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2006年12月01日 (金)
「じんぐるべーるじんぐるべーる、すずがーなるっ、っと」
帰る道々鳴り響いていた音楽を口の中でなぞりながら、カンカンとヒールの音を立てて階段を駆け上がった。口元から上がる息で視界の一部がふわっと曇る。それがなんだか楽しくて、わたしは丸く口を開けてゆっくりと息を吐いた。
「エロい口」
不意に降りかかってきた低い笑みを含んだ声に顔を上げる。
本当は、顔を上げる必要はなかった。声だけで誰なのかはわかるのだから。けれど、わたしは顔を上げて相手を見た。ただ、その顔を表情を見るためだけに。
「シズくんっ」
優しく細まったまなざしがわたしを見ていた。
「どうしたの、こんな時間に」
午後六時半は、わたしには仕事が終わってからののんびりした時間だが、彼にとっては出勤前の忙しい時間だ。わたしのアパートへ寄るような暇はないはずだろう。ネクタイをきちんと締めたスーツ姿というのも珍しい。普段の彼はシャツこそピシリと着こなしているものの、ネクタイを締めることは滅多にない。
「何、どうかしたの?」
けれど彼はわたしの疑問には答えず、部屋で話すからと言った。
見慣れない彼のスーツ姿を眩しく思いながら差し込んだ鍵を回した。ドアを大きく開けて彼を見上げると、彼はにっこりと笑ってわたしの背を軽く押した。先に通るようにという仕草だった。
「珍しいよね、そんな格好」
「うん。ちょっとね」
曖昧に答えながらも彼の笑顔は変わらない。これはかなり嬉しいことがあったなと思いながら靴を脱いで部屋へ入った。鞄を置いて脱いだコートをハンガーに掛ける。テーブルの上のリモコンでエアコンのスイッチを入れて振り返ると、彼は靴を脱いでいた。
なんだろう、あれ。
玄関口の床に見覚えのない小さな紙袋に置かれている。同じく見覚えのないロゴは、黒い流れるような英文字が薄い銀で縁取られたものだった。お洒落な、それでいて落ち着いた雰囲気の紙袋。
シズくんが持ってきた、んだよね?
-つづく-
帰る道々鳴り響いていた音楽を口の中でなぞりながら、カンカンとヒールの音を立てて階段を駆け上がった。口元から上がる息で視界の一部がふわっと曇る。それがなんだか楽しくて、わたしは丸く口を開けてゆっくりと息を吐いた。
「エロい口」
不意に降りかかってきた低い笑みを含んだ声に顔を上げる。
本当は、顔を上げる必要はなかった。声だけで誰なのかはわかるのだから。けれど、わたしは顔を上げて相手を見た。ただ、その顔を表情を見るためだけに。
「シズくんっ」
優しく細まったまなざしがわたしを見ていた。
「どうしたの、こんな時間に」
午後六時半は、わたしには仕事が終わってからののんびりした時間だが、彼にとっては出勤前の忙しい時間だ。わたしのアパートへ寄るような暇はないはずだろう。ネクタイをきちんと締めたスーツ姿というのも珍しい。普段の彼はシャツこそピシリと着こなしているものの、ネクタイを締めることは滅多にない。
「何、どうかしたの?」
けれど彼はわたしの疑問には答えず、部屋で話すからと言った。
見慣れない彼のスーツ姿を眩しく思いながら差し込んだ鍵を回した。ドアを大きく開けて彼を見上げると、彼はにっこりと笑ってわたしの背を軽く押した。先に通るようにという仕草だった。
「珍しいよね、そんな格好」
「うん。ちょっとね」
曖昧に答えながらも彼の笑顔は変わらない。これはかなり嬉しいことがあったなと思いながら靴を脱いで部屋へ入った。鞄を置いて脱いだコートをハンガーに掛ける。テーブルの上のリモコンでエアコンのスイッチを入れて振り返ると、彼は靴を脱いでいた。
なんだろう、あれ。
玄関口の床に見覚えのない小さな紙袋に置かれている。同じく見覚えのないロゴは、黒い流れるような英文字が薄い銀で縁取られたものだった。お洒落な、それでいて落ち着いた雰囲気の紙袋。
シズくんが持ってきた、んだよね?
-つづく-
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