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2007年11月21日 (水)
「やっぱメガネ男子は流行りだしー……どしたの、春奈?」
「ん、ちょっと」
右手のケータイを軽く上げるとチカちゃんはすぐに意味がわかったみたいで、キレイにグロスを塗ったぽってり唇の端を歪めてにいっと笑った。並んだ椅子の隙間を抜けるようにみんなから離れてから、そっと通話ボタンを押す。
「はい、もしもし?」
「――芝口か?」
探るような響きの混じったその声に、どくんと心臓が波打った。
「はい」
なんでもない顔のままそう頷いた。それでも思わずぎゅうっとケータイを握りしめてしまう。
名乗らなくてもわかる。聞き間違えるはずもない。一流のヘアメイクアーティストが描いたみたいな眉と、切れ長の目に浮かぶ物憂げでクールな表情、すうっと伸びた鼻筋。シャープな頬のラインと、嘘みたいにキレイな唇。
「武志から話は聞いた。今日の放課後は空いているか?」
「はい」
バクバク震える心臓が、のどにまでせり上がってきたみたい。声がかすれる。どうしよう、手が震えそう。
「じゃあ、そのときに」
会話はそれだけだった。ぷつんと途切れた手の中の小さな機器をポケットに戻す暇もなく、ガラリとドアが開く。
「はい、座れ! ショートホームルーム始めるぞーっ」
いつもの大声を上げて藤元先生が大またで入ってくる。みんなが慌てて自分の席に向かう。あたしもケータイをポケットにしまいながら急いで席に戻った。スカートを直しながら座って教卓を見上げると、藤元先生と視線がカチリと合った。
先生は一瞬だけ戸惑ったように眉をひそめかけて、でもあたしを見たままかすかに頷いた。別に合図を決めていたわけじゃないけど、だいたいわかる。誰にも見咎められない程度に軽く頷き返すと、先生は小脇に抱えていた出席簿を開いた。そこに書かれている名前をいつものように大きな声で辿り始める。もうあたしを見ない。でも痛いほどあたしを意識しているのはわかっている。先生はあたしを無視できない。
順番に呼ばれる名前。響く声。いつもの朝、いつもの教室。
でも。
今日の放課後――。
それでもみんな、表向きだけはいつもと同じ朝、同じ顔。
-おわり-
「ん、ちょっと」
右手のケータイを軽く上げるとチカちゃんはすぐに意味がわかったみたいで、キレイにグロスを塗ったぽってり唇の端を歪めてにいっと笑った。並んだ椅子の隙間を抜けるようにみんなから離れてから、そっと通話ボタンを押す。
「はい、もしもし?」
「――芝口か?」
探るような響きの混じったその声に、どくんと心臓が波打った。
「はい」
なんでもない顔のままそう頷いた。それでも思わずぎゅうっとケータイを握りしめてしまう。
名乗らなくてもわかる。聞き間違えるはずもない。一流のヘアメイクアーティストが描いたみたいな眉と、切れ長の目に浮かぶ物憂げでクールな表情、すうっと伸びた鼻筋。シャープな頬のラインと、嘘みたいにキレイな唇。
「武志から話は聞いた。今日の放課後は空いているか?」
「はい」
バクバク震える心臓が、のどにまでせり上がってきたみたい。声がかすれる。どうしよう、手が震えそう。
「じゃあ、そのときに」
会話はそれだけだった。ぷつんと途切れた手の中の小さな機器をポケットに戻す暇もなく、ガラリとドアが開く。
「はい、座れ! ショートホームルーム始めるぞーっ」
いつもの大声を上げて藤元先生が大またで入ってくる。みんなが慌てて自分の席に向かう。あたしもケータイをポケットにしまいながら急いで席に戻った。スカートを直しながら座って教卓を見上げると、藤元先生と視線がカチリと合った。
先生は一瞬だけ戸惑ったように眉をひそめかけて、でもあたしを見たままかすかに頷いた。別に合図を決めていたわけじゃないけど、だいたいわかる。誰にも見咎められない程度に軽く頷き返すと、先生は小脇に抱えていた出席簿を開いた。そこに書かれている名前をいつものように大きな声で辿り始める。もうあたしを見ない。でも痛いほどあたしを意識しているのはわかっている。先生はあたしを無視できない。
順番に呼ばれる名前。響く声。いつもの朝、いつもの教室。
でも。
今日の放課後――。
それでもみんな、表向きだけはいつもと同じ朝、同じ顔。
-おわり-
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