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2010年11月15日 (月)
「今日でもそうだ。ここでおまえを一人で帰してみろ、またふらふらするんだろうが、おまえは」
「そんなこと……」
しないと思うけど、でも声をかけてきた人がもしも佐上先生に似ていたら。そんなことはまずありえないってわかってるけど、それでも万が一、とってもよく似てたら。
「声かけられてついて行って、トラブルにでも巻き込まれたらどうすんだ? 俺にまた、足を棒にして捜し回れってか?」
そりゃ迷惑かけたんだろうなって思うけど、それにしたって、なんだってそんなイヤそうな顔するかな。もうちょっと普通に言えばいいのに。そんな目で見られると、ムダにドキドキしちゃう。
「絶対にそんなことないって言い切れねーだろうが。でもそれじゃ、俺も困ンだよ」
黙ってうつむいたあたしをどう思ったのか、先生は苦々しげに吐き捨てた。
どんなに似てても佐上先生本人じゃないし、別人なんだから完璧まったくおんなじってことはなくて、髪型とか服とか年齢とか声とかしゃべりかたとか、どこかに決定的に違う部分が入ってるはず。違う部分が目に付くはず。
でもどんなに違うところがあっても、それでも似てるって思ってしまったら。そのときあたしは断るかな。断れるかな。何度考えても、断れないような気がする。ウソでもいいから抱かれたいって、そう思ってしまうような気がする。
「おまえがな、今も仁のことを好きだってのは、わかってんだよ、俺も」
短くなったタバコを丁寧にもみ消してから、先生はつぶやくように言った。その名前に、名前が示す人に、自分の気持ちに、あたしは黙るしかない。
「だから、俺じゃ代わりになれないってこともな。でもな、それでも、俺でも、話を聞くことくらいは、できンだろ?」
迷うように選ぶように、ゆっくりと先生は言う。ぽつぽつと途切れながらそれでも続く先生の声を聞きながら、あたしはうつむいて手の中のカギを握りしめた。
先生の言葉は、限りなくあたしの本音だった。藤元先生じゃ佐上先生の代わりにはならない。藤元先生は藤元先生で好きだけど、でも比べちゃうとダメ。これだけいろいろ気を使ってもらってても、あたしを簡単に切り捨てた冷たい背中が好きなんて、藤元先生には言えない。言えないのに言ってないのに、どうして知ってんのよ。どうしてわかっちゃうのよ。
「家に居たくねーってんなら、ウチへこい。メシぐらい食わせてっから」
佐上先生はもうあたしを振り返ってくれない。だから、藤元先生を代わりにするしかない。そんなふうに納得しかけているあたしは、なんて自分勝手なんだろう。それなのに、先生はそれでもいいって言う。大切にしてくれるって言う。
こんなあたしに、こんなにまじめに。
「俺とのセックスが嫌なら、もうやらねーから。ただのメシ友。それなら別にいいだろ?」
うわ、どうしよう。――泣きそう。
-つづく-
「そんなこと……」
しないと思うけど、でも声をかけてきた人がもしも佐上先生に似ていたら。そんなことはまずありえないってわかってるけど、それでも万が一、とってもよく似てたら。
「声かけられてついて行って、トラブルにでも巻き込まれたらどうすんだ? 俺にまた、足を棒にして捜し回れってか?」
そりゃ迷惑かけたんだろうなって思うけど、それにしたって、なんだってそんなイヤそうな顔するかな。もうちょっと普通に言えばいいのに。そんな目で見られると、ムダにドキドキしちゃう。
「絶対にそんなことないって言い切れねーだろうが。でもそれじゃ、俺も困ンだよ」
黙ってうつむいたあたしをどう思ったのか、先生は苦々しげに吐き捨てた。
どんなに似てても佐上先生本人じゃないし、別人なんだから完璧まったくおんなじってことはなくて、髪型とか服とか年齢とか声とかしゃべりかたとか、どこかに決定的に違う部分が入ってるはず。違う部分が目に付くはず。
でもどんなに違うところがあっても、それでも似てるって思ってしまったら。そのときあたしは断るかな。断れるかな。何度考えても、断れないような気がする。ウソでもいいから抱かれたいって、そう思ってしまうような気がする。
「おまえがな、今も仁のことを好きだってのは、わかってんだよ、俺も」
短くなったタバコを丁寧にもみ消してから、先生はつぶやくように言った。その名前に、名前が示す人に、自分の気持ちに、あたしは黙るしかない。
「だから、俺じゃ代わりになれないってこともな。でもな、それでも、俺でも、話を聞くことくらいは、できンだろ?」
迷うように選ぶように、ゆっくりと先生は言う。ぽつぽつと途切れながらそれでも続く先生の声を聞きながら、あたしはうつむいて手の中のカギを握りしめた。
先生の言葉は、限りなくあたしの本音だった。藤元先生じゃ佐上先生の代わりにはならない。藤元先生は藤元先生で好きだけど、でも比べちゃうとダメ。これだけいろいろ気を使ってもらってても、あたしを簡単に切り捨てた冷たい背中が好きなんて、藤元先生には言えない。言えないのに言ってないのに、どうして知ってんのよ。どうしてわかっちゃうのよ。
「家に居たくねーってんなら、ウチへこい。メシぐらい食わせてっから」
佐上先生はもうあたしを振り返ってくれない。だから、藤元先生を代わりにするしかない。そんなふうに納得しかけているあたしは、なんて自分勝手なんだろう。それなのに、先生はそれでもいいって言う。大切にしてくれるって言う。
こんなあたしに、こんなにまじめに。
「俺とのセックスが嫌なら、もうやらねーから。ただのメシ友。それなら別にいいだろ?」
うわ、どうしよう。――泣きそう。
-つづく-
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