
 ――それに比べて、あたしったら……。
 鏡を覗き込んだときの、全然変わってない自分にがっかりしたあの瞬間を思い出すと足の力が抜けそう。実際そのときは、あまりの落胆にヘナヘナと床に座り込んでしまったくらいだし。それを勘違いしたお母さんがムダに騒ぎ立てて、助手さんや看護士さんがわらわらと入ってきて心電図だ脳波だと上の下への大騒ぎになって。本当のことを知ったみんなの溜息にあたしは立つ瀬もなかった。まぁ、お母さんの性格がまったく変わってないのには、逆にちょっと安心したけど。
「さぁ、まゆ。おいで」
 駐車場から入る荷物搬入用みたいなやたらと大きなドアを抜けて、シャンデリアの飾られた天井の高いムダにゴージャスなエントランスを通って、それに比べるとちょっと小さめのエレベーターに乗って、五階の十五号室。あたしとヒロ兄ちゃんの『新居』だと言う部屋は、日当たりのいい広いリビングと憧れのカウンターキッチンがあった。
「わー、うわーっ!」
 天井から床までの大きな窓と、薄いピンクのミニバラがツタに絡まったように縦に細く伸びるデザインの、レースの白いカーテン。丸い可愛いカフェテーブルと、おそろいの椅子。オレンジのカウチソファーに、トイプードルの毛みたいなふわふわのアイボリーのラグマット。壁に並んだスチールと白木のオープンラック……。
「か、かわいーっ!」
 うそ、なにこれっ! かわいいかわいい、超かわいいっ!
「だろ? これ全部、まゆが選んだんだよ」
 ボストンバッグを床に置くと、ヒロ兄ちゃんはオープンラックに並んでいた写真立てからひとつだけ手に取った。
「ほら見てごらん、まゆ」
 映っていたのは、真っ白のドレスを着て笑うあたし。

 -つづく-
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