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2010年12月01日 (水)
「うん。オリエンテーションって言ってたかなぁ、なんかね、説明会があって。でもこんないっぱい教科書渡されるなんて思わなかった」
「数学、生物、化学、文学、歴史と……盛りだくさんだな」
顔をしかめたあたしに先生は半笑いで頷くと、指先で紙袋を開いて中を覗き込んだ。端から順番に背表紙を確かめる、興味津々な横顔は素直でかわいい。
「でも、これでもまだ半分くらいなんだよ。残りは選べるらしいんだけど、ここのは全学部必須教科だって」
「教養は四十五単位、だったっけか? 確かにあれはな、結構な」
つらいぞーって笑うその顔は、まるであたしが大変になるのを楽しみにしてるみたい。言っとくけど、あたしが泣きそうなときは先生だってヒドイ目に遭うのが決定なんだからね! とか、心の中でつぶやいてみる。そのうちきっと泣くんだから。泣いてもらうんだから。
「ホントにこれ全部やるのかなぁ。やだなー」
「そりゃそうだろ、って、うわっ、哲学に心理学もかよっ」
「読みたい? 貸してあげるよ」
「いらねーっ」
苦いものを食べてしまった子どもみたいな顔の即答に笑ってしまう。イヤな思い出でもあるのか、眉をひそめたまま哲学と心理学の本を紙袋の底のほうにしまいこむと、先生は生物の本を取り出した。へーとか言いながら、ぱらぱらとページをめくっていく。
「入学式はあさってでね。なんか、式のあとにクラス分けするのに英語のテストをするんだって。あたしなんかどーせ下のクラスってわかってるのに、やだなー」
「あー、そーだな」
あたしの英語能力に関しちゃそれは確かに事実だけど、その同意のしかたもどうなのよって文句を言ってやろうと思って顔を見ると、先生の視線はページに向かったまんまで、どうやらあたしの話をちゃんとは聞いてないみたい。それはそれでちょっとむっとするけど、でも生物の教科書を熱心に読んでるのを見ると邪魔しちゃ悪いかなとも思う。担当教科が気になっちゃうのは仕方ないかなって気もするし。
立ったまま読み続ける横にそっと並んで、さっきまでの先生みたいに鉄棒に腰をもたせかけた。見るともなく見上げると、地面から突き出たビルの隙間から通りをはさんでT字型の空が広がっていた。いつの間にか四月になっちゃったなぁ、そう言えばなんかバタバタしてて桜見そびれちゃったなぁ、でもきっともう散っちゃってるよねって、ぼーっと考えごととも言えないようなことを考えていると、『なぁ、春奈』って隣から聞こえた。
「んー、なぁに?」
声に顔を向けたけど、でも先生は本に目を落としたままあたしを見ずに、あのな、とだけ言った。自分から呼びかけといてあたしを見もしないのって、普段の先生から考えると、なんかヘンなの。
-つづく-
「数学、生物、化学、文学、歴史と……盛りだくさんだな」
顔をしかめたあたしに先生は半笑いで頷くと、指先で紙袋を開いて中を覗き込んだ。端から順番に背表紙を確かめる、興味津々な横顔は素直でかわいい。
「でも、これでもまだ半分くらいなんだよ。残りは選べるらしいんだけど、ここのは全学部必須教科だって」
「教養は四十五単位、だったっけか? 確かにあれはな、結構な」
つらいぞーって笑うその顔は、まるであたしが大変になるのを楽しみにしてるみたい。言っとくけど、あたしが泣きそうなときは先生だってヒドイ目に遭うのが決定なんだからね! とか、心の中でつぶやいてみる。そのうちきっと泣くんだから。泣いてもらうんだから。
「ホントにこれ全部やるのかなぁ。やだなー」
「そりゃそうだろ、って、うわっ、哲学に心理学もかよっ」
「読みたい? 貸してあげるよ」
「いらねーっ」
苦いものを食べてしまった子どもみたいな顔の即答に笑ってしまう。イヤな思い出でもあるのか、眉をひそめたまま哲学と心理学の本を紙袋の底のほうにしまいこむと、先生は生物の本を取り出した。へーとか言いながら、ぱらぱらとページをめくっていく。
「入学式はあさってでね。なんか、式のあとにクラス分けするのに英語のテストをするんだって。あたしなんかどーせ下のクラスってわかってるのに、やだなー」
「あー、そーだな」
あたしの英語能力に関しちゃそれは確かに事実だけど、その同意のしかたもどうなのよって文句を言ってやろうと思って顔を見ると、先生の視線はページに向かったまんまで、どうやらあたしの話をちゃんとは聞いてないみたい。それはそれでちょっとむっとするけど、でも生物の教科書を熱心に読んでるのを見ると邪魔しちゃ悪いかなとも思う。担当教科が気になっちゃうのは仕方ないかなって気もするし。
立ったまま読み続ける横にそっと並んで、さっきまでの先生みたいに鉄棒に腰をもたせかけた。見るともなく見上げると、地面から突き出たビルの隙間から通りをはさんでT字型の空が広がっていた。いつの間にか四月になっちゃったなぁ、そう言えばなんかバタバタしてて桜見そびれちゃったなぁ、でもきっともう散っちゃってるよねって、ぼーっと考えごととも言えないようなことを考えていると、『なぁ、春奈』って隣から聞こえた。
「んー、なぁに?」
声に顔を向けたけど、でも先生は本に目を落としたままあたしを見ずに、あのな、とだけ言った。自分から呼びかけといてあたしを見もしないのって、普段の先生から考えると、なんかヘンなの。
-つづく-
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