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2006年02月22日 (水)
そのあと、ママとユーキさんはなぜか話を切り替えた。
寒い日が続きますねとか、雪がこんなに降る年も珍しいですねとか、そんなどうでもいいような話を二分か三分か、あるいは十五分くらい続けた。そしてふいにユーキさんは時計を見て、もうそろそろ失礼しますと言った。ママはもっとゆっくりして行ってくださったらいいのに、と言った。
いえ、あんまり遅くなっても。
そお? じゃあまたいらしてね。
はい。
明るく二人は笑うと、揃ってあたしを見た。
ちーちゃん、表までお送りしてらっしゃいな。
ママにそう言われて、あたしは黙ってカーディガンを羽織った。
「では、失礼します」
丁寧に頭を下げてドアを閉めて、溜息のように息を大きく吐きだして、それからユーキさんはゆっくりと振り返った。二度まばたきしてから、眼をそらすように視線を足元に向けた。
血の気の引いたような白い頬。乾いた唇。あたしと目が合うことを怖がっているような眼。あたしが何か言うことを怖れているような、そんな横顔。
こういうユーキさんは久し振りに見るなあなんて、そんな場合じゃないのに、あたしは頭のどこかでのんびりと考えていた。
ユーキさんがあたしと目が合うのを避けるのは、そこに何か問題があるから。それは大問題だったこともあるし、あたしにとってはたいしたことじゃなかった場合もあった。
でも今回はきっと、簡単な問題じゃない。
勘みたいなものでそれはなんとなくわかっていたのだけれど、形の見えない不安が怖すぎて、あたしはそれに気付かないふりをした。あたしさえ気付かなければ、ママもユーキさんも何もなかったことにしてくれるかもしれない。バカみたいにそう信じていた。そう信じようとしていた。
「千紗ちゃん、ごめんね」
なのに、どうしてユーキさんは謝るんだろう。あたしは何も気付いてないよ。わかってないの。だから、謝る必要なんか……、ないのに。
「でも俺は、千紗ちゃんが好きだから」
低い声。小さい声。
いつも自信満々で笑っているユーキさんはそこにいなかった。
「――自分勝手な言い分かもしれないけど、それだけはどうか信じて」
意味不明な言葉とオレンジの匂いを残して、ユーキさんは帰って行った。
-つづく-
寒い日が続きますねとか、雪がこんなに降る年も珍しいですねとか、そんなどうでもいいような話を二分か三分か、あるいは十五分くらい続けた。そしてふいにユーキさんは時計を見て、もうそろそろ失礼しますと言った。ママはもっとゆっくりして行ってくださったらいいのに、と言った。
いえ、あんまり遅くなっても。
そお? じゃあまたいらしてね。
はい。
明るく二人は笑うと、揃ってあたしを見た。
ちーちゃん、表までお送りしてらっしゃいな。
ママにそう言われて、あたしは黙ってカーディガンを羽織った。
「では、失礼します」
丁寧に頭を下げてドアを閉めて、溜息のように息を大きく吐きだして、それからユーキさんはゆっくりと振り返った。二度まばたきしてから、眼をそらすように視線を足元に向けた。
血の気の引いたような白い頬。乾いた唇。あたしと目が合うことを怖がっているような眼。あたしが何か言うことを怖れているような、そんな横顔。
こういうユーキさんは久し振りに見るなあなんて、そんな場合じゃないのに、あたしは頭のどこかでのんびりと考えていた。
ユーキさんがあたしと目が合うのを避けるのは、そこに何か問題があるから。それは大問題だったこともあるし、あたしにとってはたいしたことじゃなかった場合もあった。
でも今回はきっと、簡単な問題じゃない。
勘みたいなものでそれはなんとなくわかっていたのだけれど、形の見えない不安が怖すぎて、あたしはそれに気付かないふりをした。あたしさえ気付かなければ、ママもユーキさんも何もなかったことにしてくれるかもしれない。バカみたいにそう信じていた。そう信じようとしていた。
「千紗ちゃん、ごめんね」
なのに、どうしてユーキさんは謝るんだろう。あたしは何も気付いてないよ。わかってないの。だから、謝る必要なんか……、ないのに。
「でも俺は、千紗ちゃんが好きだから」
低い声。小さい声。
いつも自信満々で笑っているユーキさんはそこにいなかった。
「――自分勝手な言い分かもしれないけど、それだけはどうか信じて」
意味不明な言葉とオレンジの匂いを残して、ユーキさんは帰って行った。
-つづく-
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