--年--月--日 (--)
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
2005年12月23日 (金)
「もしもし、千紗です。今から会えませんか?」
そう告げると、電話の向こうの相手は簡単にオッケーを出してくれた。
彼氏の部屋から出てすぐ。
駅のそばのセルフサービスのコーヒーショップに、彼はあたしより先に来て待ってくれていた。
こないだ、別れてすぐにケータイにかけてくれたのを無視しちゃったことも、そのくせ突然電話をかけてきた理由も、何も訊かずに、ユーキさんは黙って呼び出されてくれた。あのときはひとりえっちしてました、だなんて言えないし、だからあたしも何も言わなかった。気付いてないふりをした。
「あの。急にお呼び立てしてすみません」
ぺこりと頭を下げるとユーキさんは驚いたようにちょっと目を見張り、そして優しく笑ってくれた。
「たった三日なのに見違えるね。服のせいかな。それ、学校の制服?」
「あ、はい。着替えてくるの面倒だったんで……」
「うんうん。すごく可愛いよ。よく似合ってる」
頷きながら笑ってくれる。お世辞だろうとは思うけど、でもやっぱり褒められたら嬉しい。それが人間心理だけど、中でも飛びぬけて女の子はその傾向が強い。いつだって褒められたい、見て欲しい、気付いてくれなくちゃイヤ。
ユーキさんみたいなおとなの人はそのこともわかってるんだと思う。わがままだなと内心で苦笑しながらも、それも含めて受け入れてくれる。
「えへへ。あ、ありがとうございます」
照れながらお礼を言って、彼に指し示されるままに真正面の席に座った。
「で、今日は急にどうしたの?」
カップを置きながら、ユーキさんはいきなり本題に入った。
「あ、やっぱりなんかご用事ありました? そりゃありますよね。ごめんなさい、あたし何も考えてなくって……」
慌てて謝りかけると、彼はそうじゃないよと笑った。
「千紗ちゃんに呼ばれるんなら、俺はいつでもどこへでも」
おどけた調子でそう言いながら、テーブルの上に立てられていたプラスティックの小さなメニュをあたしの前に置き、なんか飲む、と訊いてくれた。
「あ、ええと。じゃあ、カプチーノで」
「かしこまりました。千紗ひめさま」
すっと立ち上って芝居がかった仕草で仰々しく一礼すると、ユーキさんはそのまま注文用のカウンターに向かった。その後ろ姿は背が高くて肩幅が広くて、かっこいいかも。店員さんと話している横顔も男臭すぎない男っぽさで、短めの髪や少しゴツめのあごのラインなんか、いいかも。柑橘系の匂いも大きな手のひらも切れ長の優しい目も、上手なキスもすごいえっちも、やっぱりあたしは好きかもしれない。
彼のこと、好きかもしれない。
「はい、お待たせしました」
考え込んでいると、目の前に小振りのプラスティックのトレイが置かれた。ふわふわに泡立ったミルクの中から、あたたかいコーヒーの香りが漂ってくる。
「あ、あの。幾らでした?」
鞄から財布を取り出そうとしていると、彼の腕が伸びてきてあたしの手をつかんだ。そのまま引っ張られる。そして彼は、あたしの手の甲に唇を押し付けた。
「あ、ちょ、ちょっ……」
一瞬だったし、周囲はみんな自分たちの会話に夢中だし、誰も見てなかったと思う、けど。でも、こんなところで、いきなりなにを。
「カプチーノ代いただきました」
慌てるあたしに彼は悪戯っぽく笑った。
-つづく-
そう告げると、電話の向こうの相手は簡単にオッケーを出してくれた。
彼氏の部屋から出てすぐ。
駅のそばのセルフサービスのコーヒーショップに、彼はあたしより先に来て待ってくれていた。
こないだ、別れてすぐにケータイにかけてくれたのを無視しちゃったことも、そのくせ突然電話をかけてきた理由も、何も訊かずに、ユーキさんは黙って呼び出されてくれた。あのときはひとりえっちしてました、だなんて言えないし、だからあたしも何も言わなかった。気付いてないふりをした。
「あの。急にお呼び立てしてすみません」
ぺこりと頭を下げるとユーキさんは驚いたようにちょっと目を見張り、そして優しく笑ってくれた。
「たった三日なのに見違えるね。服のせいかな。それ、学校の制服?」
「あ、はい。着替えてくるの面倒だったんで……」
「うんうん。すごく可愛いよ。よく似合ってる」
頷きながら笑ってくれる。お世辞だろうとは思うけど、でもやっぱり褒められたら嬉しい。それが人間心理だけど、中でも飛びぬけて女の子はその傾向が強い。いつだって褒められたい、見て欲しい、気付いてくれなくちゃイヤ。
ユーキさんみたいなおとなの人はそのこともわかってるんだと思う。わがままだなと内心で苦笑しながらも、それも含めて受け入れてくれる。
「えへへ。あ、ありがとうございます」
照れながらお礼を言って、彼に指し示されるままに真正面の席に座った。
「で、今日は急にどうしたの?」
カップを置きながら、ユーキさんはいきなり本題に入った。
「あ、やっぱりなんかご用事ありました? そりゃありますよね。ごめんなさい、あたし何も考えてなくって……」
慌てて謝りかけると、彼はそうじゃないよと笑った。
「千紗ちゃんに呼ばれるんなら、俺はいつでもどこへでも」
おどけた調子でそう言いながら、テーブルの上に立てられていたプラスティックの小さなメニュをあたしの前に置き、なんか飲む、と訊いてくれた。
「あ、ええと。じゃあ、カプチーノで」
「かしこまりました。千紗ひめさま」
すっと立ち上って芝居がかった仕草で仰々しく一礼すると、ユーキさんはそのまま注文用のカウンターに向かった。その後ろ姿は背が高くて肩幅が広くて、かっこいいかも。店員さんと話している横顔も男臭すぎない男っぽさで、短めの髪や少しゴツめのあごのラインなんか、いいかも。柑橘系の匂いも大きな手のひらも切れ長の優しい目も、上手なキスもすごいえっちも、やっぱりあたしは好きかもしれない。
彼のこと、好きかもしれない。
「はい、お待たせしました」
考え込んでいると、目の前に小振りのプラスティックのトレイが置かれた。ふわふわに泡立ったミルクの中から、あたたかいコーヒーの香りが漂ってくる。
「あ、あの。幾らでした?」
鞄から財布を取り出そうとしていると、彼の腕が伸びてきてあたしの手をつかんだ。そのまま引っ張られる。そして彼は、あたしの手の甲に唇を押し付けた。
「あ、ちょ、ちょっ……」
一瞬だったし、周囲はみんな自分たちの会話に夢中だし、誰も見てなかったと思う、けど。でも、こんなところで、いきなりなにを。
「カプチーノ代いただきました」
慌てるあたしに彼は悪戯っぽく笑った。
-つづく-
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++