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2011年04月08日 (金)
「わーわーっ、わーっ!」
ばたばたと両手を振って走る理香の様子は犬に追いかけられ逃げているアヒルのようで、本人の懸命さとはうらはらに妙にほのぼのとした雰囲気を周囲に振りまいていた。社員用通用口にヒールを鳴らして駆け込む理香の姿に、通りがかった年配の清掃員は目を丸くして見送る。思わず漏れた笑いに理香が気付かなかったことは双方にとって実に幸いだった。
「遅刻っ! 遅刻しちゃうっ」
いつもの時間にケータイのアラーム機能で理香が目覚めたのは見知らぬ部屋だった。見覚えのない豪奢な室内に、さすがの理香も慌ててベッドに起き上がった。ぐるっと周りを一通り見回してから素裸の自分に気付き、さらに高瀬との情事を思い出し頭を抱えるまでには五分以上の時間がかかった。
「うわぁ、あたしってば、また……」
突然後ろから近づいてきては拘束しもてあそぶ亮治の強引なセックス、隙間から忍び込んでくるような老獪な達也とのセックス、そして、なぜこうなってしまったのかさえわからない内に始まってしまっていた高瀬とのセックス――。
「ホントに、なにやってんの、あたし……」
この数日で男と肌を重ねた回数を数えることさえできない自分に愕然としながら、それでも理香は勢いをつけてベッドから立ち上がった。ここでもう一度眠ってすべてをなかったことにしたいはやまやまだが、理香は敢えて出社を最優先とした。
「だいたい、近すぎるのよねー」
分厚い高級遮蔽カーテンの向こうには、何本ものビルが空を突き上げる人工的な眺めがあった。しかしどれだけ自然を排したところで、見慣れればどんな光景も不思議と落ち着くものになってしまう。ここが会社の最寄り駅近くの場所であることだけは間違いようがない。もう少し左手側に顔を振れば、理香の出勤すべき場所が視界に入ってくるだろう。現実逃避に仕事をサボったところで、坂道を転げ落ちる雪だるまのように利子がこの身に返ってくることは想像するに難くない。静かに怒る亮治の表情を思い出しかけ、ふいに襲ってきた肌寒さに理香は肩を抱いて首をすくめた。
――だいたい、先輩って昔っからそう言う人だし。絶対あたしのせいにするに決まってるんだから。
これから急いで家に帰って服を着替えてお化粧して、と考えかけ、しかし時間的にそれはムリだと悟る。現時刻は七時で、出社時間は九時。二時間の余裕は、片道一時間弱の通勤時間を計算すれば、往復するだけですべてが擦り切れてしまう。
「うっわ、まずーっ」
眉をひそめ唇を尖らせ、他人が見れば思わず吹き出しそうなしかめっ面で、理香は小さくつぶやいた。
-つづく-
ばたばたと両手を振って走る理香の様子は犬に追いかけられ逃げているアヒルのようで、本人の懸命さとはうらはらに妙にほのぼのとした雰囲気を周囲に振りまいていた。社員用通用口にヒールを鳴らして駆け込む理香の姿に、通りがかった年配の清掃員は目を丸くして見送る。思わず漏れた笑いに理香が気付かなかったことは双方にとって実に幸いだった。
「遅刻っ! 遅刻しちゃうっ」
いつもの時間にケータイのアラーム機能で理香が目覚めたのは見知らぬ部屋だった。見覚えのない豪奢な室内に、さすがの理香も慌ててベッドに起き上がった。ぐるっと周りを一通り見回してから素裸の自分に気付き、さらに高瀬との情事を思い出し頭を抱えるまでには五分以上の時間がかかった。
「うわぁ、あたしってば、また……」
突然後ろから近づいてきては拘束しもてあそぶ亮治の強引なセックス、隙間から忍び込んでくるような老獪な達也とのセックス、そして、なぜこうなってしまったのかさえわからない内に始まってしまっていた高瀬とのセックス――。
「ホントに、なにやってんの、あたし……」
この数日で男と肌を重ねた回数を数えることさえできない自分に愕然としながら、それでも理香は勢いをつけてベッドから立ち上がった。ここでもう一度眠ってすべてをなかったことにしたいはやまやまだが、理香は敢えて出社を最優先とした。
「だいたい、近すぎるのよねー」
分厚い高級遮蔽カーテンの向こうには、何本ものビルが空を突き上げる人工的な眺めがあった。しかしどれだけ自然を排したところで、見慣れればどんな光景も不思議と落ち着くものになってしまう。ここが会社の最寄り駅近くの場所であることだけは間違いようがない。もう少し左手側に顔を振れば、理香の出勤すべき場所が視界に入ってくるだろう。現実逃避に仕事をサボったところで、坂道を転げ落ちる雪だるまのように利子がこの身に返ってくることは想像するに難くない。静かに怒る亮治の表情を思い出しかけ、ふいに襲ってきた肌寒さに理香は肩を抱いて首をすくめた。
――だいたい、先輩って昔っからそう言う人だし。絶対あたしのせいにするに決まってるんだから。
これから急いで家に帰って服を着替えてお化粧して、と考えかけ、しかし時間的にそれはムリだと悟る。現時刻は七時で、出社時間は九時。二時間の余裕は、片道一時間弱の通勤時間を計算すれば、往復するだけですべてが擦り切れてしまう。
「うっわ、まずーっ」
眉をひそめ唇を尖らせ、他人が見れば思わず吹き出しそうなしかめっ面で、理香は小さくつぶやいた。
-つづく-
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