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2009年06月18日 (木)
「えっと、その……。失礼します」
さよならとかまたねとか、ましてやバイバイなんて言えなくて、あたしは運転席の先生に頭を下げた。無言で小さく頷く先生を一呼吸だけ見つめてからドアを開ける。鞄と傘を引っつかんで、まだ少し雨の残った中を裏門に向かって走る。
裏門は道向こうが雑木林になってることもあって、人通りがほとんどないから大丈夫だとは思うけど、でも用心に用心を重ねて、素早く車の乗り降りをする。先生の車から降りるところを誰かに見られちゃダメ。疑いを持たれたらなにもかもおわり。
「うわ、濡れたー」
錆びた門の横から道に大きく伸びた枝の下へ駆け込むより早く、先生の車は流れるようにすうっと発車して行った。鞄についた水滴をパタパタはたきながら遠ざかる影をそっと見送る。
多分、ぐるっと回って正門から学校へ戻って行くんだろう。そして何事もなかったように午後の教壇に立つんだろう。瞳にハートマークを浮かべたデキの悪い生徒たちを相手に、いつもの冷たい表情で数Ⅱの公式を黒板に書いて淡々と説明していくんだろう。
――そんなの、前からわかってることじゃん。
口の中で小さく呟きながら傘を開いて、そしてあたしは溜息をついた。
先生とえっちできるだけでいいって本気で思ってるけど、でも先生が無言で立ち去って行く、この瞬間だけはイヤ。優しい笑顔を見せて欲しい。別れの言葉が欲しい。次の逢瀬の約束が欲しい。望めば望むほど自分が惨めになっていくのはわかってるけど――。
「やめやめやめっ」
視界を歪ませるように浮き上がってきた涙を振り払った。
どうしようもないことを考え続けてもどうにもならない。いつまでもヘコんでちゃダメ。元気に振る舞えば、ウソでも元気になる。元気。あたしは元気。
「さぁーってと、もう帰ろっ」
くるりとかかとを返して、駅に向かう坂道を降りる。
-つづく-
さよならとかまたねとか、ましてやバイバイなんて言えなくて、あたしは運転席の先生に頭を下げた。無言で小さく頷く先生を一呼吸だけ見つめてからドアを開ける。鞄と傘を引っつかんで、まだ少し雨の残った中を裏門に向かって走る。
裏門は道向こうが雑木林になってることもあって、人通りがほとんどないから大丈夫だとは思うけど、でも用心に用心を重ねて、素早く車の乗り降りをする。先生の車から降りるところを誰かに見られちゃダメ。疑いを持たれたらなにもかもおわり。
「うわ、濡れたー」
錆びた門の横から道に大きく伸びた枝の下へ駆け込むより早く、先生の車は流れるようにすうっと発車して行った。鞄についた水滴をパタパタはたきながら遠ざかる影をそっと見送る。
多分、ぐるっと回って正門から学校へ戻って行くんだろう。そして何事もなかったように午後の教壇に立つんだろう。瞳にハートマークを浮かべたデキの悪い生徒たちを相手に、いつもの冷たい表情で数Ⅱの公式を黒板に書いて淡々と説明していくんだろう。
――そんなの、前からわかってることじゃん。
口の中で小さく呟きながら傘を開いて、そしてあたしは溜息をついた。
先生とえっちできるだけでいいって本気で思ってるけど、でも先生が無言で立ち去って行く、この瞬間だけはイヤ。優しい笑顔を見せて欲しい。別れの言葉が欲しい。次の逢瀬の約束が欲しい。望めば望むほど自分が惨めになっていくのはわかってるけど――。
「やめやめやめっ」
視界を歪ませるように浮き上がってきた涙を振り払った。
どうしようもないことを考え続けてもどうにもならない。いつまでもヘコんでちゃダメ。元気に振る舞えば、ウソでも元気になる。元気。あたしは元気。
「さぁーってと、もう帰ろっ」
くるりとかかとを返して、駅に向かう坂道を降りる。
-つづく-
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