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2010年12月02日 (木)
「おまえさぁ、話、聞いたか?」
奇妙な沈黙の間を置いて、ページをゆっくりめくりながら先生がそう言った。
「なにを?」
「そっか、やっぱ知らねーか」
唐突に自分から言い出しておいてひとりで納得したように頷くけど、その言い方じゃ、もし聞いてたとしてもどの話なんだか全然検討つかないんですけど。
「あのな、仁がな。学校、辞めるってよ」
「え……」
漏れたのは、ほとんど意味のない音だった。あたしが絶句したのを確認するように、先生がゆっくりと顔を上げる。横目であたしを見て、そしてなにも言わずにまた本へ視線を戻した。
「それって……どういう意味?」
「どうって、まんまだろ」
興味なさそうに言いながら本を読んでるふりをしながら、先生はあたしを見ている。あたしがどんな顔をしてるのか観察してる。それはわかっていたけど。
辞めるって、教師を辞めるってこと? それとも学校を変わるってこと? だったらなんで?
――まさか、なんかばれたとか……?
無意識にぎゅうっと鉄棒を握りしめながら、音を立てないようにそおっと口の中に溜まっていたつばを飲んだ。
で、でも、だったら即効あたしのところへ誰かが「話を聞きたい」とかって言ってくるもんじゃない? あたし誰にも言ってないし、なんにも訊かれてないし。だって、そんな。でも、もしかしたら。
「あー、そんなに心配すんなって。そんなんじゃねーから」
あたしの顔を覗き込んで先生がくすっと笑う。本を閉じてそっと紙袋に差し込んで、先生は空を見上げながら大きく息を吐いた。
「バレるわけねーだろ。あいつは巧いことやってっから」
くしゃっと髪をつかむようにあたしの頭をなでて、それにな、と曖昧な笑みを浮かべたまま先生は言葉を続けた。
「もしヤバいことになっても、誰一人として口を割らねーだろうよ。あいつは悪くないって、どこまでもかばうんだろうぜ。おまえも含めて、全員がな。――なんでだろうな、ムカつくよな」
あんな悪党もなかなかいねーんだけどな、とかブツブツ言いながら、先生は曲げた両ひじを背中のほうに突き出してゆっくりと胸を反らした。さっきまでお行儀よく収まっていた筋肉がぐうっとスーツの内側から盛り上がってきて、タイトなシャツのボタンホールを容赦なく左右に引っ張る。うわっ破けそうって思った瞬間に先生が深い息をつきながら腕をおろして、なんとかシャツは無事だった。でもほっと胸をなでおろしたのはあたしだけで、先生は服が破れそうになったことも全然気づいてないみたい。
-つづく-
奇妙な沈黙の間を置いて、ページをゆっくりめくりながら先生がそう言った。
「なにを?」
「そっか、やっぱ知らねーか」
唐突に自分から言い出しておいてひとりで納得したように頷くけど、その言い方じゃ、もし聞いてたとしてもどの話なんだか全然検討つかないんですけど。
「あのな、仁がな。学校、辞めるってよ」
「え……」
漏れたのは、ほとんど意味のない音だった。あたしが絶句したのを確認するように、先生がゆっくりと顔を上げる。横目であたしを見て、そしてなにも言わずにまた本へ視線を戻した。
「それって……どういう意味?」
「どうって、まんまだろ」
興味なさそうに言いながら本を読んでるふりをしながら、先生はあたしを見ている。あたしがどんな顔をしてるのか観察してる。それはわかっていたけど。
辞めるって、教師を辞めるってこと? それとも学校を変わるってこと? だったらなんで?
――まさか、なんかばれたとか……?
無意識にぎゅうっと鉄棒を握りしめながら、音を立てないようにそおっと口の中に溜まっていたつばを飲んだ。
で、でも、だったら即効あたしのところへ誰かが「話を聞きたい」とかって言ってくるもんじゃない? あたし誰にも言ってないし、なんにも訊かれてないし。だって、そんな。でも、もしかしたら。
「あー、そんなに心配すんなって。そんなんじゃねーから」
あたしの顔を覗き込んで先生がくすっと笑う。本を閉じてそっと紙袋に差し込んで、先生は空を見上げながら大きく息を吐いた。
「バレるわけねーだろ。あいつは巧いことやってっから」
くしゃっと髪をつかむようにあたしの頭をなでて、それにな、と曖昧な笑みを浮かべたまま先生は言葉を続けた。
「もしヤバいことになっても、誰一人として口を割らねーだろうよ。あいつは悪くないって、どこまでもかばうんだろうぜ。おまえも含めて、全員がな。――なんでだろうな、ムカつくよな」
あんな悪党もなかなかいねーんだけどな、とかブツブツ言いながら、先生は曲げた両ひじを背中のほうに突き出してゆっくりと胸を反らした。さっきまでお行儀よく収まっていた筋肉がぐうっとスーツの内側から盛り上がってきて、タイトなシャツのボタンホールを容赦なく左右に引っ張る。うわっ破けそうって思った瞬間に先生が深い息をつきながら腕をおろして、なんとかシャツは無事だった。でもほっと胸をなでおろしたのはあたしだけで、先生は服が破れそうになったことも全然気づいてないみたい。
-つづく-
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