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2008年10月08日 (水)
「別に、言いたいことなんて――」
「シズくん?」
わざとらしいくらい自然な仕草で欧米人のように両手を広げるポーズを取ろうとした彼の目を真正面から覗き込んだ。言葉を遮られた彼が気を悪くしたようにむっと唇を尖らせたけれど、今回ばかりはいくらわたしでも譲る気にはなれない。そんなわたしの決意が伝わったのか、彼は諦めたように小さく溜息をついて、そして少しだけ俯いた。
「えーとね、えっとー」
どこか子どものような口調でそう言ってから、なぜか彼は言いよどんだ。何度か口を開いて、けれど声にならないまま困ったように息を吐く。
ちくちくと厭味で突付いてわたしが怒るように仕向けたのは彼のはずなのに、なぜかその視線は戸惑っていた。わたしを真正面から見返すことさえできず、視界の端を行ったり来たりしている。珍しすぎるほど珍しいそんな態度に、わたしのほうが彼をいじめているような気さえしてきた、そのとき。
「あのさ。あの、昨日ね」
思い切ったように顔を上げて彼がわたしを見た。
「その……。浅谷で、美雪さんを見かけたって人がいて」
「うん」
それが優しい声に聞こえるようにと意識して頷いた。わたしのそんな返事に安心したのか、彼が小さく頷き返す。そのことに安堵したわたしの耳に届いたのは、とんでもない言葉だった。
「その人が、その……美雪さんが、男と、デートしてたって」
言い難そうに何度も息継ぎをしながら、それでも彼はわたしを見つめていた。真っ直ぐに向けられた瞳の絶望的な暗さと、わたしの変を何ひとつ見落さないと言いたげな鋭さに圧倒された。だから、問い返すようにそれ自体に全く意味のない音を口から出すのにさえ、ほんの少しではあったけれど時間がかかった。
「え?」
首を傾げてパチパチとまばたきをする。
男と、デート。
それはつまり、彼以外の男性とデートしていた、と。
――誰が?
-つづく-
「シズくん?」
わざとらしいくらい自然な仕草で欧米人のように両手を広げるポーズを取ろうとした彼の目を真正面から覗き込んだ。言葉を遮られた彼が気を悪くしたようにむっと唇を尖らせたけれど、今回ばかりはいくらわたしでも譲る気にはなれない。そんなわたしの決意が伝わったのか、彼は諦めたように小さく溜息をついて、そして少しだけ俯いた。
「えーとね、えっとー」
どこか子どものような口調でそう言ってから、なぜか彼は言いよどんだ。何度か口を開いて、けれど声にならないまま困ったように息を吐く。
ちくちくと厭味で突付いてわたしが怒るように仕向けたのは彼のはずなのに、なぜかその視線は戸惑っていた。わたしを真正面から見返すことさえできず、視界の端を行ったり来たりしている。珍しすぎるほど珍しいそんな態度に、わたしのほうが彼をいじめているような気さえしてきた、そのとき。
「あのさ。あの、昨日ね」
思い切ったように顔を上げて彼がわたしを見た。
「その……。浅谷で、美雪さんを見かけたって人がいて」
「うん」
それが優しい声に聞こえるようにと意識して頷いた。わたしのそんな返事に安心したのか、彼が小さく頷き返す。そのことに安堵したわたしの耳に届いたのは、とんでもない言葉だった。
「その人が、その……美雪さんが、男と、デートしてたって」
言い難そうに何度も息継ぎをしながら、それでも彼はわたしを見つめていた。真っ直ぐに向けられた瞳の絶望的な暗さと、わたしの変を何ひとつ見落さないと言いたげな鋭さに圧倒された。だから、問い返すようにそれ自体に全く意味のない音を口から出すのにさえ、ほんの少しではあったけれど時間がかかった。
「え?」
首を傾げてパチパチとまばたきをする。
男と、デート。
それはつまり、彼以外の男性とデートしていた、と。
――誰が?
-つづく-
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