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2008年04月19日 (土)
待ち合わせギリギリの五分前、なんとか遅刻なしで辿り着いたわたしの目の前には、可愛らしい軽自動車が停まっていた。手に入れたばかりのパンプスのかかとを鳴らして駆け寄り窓から覗き込むと、仕事のときのままの格好の彼がシートに背を深くもたせかけて眼を閉じていた。眉のあいだに深くしわが入り、きつく結んだ唇の端が歪んでいる。
もしかしたら、彼はひどく疲れているのかもしれない。今日のこの時間を作るためにムリをしたのかもしれない。普通の金曜の夜でも忙しいのに、ホワイトディとなればクラブは大盛況だろう。そんな中で仕事を抜けてくるのは大変だったのだろう。
そう思った瞬間、ノックの要領で窓ガラスを叩こうと軽く握った手を引っ込めてしまった。どうしようと意味もなく周囲を見回していると、その窓ガラスがゆっくりと下がって彼が顔を覗かせた。
「なんだ、もう来てたんだ」
窓にひじを突き出すように軽く身を乗り出すと、彼は小さく笑った。その笑顔がいつもより少し力がないように見えて、なぜか慌ててしまう。
「あ。う、うん。ゴメンね、待たせちゃった?」
「全然」
いつもより幾分かぶっきらぼうに言うと、彼はわたしをじっと見つめた。彼の視線がゆっくりと顔から胸元へ、そしてもう少し下へと下がっていくのがわかる。さすがにパンプスまでは見えなかったのだろうが、それでもわたしの全身を眺めてから、彼はくすっと笑った。
「可愛いね、今日のカッコ」
「あ、ありがと」
今日のためにと選んだワンピースはどうやら間違いはなかったらしい。ピンクベージュのストールとの相性も、想像していたよりずっとよかった。
「乗って乗って。もう行くから」
「あ、うん。はい」
うながされて、彼のイメージからは程遠い、丸いヘッドライトと鮮やかすぎるエメラルドグリーンの車体に乗り込んだ。
マンボウやフグを連想させるちょっとぷくっと膨れたこの車は、彼の友だちの彼女さんが使っていたものらしい。何年かして買い換えるとき、この個性的な色が原因で下取り価格がひどく低く、それならばと中古車を探していた当時の彼に相場よりも随分と安い値段で売ってくれたのだと言う。
ゴメンね、こんな車で。美雪さん、隣に乗るの恥ずかしい? イヤ?
初めてこの車を見たとき、あまりの色に立ちすくんでしまったわたしに、彼は申し訳なそうに俯いた。そのときの表情を覚えている。彼を愛しいと思った。その気持ちは今も変わらない。増えることはあっても、減ることはない。
これからも、きっと。
-つづく-
もしかしたら、彼はひどく疲れているのかもしれない。今日のこの時間を作るためにムリをしたのかもしれない。普通の金曜の夜でも忙しいのに、ホワイトディとなればクラブは大盛況だろう。そんな中で仕事を抜けてくるのは大変だったのだろう。
そう思った瞬間、ノックの要領で窓ガラスを叩こうと軽く握った手を引っ込めてしまった。どうしようと意味もなく周囲を見回していると、その窓ガラスがゆっくりと下がって彼が顔を覗かせた。
「なんだ、もう来てたんだ」
窓にひじを突き出すように軽く身を乗り出すと、彼は小さく笑った。その笑顔がいつもより少し力がないように見えて、なぜか慌ててしまう。
「あ。う、うん。ゴメンね、待たせちゃった?」
「全然」
いつもより幾分かぶっきらぼうに言うと、彼はわたしをじっと見つめた。彼の視線がゆっくりと顔から胸元へ、そしてもう少し下へと下がっていくのがわかる。さすがにパンプスまでは見えなかったのだろうが、それでもわたしの全身を眺めてから、彼はくすっと笑った。
「可愛いね、今日のカッコ」
「あ、ありがと」
今日のためにと選んだワンピースはどうやら間違いはなかったらしい。ピンクベージュのストールとの相性も、想像していたよりずっとよかった。
「乗って乗って。もう行くから」
「あ、うん。はい」
うながされて、彼のイメージからは程遠い、丸いヘッドライトと鮮やかすぎるエメラルドグリーンの車体に乗り込んだ。
マンボウやフグを連想させるちょっとぷくっと膨れたこの車は、彼の友だちの彼女さんが使っていたものらしい。何年かして買い換えるとき、この個性的な色が原因で下取り価格がひどく低く、それならばと中古車を探していた当時の彼に相場よりも随分と安い値段で売ってくれたのだと言う。
ゴメンね、こんな車で。美雪さん、隣に乗るの恥ずかしい? イヤ?
初めてこの車を見たとき、あまりの色に立ちすくんでしまったわたしに、彼は申し訳なそうに俯いた。そのときの表情を覚えている。彼を愛しいと思った。その気持ちは今も変わらない。増えることはあっても、減ることはない。
これからも、きっと。
-つづく-
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