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2006年12月02日 (土)
黙って見ていると、靴を脱ぎ終えた彼はその紙袋を指に引っ掛けた。中に入っているのが空気だけであるかのような軽い持ち上げかたに首をひねる。
なんだろう、あれ。
さっきと同じ問いを繰り返しながらその様子を眺めていると、なぜか少し恥ずかしそうな笑みが返ってきた。見られたという表情に知らん顔を続けるのも不自然かと、紙袋を指差してみる。
「なあに、それ」
「あ、うん。ええと」
口ごもりながら彼は椅子の背に手を置いて、そしてわたしへとちらりと視線を向けた。それに頷いて見せると彼は軽く頷き返してから椅子を引いて座る。テーブルに紙袋を乗せて腕を組んで、そして真っ黒の瞳がわたしを見上げてきた。
「あのさ、全部終わったんだ。借金も、返してきた」
彼の言葉に思わず息を飲む。
「えっ? でもだって、まだ一年でしょ?」
わたしと彼と、そしてオーナーと有理の四人で話した日から一年――正確には一年と三箇月経っていた。八桁にも上るという彼の実家の借金は、バーテンダーとしての本職の月収に加えパトロンからの多額の影の収入を得ている彼であっても、最低三年はかかると聞かされていたし、わたしもそう思っていた。
「もう……返しちゃったの?」
「うん。俺、頑張ったもん」
子どものような笑顔でそう言ってから、彼は少しだけ肩を落とす。
「まあ、その稼ぎはアレだからね、あんまり威張れたもんじゃないんだけど。あの人も結局、お金のために利用しただけだったし」
俺って、サイッテー。
小さく呟く彼の寂しそうな横顔に、奇妙なくらい優しい気持ちになる。彼の正面に座って手を伸ばして、俯き加減の頭を軽く撫ぜた。
「シズくんは頑張ってたよ。自分にできるだけのことをしてたんだから、あの人だってそれはわかってるんじゃないかな」
心の底からそう言って、そして彼の髪を指でつまんだ。いつもよりワックスが少なめなのか、あまりキラキラしてないけれど、ハリネズミのように尖った髪の感触が楽しい。
「シズくんは優しいからね」
-つづく-
なんだろう、あれ。
さっきと同じ問いを繰り返しながらその様子を眺めていると、なぜか少し恥ずかしそうな笑みが返ってきた。見られたという表情に知らん顔を続けるのも不自然かと、紙袋を指差してみる。
「なあに、それ」
「あ、うん。ええと」
口ごもりながら彼は椅子の背に手を置いて、そしてわたしへとちらりと視線を向けた。それに頷いて見せると彼は軽く頷き返してから椅子を引いて座る。テーブルに紙袋を乗せて腕を組んで、そして真っ黒の瞳がわたしを見上げてきた。
「あのさ、全部終わったんだ。借金も、返してきた」
彼の言葉に思わず息を飲む。
「えっ? でもだって、まだ一年でしょ?」
わたしと彼と、そしてオーナーと有理の四人で話した日から一年――正確には一年と三箇月経っていた。八桁にも上るという彼の実家の借金は、バーテンダーとしての本職の月収に加えパトロンからの多額の影の収入を得ている彼であっても、最低三年はかかると聞かされていたし、わたしもそう思っていた。
「もう……返しちゃったの?」
「うん。俺、頑張ったもん」
子どものような笑顔でそう言ってから、彼は少しだけ肩を落とす。
「まあ、その稼ぎはアレだからね、あんまり威張れたもんじゃないんだけど。あの人も結局、お金のために利用しただけだったし」
俺って、サイッテー。
小さく呟く彼の寂しそうな横顔に、奇妙なくらい優しい気持ちになる。彼の正面に座って手を伸ばして、俯き加減の頭を軽く撫ぜた。
「シズくんは頑張ってたよ。自分にできるだけのことをしてたんだから、あの人だってそれはわかってるんじゃないかな」
心の底からそう言って、そして彼の髪を指でつまんだ。いつもよりワックスが少なめなのか、あまりキラキラしてないけれど、ハリネズミのように尖った髪の感触が楽しい。
「シズくんは優しいからね」
-つづく-
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