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2006年07月12日 (水)
店を出て、二人は人ごみの中を指をからめるように手を繋いで歩いていた。
浴衣に足を取られ、小さな歩幅でちょこちょこと歩く千紗に合わせて、和真はいつもよりゆっくりと歩く。右手には、さっきまで千紗が着ていた服一式の入った紙袋が下がっていた。
さっきの、気のせいだったのかな?
上機嫌な顔を見上げ、籐のつるで丁寧に編まれたかごを手に千紗は溜息をついた。それを耳ざとく聞きとがめた和真が歩を緩める。
「もしかして千紗ちゃん、疲れた? お腹空いた?」
「え、あ、ううん。大丈夫だよ」
慌てて首を振るも気遣わしげな表情は変わらない。
「ゆっくりできるとこ、行く?」
さりげないふうを装った言葉の裏に密やかに流れる淫靡な囁きに千紗が気付いたのは、今までの経験からくる、ある種の勘だった。思わず立ち止まり、その顔を凝視する。穏やかに微笑みかけてくる瞳の奥にほの暗い光がちらつくのを確認し、千紗は俯いた。
確かに、今日はそうなるだろうとは思っていた。テスト期間と四半期決算時期が災いして、三週間ぶりの逢瀬だ。以前と違い、逢えるだけでも嬉しいとは思うが、それでも三週間の禁欲期間は長い。互いにその気があるのはわかっていたのだが。
「え、でも……」
もうちょっと後でもいいと思うんだけど。今さっき着たとこなのに。
浴衣は手元に残るのだから、また日を改めて着ればいいのだとわかっていたが、それでも残念なのは事実だった。
「美味しいレストランが入ってるから、ルームサービスも結構楽しめるよ」
「え、えーと……。ユーキさ……」
「和真」
短く返されて千紗は慌てた。
以前に強く言い含められたことのある、『どこであろうともユーキさんと呼んだ場合にはキスをするからね』の言葉が一瞬頭をよぎる。
最近国道沿いにできた、この複合商業施設は客層も多彩だ。夕刻までもう少しと言ったこの時刻、ファッションフロアの通路を行く人は若い女性客を主体に混み合っている。この状況でまさかと思いつつ、さすがに平静ではいられず、千紗は早口で言い直した。
「ええと、でも、和真さん……」
「行こうか」
にっこり。
後ろめたさに付け込むような、反論の言葉を断ち切る鮮やかな笑顔と強引な腕に引きずられ、千紗は下駄を履いた慣れない歩みでエレベータホールへと向かった。
-つづく-
浴衣に足を取られ、小さな歩幅でちょこちょこと歩く千紗に合わせて、和真はいつもよりゆっくりと歩く。右手には、さっきまで千紗が着ていた服一式の入った紙袋が下がっていた。
さっきの、気のせいだったのかな?
上機嫌な顔を見上げ、籐のつるで丁寧に編まれたかごを手に千紗は溜息をついた。それを耳ざとく聞きとがめた和真が歩を緩める。
「もしかして千紗ちゃん、疲れた? お腹空いた?」
「え、あ、ううん。大丈夫だよ」
慌てて首を振るも気遣わしげな表情は変わらない。
「ゆっくりできるとこ、行く?」
さりげないふうを装った言葉の裏に密やかに流れる淫靡な囁きに千紗が気付いたのは、今までの経験からくる、ある種の勘だった。思わず立ち止まり、その顔を凝視する。穏やかに微笑みかけてくる瞳の奥にほの暗い光がちらつくのを確認し、千紗は俯いた。
確かに、今日はそうなるだろうとは思っていた。テスト期間と四半期決算時期が災いして、三週間ぶりの逢瀬だ。以前と違い、逢えるだけでも嬉しいとは思うが、それでも三週間の禁欲期間は長い。互いにその気があるのはわかっていたのだが。
「え、でも……」
もうちょっと後でもいいと思うんだけど。今さっき着たとこなのに。
浴衣は手元に残るのだから、また日を改めて着ればいいのだとわかっていたが、それでも残念なのは事実だった。
「美味しいレストランが入ってるから、ルームサービスも結構楽しめるよ」
「え、えーと……。ユーキさ……」
「和真」
短く返されて千紗は慌てた。
以前に強く言い含められたことのある、『どこであろうともユーキさんと呼んだ場合にはキスをするからね』の言葉が一瞬頭をよぎる。
最近国道沿いにできた、この複合商業施設は客層も多彩だ。夕刻までもう少しと言ったこの時刻、ファッションフロアの通路を行く人は若い女性客を主体に混み合っている。この状況でまさかと思いつつ、さすがに平静ではいられず、千紗は早口で言い直した。
「ええと、でも、和真さん……」
「行こうか」
にっこり。
後ろめたさに付け込むような、反論の言葉を断ち切る鮮やかな笑顔と強引な腕に引きずられ、千紗は下駄を履いた慣れない歩みでエレベータホールへと向かった。
-つづく-
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