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2007年06月02日 (土)
それでも俺がまだずっと子どもの頃には母親もそれなりに元気で、家族みんなで食卓を囲んでいた。晩酌のビールで酔ってはワケのわからない昔話を始める父親と、穏やかに笑っていた母親。あのときの笑顔と美雪さんの今の雰囲気は、すごく似て……。
ふと自分の内側から浮き上がってきたその考えにぞくりと背筋が凍る。シャツの内側で肌が泡立っていくのがわかる。
――俺は今、誰と誰を比べようとしていた?
「シズくん……?」
掛けられた声に顔を上げようとして、いつのまにか自分が俯いていたことに気付く。向けられていた訝しげな表情に慌てて作り笑いを浮かべた。
「なあに、美雪さん」
「え、あ……。ううん、なんでも」
納得していない顔のまま、それでも彼女は頷いてくれる。
こう言う時、普段は幼く見える彼女が俺よりもずっと大人なのだと改めて思う。俺が言いたくないことをムリに詮索することはなく、聞いて欲しい話を途中で遮ることもない。踏み込みすぎず落ち着いて見守ってくれる。その穏やかな空気を物足りないと感じることもあるけれど、だからこその楽しみもある。
ギャップはやっぱ、いいよな。
内心でそう呟きながら皿に残ったご飯を片付け、コップを一気に干す。まだ疑問を残した瞳にわざとらしくにっこりと笑いかける。
「じゃあ食べ終わったことだし、デザートに行きますか」
手を伸ばして空になった皿と箸を片付け始めると、甘いもの好きの彼女は嬉しそうに目を輝かせた。
「え、シズくん、デザートも作ってくれたの?」
「ううん、作ってないよ」
「え?」
戸惑う彼女を尻目に重ねた皿を持って立ち上がる。こじんまりとしたキッチンの片隅の小さな流しの中に食べ終えた食器をそっと置いてから振り返った。俺の言葉を理解していない丸い眼が物問いげに向けられていた。
こういうとき、おかしなくらい鈍い美雪さんも、可愛い。
「じゃあ、えっと……?」
首をかしげながら俺を見上げる彼女の様子に笑みを噛み殺しながら、手を伸ばしてピンクのスウェットに包まれた細い腕を引っ張る。眉をひそめたまま、けれどおとなしく立ち上がったくれた彼女を抱き寄せる。
「でも、俺にとってはデザートなんだ」
しかも、この上なく甘い。
-つづく-
ふと自分の内側から浮き上がってきたその考えにぞくりと背筋が凍る。シャツの内側で肌が泡立っていくのがわかる。
――俺は今、誰と誰を比べようとしていた?
「シズくん……?」
掛けられた声に顔を上げようとして、いつのまにか自分が俯いていたことに気付く。向けられていた訝しげな表情に慌てて作り笑いを浮かべた。
「なあに、美雪さん」
「え、あ……。ううん、なんでも」
納得していない顔のまま、それでも彼女は頷いてくれる。
こう言う時、普段は幼く見える彼女が俺よりもずっと大人なのだと改めて思う。俺が言いたくないことをムリに詮索することはなく、聞いて欲しい話を途中で遮ることもない。踏み込みすぎず落ち着いて見守ってくれる。その穏やかな空気を物足りないと感じることもあるけれど、だからこその楽しみもある。
ギャップはやっぱ、いいよな。
内心でそう呟きながら皿に残ったご飯を片付け、コップを一気に干す。まだ疑問を残した瞳にわざとらしくにっこりと笑いかける。
「じゃあ食べ終わったことだし、デザートに行きますか」
手を伸ばして空になった皿と箸を片付け始めると、甘いもの好きの彼女は嬉しそうに目を輝かせた。
「え、シズくん、デザートも作ってくれたの?」
「ううん、作ってないよ」
「え?」
戸惑う彼女を尻目に重ねた皿を持って立ち上がる。こじんまりとしたキッチンの片隅の小さな流しの中に食べ終えた食器をそっと置いてから振り返った。俺の言葉を理解していない丸い眼が物問いげに向けられていた。
こういうとき、おかしなくらい鈍い美雪さんも、可愛い。
「じゃあ、えっと……?」
首をかしげながら俺を見上げる彼女の様子に笑みを噛み殺しながら、手を伸ばしてピンクのスウェットに包まれた細い腕を引っ張る。眉をひそめたまま、けれどおとなしく立ち上がったくれた彼女を抱き寄せる。
「でも、俺にとってはデザートなんだ」
しかも、この上なく甘い。
-つづく-
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