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2007年01月01日 (月)
「もしもし、美雪さん? あのさ、今日のことなんだけど……」
それは、待ち合わせ時間三十分前に彼からかかってきた電話だった。右手でパチパチとキーボードを押さえながら、左手で支えた携帯電話から流れてくる声に耳を澄ませる。
「あ、うん。七時にでしょ」
付き合うようになって一箇月記念日。
初めて聞いたその記念日が、一般的にどれほど認知されているのかはわからない。どんなカップルでも当たり前にすることなのかどうか、高校生の頃に一度だけのお付き合いしかしたことのないわたしには見当のつけようもない。有理が『シズにしては気の効いたことを』と笑っていたから、全く聞かない話でもないらしい。わたしの認識はその程度だった。だから、それほどこの日に執着していたわけではなかった。ただ、彼がその日を大切にしようと、そう思ってくれていることが嬉しかった。
そうは言っても、特に何をするわけでもない。予約する必要もないくらいの、気楽に行ける値段のレストランで夕食を摂って、そしてホテルに行く。予定はただそれだけで、本当に普段のデートと何も変わることのないものだったけれど、それでもとても楽しみにしていた。
「仕事はもう終わりだから――」
「あ、いや、そのちょっと、実は……」
時間には間に合うと、そう告げようとした言葉が彼に遮られる。その奇妙に暗い響きに、頭の中に嫌な予感が湧き上がる。黙り込んだわたしに彼は言い難そうに続けた。
「えーと、その。さっき、急な予定が入っちゃって」
「なっ……」
思わず言葉に詰まる。
「だから今日は、ちょっと……その……」
「え。だって、今日って」
「うん、わかってる。ごめんね、言い出したの俺なのに」
こんなギリギリになって。
申し訳なさそうな彼の声に、逆に怒りがつのる。彼の言う『急に入った予定』が何であるのかも行き先も、その相手さえもわかっているからなおさらだった。これが仕事だからという理由なのであれば、渋々であっても納得できたのにと思うと悔しい。
「本当にごめん。この埋め合わせはきっとするから――」
だからわたしは彼の言葉にそれ以上は何も答えずに、赤いマークのついた小さなボタンを押して通話を終えた。そしてケータイの電源を落として、何もなかったような顔で仕事に戻って、そのまま一時間の残業をした。
-つづく-
それは、待ち合わせ時間三十分前に彼からかかってきた電話だった。右手でパチパチとキーボードを押さえながら、左手で支えた携帯電話から流れてくる声に耳を澄ませる。
「あ、うん。七時にでしょ」
付き合うようになって一箇月記念日。
初めて聞いたその記念日が、一般的にどれほど認知されているのかはわからない。どんなカップルでも当たり前にすることなのかどうか、高校生の頃に一度だけのお付き合いしかしたことのないわたしには見当のつけようもない。有理が『シズにしては気の効いたことを』と笑っていたから、全く聞かない話でもないらしい。わたしの認識はその程度だった。だから、それほどこの日に執着していたわけではなかった。ただ、彼がその日を大切にしようと、そう思ってくれていることが嬉しかった。
そうは言っても、特に何をするわけでもない。予約する必要もないくらいの、気楽に行ける値段のレストランで夕食を摂って、そしてホテルに行く。予定はただそれだけで、本当に普段のデートと何も変わることのないものだったけれど、それでもとても楽しみにしていた。
「仕事はもう終わりだから――」
「あ、いや、そのちょっと、実は……」
時間には間に合うと、そう告げようとした言葉が彼に遮られる。その奇妙に暗い響きに、頭の中に嫌な予感が湧き上がる。黙り込んだわたしに彼は言い難そうに続けた。
「えーと、その。さっき、急な予定が入っちゃって」
「なっ……」
思わず言葉に詰まる。
「だから今日は、ちょっと……その……」
「え。だって、今日って」
「うん、わかってる。ごめんね、言い出したの俺なのに」
こんなギリギリになって。
申し訳なさそうな彼の声に、逆に怒りがつのる。彼の言う『急に入った予定』が何であるのかも行き先も、その相手さえもわかっているからなおさらだった。これが仕事だからという理由なのであれば、渋々であっても納得できたのにと思うと悔しい。
「本当にごめん。この埋め合わせはきっとするから――」
だからわたしは彼の言葉にそれ以上は何も答えずに、赤いマークのついた小さなボタンを押して通話を終えた。そしてケータイの電源を落として、何もなかったような顔で仕事に戻って、そのまま一時間の残業をした。
-つづく-
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